そんな中、向井先生が披露してくれたのはウエットティッシュの箱を子供に見立てて迫ってくる車から”前回り受け身”をしながら救い出すというアクション再現。あまりにも華麗な身のこなしだったので参加者から「かっこいい!」と拍手が湧きおこりました。
そういえば…と思い出したのは、左右に体を倒して受け身をとる”横受け身”と、前転をしながら受け身をとる”前回り受け身”という2つの技は中学校の授業で教えてもらったということ。しかし、当時教えてもらった”前回り受け身”は四つん這いで回りたい方向の手を反対の手と足の間に入れ込んで回ると聞きましたが、今回は入れ込むのではなく回る方向の肘をそのまま着いてから回る方法。
実はこうすることで鎖骨などの怪我を防止することができると指導方法もどんどん進歩しているそうです。戦う上でいかに怪我を防ぐことができるかも嘉納師範の教えなので、今に至るまで指導する先生方は日々考えて柔道に取り組んでいると言います。
私はもともとソフトボールをやっていましたが、グラウンドの土の上で練習をしてきた私にとって、畳からドンっと響く大きな受け身の反発や音の広がりは今までに聞いたことのない全く異なるものでした。
「良い受け身はいい音がする。」そう声を掛けてくださったのは講道館第5代館長の上村 春樹さん。上村館長が高校生の時に指導を受けたのは目の不自由な先生だったと言います。
柔道の技を音で善し悪しを見極めるので、目は誤魔化せても耳は誤魔化せないと指導を受けてきた自身の経験をもとにした言葉をかけていただき、よりいっそう受け身に熱が入りました。
日ごとに技もレベルアップ
朝稽古も中盤になる頃、他の子供や経験者のコースでは”乱取り”など実践に近い稽古をやっていて初心者コースもペアで組み習得していく技が増えてきました。相手の体に対して斜めに抑え込む”袈裟固め”、横から抑え込む”横四方固め”などの固め技。固め技から逃げる方法、相手が抵抗して亀のように丸まった姿勢から固め技に持っていく崩し方などを教わりましたが、その中でも”横四方固め”の練習方法には正直驚きを隠せませんでした。
相手の体に対して90度で体を上から抑え込む技なのですが、手を使わずに重心の移動だけで抑え込むという練習。簡単に逃げられるだろうと思い、力を振り絞りましたが全く逃げられず。単純に上半身で抑えられているだけなのに、身動きが取れなくて結局、先に力尽きてしまいました。この練習では体や重心の使い方がとても技には重要なことが分かるようになります。
そして、遊び感覚でやったのは亀の姿勢から始まる帯取り合いゲーム。自分のお腹に帯を隠して亀の姿勢で守り、相手はその帯をとるために相手を返し、奪った帯をお腹に隠します。相手を崩すことで出来た隙や弱点を狙って攻守を速いスピードで繰り返すのですが、なかなかの運動量…!1分間だけでもヘトヘトになってしまいました。
体も柔道の動きに慣れてきた時、「ちょっとやってみようか!」と突然、向井先生が提案した技がありました。それはオリンピック・パリ大会で女子48キロ級で優勝した角田夏実選手の得意技の”巴投げ”。
こんな初心者にできるのか?と半信半疑になるくらいダイナミックな技です。パリ五輪の混合団体戦の決勝で2階級上の選手から見事な一本勝ちで勝利した角田選手の技を知れると思うとわくわくが止まりませんでした。技の仕組みとしては、相手の真下に入り込み、下から足で押し上げて相手の体を持ち上げるというもの。
難しそうに見えますが、手順が分かると初心者の私でも簡単に相手を持ち上げることができました。しかし、空中に持ち上げられると思考が停止するように身動きが取れなくなりました。実際に投げてはいませんが体感できて良かったですし、この技を警戒されている中でも一瞬の判断で決める強さを持っている角田選手は本当にすごいなと改めて感じました。