東京ドーム8.4個分のスポーツフィールド
キャンパスから坂を10分ほど下ると、網走湖へ向かう道沿いに広大なスポーツコンプレックスが見えてきた。この施設の名は “網走スポーツ・トレーニングフィールド”。 Jリーグやラグビートップリーグチームが合宿を行う天然芝フィールドが7面、全天候型テニスコート16面、ソフトボール場、アーチェリー場、投てき競技専用の練習場が備わっていて、取材当日は少年サッカーチームの合宿で盛り上がっていた。
この中に、北海道学生野球連盟のリーグ戦が開催される野球場もあるため、東京農業大北海道オホーツク野球部はリーグ戦の一部を移動の負担無く開催できるというメリットもある。この日は生憎の雨であったため、室内練習場 “オホーツクドーム” に案内されたが、そこがまた凄かった!
東京ドームと同じ、空気の圧力差で屋根膜を支えるエアー・サポーテッド・ドームであるオホーツクドームは、54m×54mの正方形多目的屋内ドーム。全面人工芝の練習場に入ると、冬でも暖かい環境の中で選手たちが汗だくになってリーグ戦前の調整を行っている。
天井にボールが当たっても問題がないため、内野ノックに加えてロングティーやマシン打ち、シートバッティングも全力で行える。「雪国のハンデ」と言われる冬の実戦練習不足は、ここ網走市では皆無といった練習環境に地元・網走市が東京農業大北海道オホーツク野球部にかける期待の高さがうかがえる。
強豪大学を支えるのは “人と向き合う” 指導力
勉学に励む環境、野球に打ち込める環境とハード面を強調した紹介が続いたが、東京農業大オホーツク野球部が全国屈指の強豪大学であり続ける一番の要因は、三垣 勝巳監督の人柄だ。
「野球の技術のことは殆ど指導しないです(笑)。選手たちとは、ひとりの人間同士として日々向き合っています。社会に出てからどういった振る舞いができるか。NPBや社会人野球に進んでも、一般企業に就職しても一番大事なことを身につけることのできる野球部であれと思っています」と、笑顔で話す三垣監督に対する選手・スタッフの信頼は厚い。
第73回全日本大学野球選手権大会での戦い、そして網走で見た練習とリーグ戦。いずれも大学野球部にもかかわらず、高校球児のように溌剌と声を出して元気にプレーする姿が印象的だ。大学野球は洗練されたスマートなイメージだが、「よぉし!しゃぁ!」と、どの選手からも常に声が出る。良いパフォーマンスを見せた選手には、方々から「いいね!」と褒める声がさらに大きく響き渡る。
「確かに、高校野球と大学野球は違います。技術のレベルはもちろん、落ち着いた振る舞い、知性に溢れているのが大学の野球部です。しかし、高校野球に比べて自由である一方、自己責任が伴う大学野球なのですが、個人ではなく組織として周囲の方から評価をいただくことが多いところは高校野球と一緒なのです」と、集団としての一体感を醸成する上で、声出し、声かけの多いチーム作りをする理由を教えてくれた三垣監督。
「このチーム作りは、社会に出て上司や先輩・後輩、取引先の方に好かれるような人になってくれるよう、野球部という集団生活を通じて学んでもらうことが大学野球最大の目的だと思うのです」と続ける三垣監督は、選手たちにいつも「お節介を焼け」と指導しているのだとか。
「他人に興味を持つことは、今の時代では求められていないコミュニケーションかも知れません(笑)」と前置きをした上で三垣監督は、「学生は体力、精神力ともにまだまだ波があります。つい、キツい態度を取ってしまうこともあるし、落ち込んでしまうこともあります。そういった起伏に富んだ感情が交差する中で、『どうした?』『話しを聞くぞ!』という声かけが出来ること。それが、チームの団結力を高めていますし、選手たちが一回りも二回りも成長してこの野球部を巣立っていくのです」と、温かい目で選手を見つめながら教えてくれた。