確かに、世田谷キャンパス内にある生協には、東京農大ブランドのお酒や菓子などがずらりと並んでいて、取材した私たちも見たことのない商品の数々に思わずテンションが上がる。ここには北海道オホーツクキャンパスがある北海道網走市の商品なども取り揃えられており、生鮮食料品がなくとも農業大学ならではの特別感がある。
加えて、北海道オホーツクキャンパスの収穫祭では、硬式野球部が主催する地域の子どもたちを対象とした野球大会、野球教室も地域の人たちと東京農業大学を繋ぐ絆の一つとして人気を博しているという。
「網走にはプロスポーツチームがないので、収穫祭の野球教室で指導してくれたオホーツク野球部のお兄さんたちは、屈強で優しい地元のヒーローでした」と、少年時代の思い出を話してくれたのは、北海道オホーツク野球部に所属している佐々木 聖和投手(2年・旭川実業高)だ。
網走市で生まれ育った佐々木投手は、「周りにある広場でいつも野球ばかりやっていました」と話す野球小僧。収穫祭で触れあった北海道オホーツクの野球部に感化され、「必ず地元のヒーロー・農大オホーツク野球部に入部するんだと、一生懸命練習に取り組みました」と、甲子園出場経験のある名門・旭川実業高で腕を磨き、念願の ”ヒーロー戦隊” の一員となった。
さらに、東京農業大学北海道オホーツク硬式野球部の選手たちは、合宿費を捻出するためにシーズンオフは地元の水産加工会社や農家さんの仕事を手伝うことで、必然的に地域との絆が深まっている。東京都心の世田谷と神奈川の厚木、そして北海道の網走と、全く異なるそれぞれの地域に溶け込み、地域に笑顔をもたらしている東京農業大学。「人物を畑に還す」という建学の精神を貫き、地元から応援していただける身近な存在になっていることは、地域を元気にするという現代の社会課題を解決する成功事例と言える。
地域課題の解決に一役買う北海道オホーツクキャンパス
ますます進む少子高齢化は、日本全国のどの地域、どの社会にも影響を与えている日本で取り組むべき最優先の社会課題。1989年に開設され、36年目となる北海道オホーツクキャンパスが網走市とその周辺地域の課題を解決する重要なピースとなっている。
網走市の人口33,420人(2020年12月現在)に対して、北海道オホーツクキャンパスの学生は約1,600人。しかも学生の7割が首都圏の高校を出た学生が占めるため、網走市における東京農業大学北海道オホーツクの存在感は大きい。また、網走市及び周辺の主要産業である、農業・漁業・観光業といった地域産業と学びの分野がマッチしているため、地域密着型の教育・研究に取り組める環境にあることもさらに効果を高めている。
東京農業大学北海道オホーツク野球部の副部長でもある生物産業学部 自然資源経営学科 農業創生研究室の菅原 優教授は、リーグ戦で躍動する選手たちを頼もしい目で見ながら話す。
「私が教育・研究活動にあたっている自然資源経営学科は、生物資源や自然資源を活用し、地域産業やビジネスの持続的発展を担いうる人材の育成を目標に掲げ、生物生産学部の文理融合教育の理念に合わせて設立された経営学系の学科です。硬式野球部の選手たちの多くが私たちの学科に所属しているのですが、一般学生をリードしてグループワークをしたり、プレゼン発表をしたり、ゼミでも学年幹事をしている学生もいるなど、頼りになる存在なのです」と、学業においても三垣 勝巳監督が目指す人格形成を主眼に置く大学野球指導が活きていることを教えてくれた。