創部100年に迫る伝統を継ぐ
今年6月、大学野球の聖地・明治神宮野球場で開催された第73回全日本大学野球選手権大会で、”大根踊り” を久しぶりに生で観る機会があった。同大会に5年連続出場を果たした、東京農業大学北海道オホーツク硬式野球部が先制点を挙げたシーンで披露した “大根踊り” には、東京農業大学応援スタンドはもちろん、詰めかけた大学野球ファンも一緒に盛り上がっていた。
1931年(昭和6年)設立の “東京農業大学全学応援団” が披露する伝統応援 ”大根踊り” の正式名称は ”青山ほとり”。スポーツの応援に限らず、学園祭(収穫祭)やOBたちの結婚式まで、東京農業大生のアイデンティティを100年近く守り伝えている。
Journal-ONE編集部は今回、地域の方たちと交流を深めるビッグイベント・収穫祭を紹介するため、2日間にわたって東京農業大学世田谷キャンパスで取材を行った。この収穫祭を始めるに重要な式典 “豊受大神宮奉献式” で学歌を奏上する応援団とのご縁をいただき、急遽の現地取材を依頼したところ快諾。農友会に所属する、体育会系団体や文化系団体などの部室が集まる常磐松会館本館での練習を取材した。
応援活動は3部で
全学応援団の活躍を最も多く見かけるシーンはリーダー公演の場面。先に紹介した大学野球の試合や、10年ぶりの出場を果たした箱根駅伝2024といったスポーツ会場の他、地域のお祭りやパレード、イベントにおいて一糸乱れぬパフォーマンスで人々に感動と笑顔をもたらしている。
これらの応援団活動は、全学応援3部(リーダー部、吹奏楽部、チアリーダー部)が行っている。応援団活動の他、それぞれの部では独自の活動も行われており、FIGHTING RADISHのチーム名を持つチアリーダー部は、年に3回のチアリーディング大会で好成績を収めている。
この応援団で気になるのは “全学” という言葉。この全学とは、「全ての学生によって組織される」という意味で、東京農業大学に入学した学生は全員が応援団の団員になる。そして先の3つの部が、応援団の代表になる立場にある。こういった特殊な組織ゆえ、学内では学生団体ではなく特別教育活動機関として位置づけられているのだ。
魂を震わせる演舞の裏に妥協なき練習が
世田谷キャンパス・常磐松会館本館の2階にある中庭。5階まで四方を囲う農友会の部室棟に大きな声と太鼓の音を響かせているのは、応援団リーダー部の通常練習場所だ。ちょうど取材した折、部員たちが繰り返し集散のシーンを練習していた。
現在、リーダー部員は1年生から4年生まで総勢18名、その元をたどれば明治の頃に端を発した、全学生が大挙して駆けつけた対外試合の応援から始まったという東京農業大学の応援起源。恐らくその当時と変わることない熱量で、選手たちに最大で最高の応援を届けるべく、常に反復練習を重ねているという。
この日、練習を統括していたのは4年生の鈴木 優汰副団長(生命科学部 分子微生物学科)。部員の立ち位置から始まり、声の出し方や、指先の細かい所作まで注意を払い都度アドバイスをしている。「指先の向き、腕を振り上げる角度、全てが揃うことで応援の念が届く」と、部員たちにその重要さを伝える鈴木副団長の言葉に大きな声で応える部員たち。
東京農業大学のアイデンティティ
私たちに馴染みのある東京農業大学伝統の応援 “大根踊り” の正式名は ”青山ほとり”。農業を讃え、農業の尊さを訓えた歌詞と、作詞をした学生の故郷・湯の川温泉(北海道函館市)付近の素朴な民謡曲を取り入れたメロディーは、 1923年(大正12年)から学生に広く愛唱され、今では東京農業大学のアイデンティティともいえる応援歌となっている。