「旅とスポーツ観戦」。これはすこぶる相性の良い組み合わせだ。
旅というとやや大袈裟、あるいは少し気障に聞こえるかもしれないので、遠出、としても良いだろう。とにかく、日常とは物理的にも心理的にも少し距離のある場所でのスポーツ観戦には、固有の高揚感があるように思われる。
どこか遠くの場所や、自分にほとんど馴染みのない土地でのスポーツ観戦には、大きくわけて、贔屓にするチームのアウェイ遠征や、遠い場所で開催される何らかの競技の代表戦のように、遠出の主語がスポーツである場合と、行った先でたまたま成り行きから、行き当たりばったりという感じでスポーツ観戦に出くわしたような、あくまでも主体は遠出にある場合とに分類できるかと思う。
世のスポーツ好きのほとんどは前者の形式で、遠出とスポーツ観戦を組み合わせているのではないかと推察するが、後者も「遠出の達人」感が高くて渋い気がする。
いずれにせよ、普段の自分の縄張りの中でスポーツを観戦するのとは異なる、ちょっとした祝祭の雰囲気が、そこにはある。
目的地は初訪問の横須賀に決める
生来出無精の私だが、スポーツ観戦となると話はまた別であり、お世話になっている方から、「ちょっとした旅とスポーツ観戦を題材に何か書いてくれないか?」と依頼されようものなら、二つ返事で引き受けるしかないのである。それがこのような拙文を認めている経緯だ。
そんなこんなで、ちょっとした遠出とスポーツを絡めることはできないかと、ウェブサーチをしていると、春先の火曜日に”横須賀スタジアム”で、”横浜DeNAベイスターズ”2軍の公式戦が組まれているのを発見。

横須賀スタジアム外観∸平床大輔撮影
プレーボールは13時。考えてみれば生まれてこのかた、横須賀へは行ったことがない。近くて遠い場所。それが長らく東京で生活した私にとっての横須賀だ。運よく、その日は特に仕事の上での是非モノ案件は皆無で、実際当日になってみると、晴時々曇で最高気温は20℃。
行ったことのない土地で、生ビールを飲みながら、半袖で遠出の達人を装い、ふらっと出かけて野球観戦。素敵である。サウンズグッドである。遠出の神が「行くべし」と言っている。
と言うわけで4月上旬、私は車上の人となった。
JR東海道線のボックスシートで旅気分を味わう
横須賀を目指すとなると、3年ほど前に移住した湘南の西の端に住んでいる私の場合、最寄りの駅からJR東海道線に乗り、東を目指すことになる。
目的地、横須賀スタジアムへは、途中、大船駅で乗り換えて田浦駅まで行き、そこからバスでスタジアム付近の停留所まで行くのが早いようだったが、遠出をするからには、折角だから最寄駅からの散策も楽しみたいところ。
そこにどんな街が広がっているのか、確かめずに帰るのは勿体無い。三角形の2辺を行くような遠回りにはなるのだが、日和も良いので東海道線で横浜駅まで出て、京急に乗り換え、最寄りの追浜駅から歩くことにした。

追浜駅から正面に夏島貝塚通りをのぞむ∸平床大輔撮影
ところで、普段からお世話になっている贔屓目も多少あるかもしれないが、私は東海道線の車両に潜む旅の気配が好きだ。
個人的に使用頻度の高い15両編成の上野・東京ラインは大抵そうなっているのではないかと思うが、先頭と末尾の2車両に設置された対面式のボックスシートは、どちらかというと、コミューター向けというよりはトラベラー向けであり、長距離移動に欠かせない車内トイレの存在も地味に旅の雰囲気を演出している。
この日も、ホームの端っこから後ろの方の車両に乗り込んだ私は、4人用のボックス席に腰掛けると、スマホを取り出し、横須賀スタジアムを本拠地とするベイスターズ2軍の成績をチェック。
スマホがあると事前に予習をせずとも、イベントの直前に何の苦もなく情報収集ができるので、行き当たりばったりの遠出には強い味方と言えるかもしれないが、あれば最終的にはギリギリのタイミングであっても、何らかの事前準備はしてしまうので、それはそれで「行き当たりばったり」の濃度を希薄にしているかもしれず、何とも微妙なところではある。
電車内で観戦のスタンスを決める
何はともあれ、ベイスターズ2軍についての情報をチェック。何となく予想していたことだが、春先のベイスターズ2軍は強くなかった。というか、有り体に言って弱い。
その時点の順位は4勝9敗1分でリーグ最下位。勝率は.308と、調子の良い打者並みの数字。得点は55で8チーム中3位ながら、失点はリーグワーストの65。チーム打率はリーグ2位の.272ながら、チーム防御率はビリ2の4.08。打てるけど、それ以上に点を取られるチームのようだ。
