四国を元気に!プロジェクト しまなみ絶景サイクリング

四国を元気に!プロジェクト しまなみ絶景サイクリング

TwitterFacebookLinePinterestLinkedIn

岡山県の田園地方に位置する矢掛町の街並みは、山陽道に沿って形成されています。山陽道は、江戸時代に江戸の町と日本各地を結んでいた主要な道のひとつで、大名や武士、従者たちの一行が往来していました。

長旅の道中は頻繁に休憩する必要があったため、山陽道沿いには旅人が休んだり、疲れた体を回復させたりするための宿泊地「宿場町」が多く設けられていました。矢掛宿もそのひとつで、現在では商店街となっている道路沿いには、江戸時代の名残を残す建物がいくつも並んでいます。

イタリアの持続可能な観光をモデルとして矢掛町に誕生した「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型宿泊施設)」は、まさにこういった歴史ある建物を利用し、改築したものです。

なかでも「矢掛屋」は、いくつもの歴史的な建造物を改装し、客室やミニアパートメントのほか、公共の温泉施設やバー、ダイニングルームを設えたアルベルゴ・ディフーゾで、宿泊者はここで地元の人々と触れ合いながら、ユニークな体験をすることができるのです。

今、矢掛町とイタリアの絆はいっそう深まりつつあります。矢掛町は、アルベルゴ・ディフーゾのコンセプトを採用しているだけでなく、東京2020オリンピック・パラリンピック大会におけるイタリアのホストタウンにもなりました。

2021年11月には、ACミランアカデミー東京によるイベントがこの地で開催。そのときアルベルゴ・ディフーゾに宿泊したテクニカルディレクターの元セリエA選手、マヌエル・ベッレーリ氏は、ここが大変気に入ったようで、「都会のストレスから逃れて異色の体験を楽しむのに理想的な場所だ」と話してくれました

それこそが、アルベルゴ・ディフーゾ「矢掛屋」に根ざすコンセプトです。絢爛豪華な大名行列がこの地に宿泊していた頃に思いを馳せ、日本の歴史について宿泊客に知ってもらいたいと考えているのです。

 約900メートルにわたる矢掛町のメインストリートの両側には、約200棟もの建物が並び、毎年11月の第2日曜日には、ここで江戸時代の大名行列を再現したお祭り「大名行列」が行われます。当時の出で立ちに身を包んだ100人ほどの人たちが、駕籠を担いで日本家屋が建ち並ぶ山陽道を練り歩き、かつて大名が宿泊していた本陣(木造の主要建築物)に立ち寄ります。

本陣は今でも保存状態がきわめて良く、博物館として見学することもできます。複数の建物からできていて、大名の間や、従者のための間、本陣職を務めていた一家の酒造場などに分かれています。

本陣の少し先にある脇本陣も、歴史のある建物で、身分の高い者の家族が寝泊りする場所だったそうです。

 本陣・脇本陣や、アルベルゴ・ディフーゾの客室として改装された建物に加え、古民家を利用したカフェやレストラン、ショップなどが建ち並び、この通りを訪れる人たちに商品やサービスを提供しています。

 江戸時代に矢掛町の店で売られていたさまざまな名物の中でも、柚子を使った和菓子「ゆべし」は篤姫のお気に入りで、矢掛町を訪れた際に食されたといいます。この甘く美味な和菓子は、180年前の創業以来、8代にわたって手づくりの伝統を守る「佐藤玉雲堂」で味わうことができます。

 

「ぼっこう堂」も矢掛町の老舗のひとつで、ここでも歴史ある建物を使い、格別に美味しい煎餅(米と小麦粉を使ったクラッカー)づくりを代々継承しています。店の大きな窓からは、大名行列の図柄を焼き付けた、お土産にぴったりの特製煎餅を作る様子を見ることができました。

 

「清邦庵」も注目したい和菓子店のひとつ。季節ごとに10種類の素材を用い、芸術品のように美しい四季折々の菓子を作っています。この店では、熟練した職人の指導のもと、自分で和菓子を作るという特別な体験もできます。自分の手の中で小さな芸術品に命が吹き込まれていく様子を見るのは、ほんとうに感動的でした。

 

矢掛町には歴史だけでなく、新しさも息づいています。御影石とチョコレートへの情熱を融合しているという斬新なチョコレート店「issai」は、家具のすべてが御影石でできているユニークな内装が目を引きます。床、カウンター、テーブル、座席、どれも矢掛産の御影石で作られています。

なかでも注目したいのは、御影石製のチョコレートミル。カカオ豆を挽いてチョコレートを作る独自の機械です。このチョコレートミルは世界でも類を見ないもので、世界中のマスターショコラティエがこの唯一無二の道具を手に入れたいと、大いに興味を示しているそうです。

「issai」はチョコレートについて知り、世界各地で採れるカカオ豆の香りと味を堪能できるまたとない空間ですが、同時に矢掛町の土地にもしっかりと根付いていました。

 

倉敷市から列車で30分ちょっとの場所に位置する矢掛町。マスツーリズムの目的地としてはあまり知られていないかもしれませんが、ほかには見られない魅力にあふれ、東京のきらめきや京都の寺ともまったく異なる、もっと現実的で日常的な日本へと旅人をタイムスリップさせてくれる街でした。

アクセス
岡山
  • 東京駅 東海道・山陽新幹線 > 岡山駅
  • 岡山駅 JR 伯備線 > 清音駅
  • 清音駅 井原鉄道 井原線 > 矢掛駅
取材・文:
ミケラ( イタリア )
この記事の関連記事
TwitterFacebookLinePinterestLinkedIn