プレーオフに望みを繋ぐ
ワールドカップ・イヤーで盛り上がるラグビー!2019年に開催された日本大会では、観戦で来日した海外のファンたちと共に、日本でも多くの人たちがラグビーに熱狂しました。
日本で湧き上がったラグビー熱をそのままに、NTTジャパンラグビー リーグワン 2022-23 ディビジョン1では、最終節に大きなドラマが待っていました。
5月13日から始まるプレーオフ進出に向け、絶対に負けられない東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)が、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)を迎えた一戦。日本ラグビーの聖地・秩父宮ラグビー場に詰めかけた9,566人の観客が集まり、試合前から会場は賑わいに包まれました。
ここまで5位に付ける10勝5敗で勝ち点48の BL東芝。プレーオフ進出圏内の4位、横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)との勝ち点の差は僅かに「1」・・・ 勝って4点、引き分けでも2点の勝ち点を獲得して、横浜Eにプレッシャーを掛けたいところです。
対する埼玉WKは、14勝1敗、勝ち点62で首位を走り、既にプレーオフ進出を決めています。
「プレーオフ出場を決めているチームが、プレーオフ出場権を争うチームと戦うこと。また、先週の試合に敗れていることが、試合を難しくするだろうと思っていました。」と試合後にロビー・ディーンズ監督語っていたように、埼玉WKがチームの立て直しを図れるか? BL東京がプレーオフの椅子を勝ち取る執念を見せるかが重要なポイントとなる試合となりました。
予想外の前半戦
午後7:00のキックオフからキックの応酬で、互いの陣地を行き来する珍しい展開。
「チームとしてブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)を意識していたので、序盤はそんなに悪い感覚はありませんでした。キックの多さに意識がいってしまった中、埼玉WKの切り替えの速さに対応しきれなかった。」と、BL東京の小川 高廣共同キャプテンが振り返ったとおり、激しいブレイクダウンでの攻勢から徐々に試合を有利に進めたのは埼玉WKでした。
前半19分、ラグビーワールドカップ2023でも活躍が期待される、SOの山沢 拓也選手が、中央のペナルティゴール(PG)を外すまさかのプレーに会場がどよめかせましたが、敵陣でプレーを支配する埼玉WKにBL東芝が防戦一方になります。
「ブレイクダウンで相手の攻撃をスローダウンさせられず、オフサイドのペナルティを取られてしまった。プレッシャーが掛かる中、ボールを取り返したときに落ち着いてプレーすることができなかった。」と、BL東京のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチが話したとおり、ペナルティの連続によるイエローカード(10分間の一時的退場)を出され、埼玉WKペースになります。
先ずは29分、ゴール前のラインアウトから攻め続けた埼玉WKが、PR平野 翔平選手のトライとSO山沢選手のゴールで7点を先制!35分には、BL東京のLO梶川 喬介選手が繰り返しの反則でイエローカードとなり、数的有利の埼玉WKが怒濤の攻撃を見せます。
退場直後の37分には、スクラムかたボールを展開してWTBマリカ・コロインベテ選手がトライして、12-0。40分にもラックからボールを奪って、SH内田 啓介選手が立て続けにトライ!
ゴールも決まり埼玉WKが19-0とリードして前半を折り返しました。
「前半にトライを取りに行くことを今週は意識していました。いつもは3点を狙うところでもタッチを狙ったり、スクラムを選んだりして相手にエリアとトライでプレッシャーを掛けたかったゲームでした。その中でカウンターからトライが生まれたのは良いことだと思いますし、ワイルドナイツらしいカウンターアタックだったと思うので、すごく良い判断を全員がしたと思います」と、埼玉WKの坂手淳史キャプテンが振り返ったとおり、“難しい試合” を有利に進めるために準備してきたことが実現した前半戦となりました。
攻防激しく入れ替わる後半戦
3月から6連勝で調子が上向きのBL東京は、「ハーフタイムの時点では希望を持っていました。」とトッド・ブラックアダー ヘッドコーチが期待していたのと同様、ファンも選手たちもこのまま終わるわけにはいきません。
一方の埼玉WKも、「BL東京はポイント数で横浜Eと競っているので、ボーナスポイント(7点差以内の負けは1点)を獲得するためにアタッキングマインドで来ると確認しました。どうやってモメンタム(勢い)を与えないようにするか。その中で後半の40分の1秒目からどうプレッシャーを掛けていくか。ファーストタックル、ファーストコンタクト、ファーストキャリーからドミネート(支配)しようと話しました。」と坂手淳史キャプテンを中心に、チームの意識を統一して後半戦を迎えます。
なんとしても勝利したいBL東京が後半2分、FB松永 拓朗選手のPGで早々に3点を返します。さらに19分、ラインアウトからWTBジョネ・ナイカブラ選手にボールをつないでトライ!8-19と追い上げます。
盛り上がるBL東京ファンを横目に、今度は埼玉WKが23分にPG、24分にはWTB竹山 晃暉選手が飛び込んでトライ!27-8と逆にリードを広げ返します。
意地を見せたいBL東京は、小川 高廣共同キャプテンが「キックを上げたところを再獲得してより前で戦いたいという狙いでした。どれだけ『攻めないといけない』とは言っても、埼玉WK相手に自陣から攻め続けるのは難しいとの判断でやりました。」と語るハイパント攻撃を軸に、ラグビーワールドカップ2023での活躍が期待されるNo8リーチ マイケル選手の力強いキープでボールを支配し、29分にHO橋本 大吾選手がトライを挙げて追いすがります。
攻撃のバリエーションを増やし攻め続けるBL東京でしたが、33分に出したトリッキーなパスを埼玉WKのCTB長田 智希選手にインターセプトを許します。長田選手はそのまま中央にトライ。PGも松田 力也選手がキッチリ決めて34-15!目まぐるしく変わる攻防劇に秩父宮ラグビー場全体がものすごい歓声と熱気に包まれます。
それでも最後まであきらめないBL東京は、35分にFL徳永 祥尭選手がトライし、松永 拓朗選手のPG成功とあわせて34-22と食い下がりますが、7点差以内までは挽回できずに埼玉WKが勝利して2年連続のリーグ戦首位でのプレーオフ進出となりました。敗れたBL東京は勝ち点を挙げることが出来ず、この時点で横浜E(勝ち点49点)のプレーオフ進出が決まりました。
リーグ戦を振り返って
試合後の会見で、BL東京のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチは、「前半に埼玉WKがポゼッションのほとんどを得ていました。私たちはキックの部分、規律の部分で流れを取れませんでした。埼玉WKの経験の高さを見せられました。ただ、選手たちのことを誇りに思います。」と試合を振り返りました。
一方で、今シーズンを振り返り「シーズンが終わってしまったことを寂しく思います。今季は素晴らしいラグビーをプレーできましたし、最後の最後まで挑戦し続けたところは見せられたと思います。」と試合を振り返りました。
「アタックの数値的にはリーグ一と言っても過言ではありません。ラグビーの質に関しても今季はかなり良くなりました。誇りに思っているのは、けが人が出ているにも関わらず、プレーできている選手層の厚みが増したことです。若手はもっと成長できますし、今日の試合から継続して学ぶことが大切です。プレッシャーへの対応、セットピースの重要さが明確になりました。成長できた年だと思いますが、プレーオフトーナメントに出られなかったことは残念です。」と叶わなかったプレーオフ進出に無念さを滲ませるも、チームの成長に満足する1年だったと総括しました。
そして、退席のために席から立ち上がった後、ブラックアダー ヘッドコーチが記者陣に素敵な言葉を投げてくれました。
「チームを代表して改めて伝えさせてください。メディアのみなさんに感謝の気持ちをお伝えします。私たちのチームだけでなく、ラグビー全般を取り上げてもらいました。みなさんの仕事がどれだけインパクトを与えているか、かけがえのないものです。素晴らしい仕事をしてくれてありがとうございます。ラグビーにとって素晴らしいことだと思います。」と。チーム関係者、選手たち、ファンを繋ぎ続けたメディアも “ワンチーム” であるのだと。
プレーオフに向けて
また、埼玉WKのロビー・ディーンズ監督も、「リーグ戦が終了しましたが、良い締めくくりができました。選手たちの働き方はどん欲で満足していますし誇りに思います。先週は馬から転落(唯一の敗戦を喫した)してしまいましたが、その馬にまた乗って駆け出すことができましたについても誇りに思います。今日は、ここまで出場機会のなかった選手たちに出場機会を与えられたのはポジティブなことです。」と今日の試合とリーグ戦を振り返ります。
「ここからまたプレーオフトーナメントが始まります。選手たちはこのためにハードワークしてきましたし、このためにシーズンの最初から努力をしてきています。リカバリーをさせながらプレーオフトーナメントに向けて準備していこうと思います。2週間の期間が空くのは新しいことなのでチャレンジングだと思いますが、やっていかないといけないと思います。」とプレーオフに向けて強い決意も話してくれました。
坂手 淳史キャプテンも、「今日はゲームに対する姿勢、準備に対する姿勢が出て、ハッピーな良いゲームができたと思います。先週の負けからセットピースのところを修正し、良い形でスクラムを組めたと思います。規律の部分も前半はよく守れていましたし、良い形でゲームを進められたと思っています。セットピースや意識の部分はゲームの流れを決めていくものなので、その準備をみんなが100%遂行できたから、今日のようなゲームができたと思います。」と、会心の試合運びを振り返りました。
「チームとしてポジティブで、これから始まるプレーオフトーナメントに向けて良い準備ができましたし、自信の付くゲームになったと思います。」と、プレーオフに向けた手応えもはなしてくれました。
迫る!ラグビーワールドカップ2023
惜しくもプレーオフ進出を逃したBL東京のリーチ マイケル選手は、「力の差と言うよりも、ゲームマネジメントや、自陣でのミスの少なさ、規律の良さなど、チームのスタンダードに差があった。こちらが反則を繰り返して相手を崩すことができなかった。」と残念な表情で埼玉WK戦を振り返りました。
チームの主力にケガが相次いだ中で全16試合に出場したことを問われると、「休まずにここまで来られたことがいいのか分からないが、休まずに動いて方がいい。」と話すリーチ選手。
いよいよ秋にフランスで開催されるラグビーワールドカップ2023に向けて、「4日間くらい休んで、もう一回、コンディションをつくり上げて代表合宿に臨みたい」と話しました。
ジャパンラグビー リーグワン2022-23のディビジョン1は、プレーオフ進出の4チームが決定!今日勝利して首位を決めた埼玉WK、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)、東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)、横浜Eが、5月13日と14日にここ秩父宮ラグビー場で開催される準決勝に進みます。
この準決勝で対戦が決まっている、S東京ベイと東京SGが、リーグ戦最終戦でぶつかる “プレ・プレーオフマッチ” も注目されています! プレーオフの前哨戦となるスピアーズえどりくフィールドも熱い戦いが期待されますので、この試合もレポートしていきたいと思います。