前進、後退、転回などさまざま動きを全員が順番にこなしていきます。ハイポインター用のラグ車とローポインター用のラグ車は見た目が全然違いますが、横一列に並んだチェアワークの練習を見ていると、きれいに動きが揃って動く様子はまるでダンスを見ているかのようです。
特に、瞬発力で一気に加速して急停止!更にラグ車の向きを45°変えてジグザグにストップ&ゴーを繰り返すチェアワークは、見ていてとても難しそう。東京2020で日本を銅メダルに導いたキャプテン・池さんや、AXEの点取り屋・峰島さんのキレのあるチェアワークを見ていると、「あぁ、こういった基礎練習がしっかりできるから試合でも縦横無尽にコートを動き回れるんだなぁ」と納得です。
先の三井不動産 2022 車いすラグビー SHIBUYA CUPに選出された白川 楓也選手や渡邉さん、東京2020銅メダリストの羽賀さん、パラリンピック・リオデジャネイロ大会銅メダリストの山口さん、2022 World Games Low Point Tournamentに出場した乗松さんなどの日本代表メンバーや、アスリート契約で日々肉体を鍛えているFreedomのメンバーのキレの良さにも目を奪われます。先日のSHIBUYA CUPで屈強なオーストラリア代表選手たちの間をすり抜けるようにトライを積み重ねていた白川さん、渡邉さん。その華麗なパフォーマンスは、こういった基礎練習の上にあるんだということが良く分かりました。
そしてFreedomには、まだ競技歴の浅い選手たちも在籍しています。高いレベルの選手たちと同じ練習はとてもキツいと思うのですが、みなさん必死に後を追っていきます。自分を高めるために努力をいとわないアスリートの姿は本当に素敵です。(Freedomのみなさんを詳しく紹介したレポートもあります!)
こういった基礎練習を怠りなくやり続けることが、車いすラグビーの魅力であるスピーディーな試合展開に繋がっているのですね。
観戦ポイント その2:キーエリアでの攻防を見逃すな
基礎練習で培ったチェアワークの実践はもちろん、とっさの判断力も鍛えられるトライライン付近での実践練習は、体力戦と頭脳戦が入り交じった攻防がみられる練習です!
ボールを持った選手の車いすが通過することで得点となるトライライン。ラインの前はオフェンスとディフェンスの激しい攻防が見られる “キーエリア” と呼ばれる特別なゾーンがあり、そこでの攻防に特化した練習も初めて見ることが出来ました。
8mあるトライラインと1.75メートル四方で囲われるキーエリアには、大きなふたつのルールがあります。
1)ディフェンスは3人までしか入れない(=1人はキーエリア外にいなければならない)
2)オフェンスがキーエリアに入って10秒経過した場合、相手にボールの所有権が移る
つまり、オフェンスは3人しか入れないディフェンス側のスペースをついて、トライラインを越えるような攻撃を仕掛けますし、ディフェンスはトライを防ぎながらキーエリアに入った相手を10秒以上閉じ込めてボールを奪うなど、瞬時の判断でさまざまな展開が生まれる激アツ・エリアです。
この練習に入る前に峰島さんが “基本的なディフェンスフォーメーション” を教えてくれました。「キーエリアの両サイドにローポインターがひとりずつ陣取り、8mあるキーエリアの間口を狭めつつサイドからの侵入を防ぎます。そして、中央にハイポインターがふたり並んで相手の突進に合せてディフェンスするんですよ。」と峰島さん。戦国武将や三国志にでてくる戦場のような展開です!
池さんのかけ声でキーエリアに近づいていくFreedomとそれを迎え撃つAXEの攻防から練習が始まりました! 白川さんがサイドに展開してハイポインターを引きつけ、スペースが空いたところに飛び込む選手にパスを入れる! 池さんが正面から突っ込み、渡邉さんがスペースに切り込む! Freedomの多彩な攻撃にも冷静に動きを読んでスペースに誘い込んで、乗松さんと山口さんが挟み込む!とめまぐるしい攻防が続きます。
ディフェンスのローポインターの動きをブロックし、スペースを空けようとFreedomの松岡 幸夫選手、崎山 忠行選手が両サイドで陣取り合戦を展開するなど、ローテーション毎に戦い方のバリエーションが豊富で目が離せません。
その攻防でひときわ奮闘しているのが、Freedomの角 佳樹選手と、森澤 知央(ちお)選手。ハイポインターの角さんは競技歴7年ですが、「私は、この競技では珍しい先天性脳性麻痺(まひ)でプレーをする選手です。病気の性質上、どうしても手足の動きが一瞬遅れてしまうため、上手くプレーが出来ないことがあります。」と話すように、できるだけ速い判断をしようと、激しい攻防の中でも味方の声に耳を傾けます。
また、森澤さんは競技歴がまだ浅いローポインターの選手。AXE・ローポインター選手たちの速い動きに対応しようと、ラグ車を寄せたりスペースに切り込んだりと日本代表クラスの選手たちに食らいついていきます。