ラグビーワールドカップ2023を彷彿させる一戦
4年前の “ラグビーワールドカップ2019” では、ベスト8に進出した日本代表はもちろん、南アフリカ、オーストラリアといった強豪国のパワー、スピード、テクニックにラグビーの面白さを教えてもらった私たち。
いよいよ今年、9月8日からフランスで開催される “ラグビーワールドカップ2023” を心の底から待ち望んでいる方も多いのではないでしょうか?
“ONE TEAM” で盛り上がった日本のラグビー熱をそのままに創設したジャパンラグビー リーグワンのセカンドシーズンはクライマックスに突入!5月13日(土)にプレーオフの火蓋が切って落とされました。
この日対戦したのは、リーグ戦1位通過の前回王者・埼玉パナソニックワイルドナイツと、リーグ最終戦で最後の1席を勝ち獲った横浜キヤノンイーグルスの一戦。
この両チーム、ラグビーワールドカップ2023の日本代表候補はもちろん、他の強豪国代表候補、2019年の日本大会でその実力を見せつけた代表選手などがプレーしているハイレベルなチームなんです。
4ヶ月後には、各国代表のユニフォームを着て、ワールドカップの晴れ舞台で素晴らしいプレーを魅せてくれるであろう選手たちの活躍に注目するのも面白いところです。
青と赤の素敵なファンたち
試合開始2時間弱にも関わらず、スタンドには既に多くのファンが詰めかけています。ワイルドナイツのチームカラーである青と、イーグルスのチームカラーである赤に身を包んで秩父宮ラグビー場に集まったファンは、それぞれのチーム愛、ラグビー愛に溢れた素敵な方たちばかり。
「ワイルドナイツは、三洋電機時代(~2011)から応援しているんです。」と話してくれたのは、執行(しぎょう)圭さん。
ワイルドナイツ愛に溢れる出で立ちについて聞くと、「ラグビーワールドカップ2019の時からこの応援スタイルにしたんです。様々な国から日本にやってくるラグビーファンたちに負けないパフォーマンスで応援しようと考えたんですよ。」と、スマホから当時の応援で使っていたかぶり物を見せてくれました。日本代表のカラーである赤い兜は、戦国武将の真田幸村のデザイン!中央には、ラグビー日本代表のエンブレム “満開の桜” があしらわれている力作です。
「私は家を出るときからこの応援スタイルなんです。この格好で試合後に電車に乗っていると、“今日のワイルドナイツはどうでしたか?” ってパナソニックの社員の方から声を掛けられたりする思わぬ出会いもあって楽しんでいます。」と、ラグビーで繋がる人と人との絆を教えてくれました。
ラグビーの魅力は「やはり屈強な選手同士のコンタクトです。英国紳士のスポーツで、対戦相手を尊敬し、試合が終わってノーサイドのハグをするところを見ると清々しい気持ちになりますね。」と言う執行さん。「イーグルスは多彩な攻撃が自慢のチーム。(静岡ブルーレヴズ戦での敗戦を例に出して)試合は何が起こるか分かりませんので、最後まで一生懸命応援します!」と力強く話してくれました。
「日本代表の試合を観てからすっかりハマってしまいました!」と話してくれたのは、小池 翔さん(11歳)、駿さん(9歳)、凜さん(6歳)の三兄弟を持つお母さんです。
2022年7月9日、国立競技場で行われた日本代表とフランス代表の国際マッチ(リポビタンDチャレンジカップ)を観戦し、家族ですっかりラグビーの虜になってしまったとのこと。
「その後、10月のオールブラックス戦、オーストラリアA代表戦も観戦したんです。」と、その熱心なラグビー愛に驚かされるばかりではありません。「家の近く(町田市)でやっている、イーグルスラグビーアカデミーに通っているんです。」「ラグビーは楽しいです!」と、未来の日本代表に向けて既にプレーも始めているお子さんたちが、明るく元気に話してくれました。
「ワイルドナイツはとても強いチームですが、デクラーク選手を中心に何が何でも点を取って、絶対に勝って欲しいです。」と、応援に向けた準備に余念がありませんでした。
16,237人の青と赤に身を包んだファンの皆さん。選手紹介や選手交代時には、敵味方無く温かい拍手と歓声を選手たちに送るその姿に、“観るスポーツ” の素晴らしさに改めて心が温かくなりました。
波乱の幕開け!日本代表候補同士の激闘!-前半戦
待ちに待った一戦は、開始直後から波乱の幕開けとなりました!
前半2分、W杯2019の日本代表で大活躍した、ワイルドナイツのPR(プロップ)ヴァルアサエリ愛選手がハイタックルでシンビン(一時的退場)になるアクシデント。
いきなり1人少なくなったワイルドナイツは、6分の最初のスクラムでWTR(ウイング)のオーストラリア代表・マリカ・コロインベテ選手がスクラムに回る緊急事態となります。
このピンチを凌いだものの、14分にイーグルスがラインアウトからモールで押し込んで、No8のシオネ・ハラシリ選手が先制トライ! 続けて、W杯2019の日本代表SO(スタンドオフ)田村 優選手がG(コンバージョンゴール)を決めて7点を先制します。
W杯2019では、正確無比なキックで得点ランキング4位(51得点)に輝いた田村選手。間もなく始まるフランス大会でのシーンを彷彿させるタッチライン際からの難しいキックの成功に、スタンド全体からどよめきが起こりました。
追いつきたいワイルドナイツは18分、田村選手と日本代表SOのレギュラーを争う松田 力也選手がPG(ペナルティゴール)を決めて、3-7と追いすがります。
この時、 “日本代表SOのキック対決” が、試合の勝敗に大きく作用するカギになるとは、誰もが想像できなかったのではないでしょうか。
直後の20分、今度はイーグルスが突き放しにかかります。
敵ゴール5mに迫った地点で、W杯2019で世界一に輝いた南アフリカ代表のSH(スクラムハーフ)ファフ・デクラーク選手が魅せます!
その後、陣地中央付近でボールを奪い合う両チームですが、イーグルスの反則に付け入ったワイルドナイツが着実に点を重ねます。
23分と29分に松田 力也選手が立て続けにPGを決めて9-14と迫ると、残り時間も少なくなった35分には、イーグルスの必死のディフェンスの隙を突いてDG(ドロップゴール)!12-14と肉薄します。
この時点でキック対決は、田村“2本”と松田“4本”。誰もが想像し得ない試合展開にスタンドがどよめき始めた38分にスタンドが大声援に包まれました。
リーグ戦4位のイーグルスが首位のワイルドナイツを抑えてゲームを支配しているかに見えた42分。思わぬ展開が待ち受けていました。
イーグルス有利で前半ラストプレーのホーンが鳴ります。ここで、これまで大活躍を見せていた田村選手が、松田選手へのハイタックル。イエローカードで10分間のシンビン(一時的退場)になってしまいます。
このペナルティを松田選手が “5本目” のキックでPGを成功させ、15-17の僅差で前半を終了しました。
世界の強豪国選手が躍動!-後半戦
「イーグルスの激しいプレッシャーでモメンタムを維持することが出来なかった前半だったが、後半は裏に出ようと指示した。」とロビー・ディーンズ監督。坂手 淳史主将も「イーグルスは強く本当にしんどかったが、みんな疲れはなかった。リードされて焦る気持ちはあったが、落ち着いて自信を持って戦おうと後半に臨んだ。」と、23人全員でやるべきことを確認して後半に入ったワイルドナイツ。
司令塔を欠き14人と数的不利な状況で後半戦を迎えたイーグルスに対し、立ち上がり早々の2分からに王者の力を発揮し始めます。
W杯2023日本代表での活躍が期待されるCTB(センター)ディラン・ライリー選手が抜け出し、相手ゴール前までボールを運びます。一気にチャンスを広げたところにフォローに入ったオーストラリア代表のWTB・マリカ・コロインベテ選手がディフェンスの間を切り裂いて逆転トライ!更に松田選手が “6本目” のキックでPGを成功させ、17-22とついに試合をひっくり返しました。
このまま話されるわけにはいかないイーグルスは11分に、FB(フルバック)小倉 順平選手がPGを決めて20-22と肉薄しますが、ワイルドナイツは、W杯3大会連続出場の “ラスボス” 堀江 翔太選手を投入。会場からの大きな歓声を背にモメンタムを渡しません。
すると、ワイルドナイツは13分にタッチライン脇を攻めるディラン・ライリー選手が、ディフェンスの裏にキックでボールを出すと、イーグルスディフェンス陣を切り裂いて走り込んできたのは、マリカ・コロインベテ選手!W杯2023でのオーストラリア代表戦を観ているかのような鮮やかなトライで27-20と突き放します。
更に17分には、オフェンス陣の度重なるアタックでゴールライン手前でプレッシャーを掛け続けると、またもやディラン・ライリーがスピードを活かしてトライ。
この2トライのGを松田選手が “7本目” “8本目” の安定したキックを見せて36-20とあっという間に主導権を握ってしまいました。
何とかしたいイーグルスも、デクラーク選手のW杯2019を思い起こさせる創造的なプレーを軸に徐々にワイルドナイツ陣内に攻め込みますが、ここでアクシデントが起こります。
混戦から抜け出したPRの安 昌豪選手をフォローしようと相手にタックルをした南アフリカ代表のCTB・ジェシー・グリエル選手が頭部への危険なタックルを行ったと判定されてでレッドカードで退場となってしまいました! ここまで好守に献身的なプレーでチームを支えてきた世界屈指のCTBの退場に、イーグルスファンはもちろん、グリエル選手も痛恨の表情でベンチに下がります。
16点のビハインドに14人で立ち向かったイーグルスでしたが、スクラムでペナルティを与えてしまい、PGを松田選手が “9本目” のキックでキッチリ決めて39-20。W杯2023へ強烈なインパクトを残した松田選手は、反撃の芽を摘んでお役御免となります。
「短いキックを続けて相手を崩すことが出来た。ダムをイメージしてもらうと、1つ穴が空けばなだれ込むように水が流れるイメージ。」と、後半ジリジリと相手を崩していった勝因を話したディーン監督が振り返った通り、ここからワイルドナイツが怒濤の攻撃を見せます。
必至に反撃を試みるイーグルスでしたが、31分にマリカ・コロインベテ選手が50mを独走するトライで44-20、更に36分にもモールから出たボールを堀江選手が抜け出してトライ。SOの山沢 拓也選手のGも決まって51-20と圧倒的な攻撃力を見せ、トップリーグからの “3連覇” へ国立競技場での決勝に進むことになりました。
W杯2023日本代表のSOレギュラーを狙う、田村選手・松田選手の対決に、「正直、前半リードされて焦りはあったが、自分のスキルを信じてやった。役割を果たせて良かった。」と9本のキック全成功で24点を叩き出し、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた松田選手はホッとした表情で試合を振り返ります。
一方の田村選手も、「できることは全部やった。経験しなきゃ分からないことだってある。痛い経験をして、そこから学ぶだけです。目標を3位に置き換えてリフレッシュして臨みたい。」と5月19日のラストゲームに気持ちを切り替えていました。
今シーズンの自信と今日の経験を糧に
敗れたイーグルスの沢木 敬介監督は、「前半はある程度戦えた。セミファイナルというプレッシャーゲームの中で、経験の少ない選手が多い中でワイルドナイツと戦えて勉強になったと思う。ここまで積み上げたものは自信を持っていい。今日の負けで全てが消えるわけじゃない。」と今シーズンで得た自信を話します。
「真っ向勝負、力勝負になったら差はまだある。ワイルドナイツは難しいことをあまりせず、シンプルなところでプレッシャーをかけられる良いチーム。リザーブにしても、入ってくる選手たちは自分の役割が頭に入っているから、交代直後にいいパフォーマンスが出せる。」とワイルドナイツから今日得た収穫も教えてくれました。
「ラグビーはもちろん、それ以外の部分でもいい経験になった。」と振り返った嶋田 直人ゲームキャプテンも、「僕が主将をやっている時は勝てなくて、苦しいシーズンばかりだった。今回こういう素晴らしい舞台に立つことができて、ゲーム主将になれたこともうれしいこと。こういうゲームで勝つために何が必要なのか。ファーストタックルでダウンが取れないとリズムが悪くなる。ディフェンスは自信を持っているので気持ちをリセットして次は勝ってシーズンを締めくくりたい。」と3位決定戦に向けて意欲を見せました。
「プレッシャーゲームはちょっとした隙で一気に流れを持っていかれる。嶋田もベテランですけどプレーオフは初めての経験ですしね。今日の経験を活かして3位を獲りに行く。何回も言いますけど、いい経験でした。な?」と語りかけた沢木監督に、嶋田キャプテンも笑顔で頷く。悔しさの中にも明日へ繋がる手応えを感じて会見場を後にしました。
W杯2019で南アフリカを優勝に導いたデクラーク選手。この試合でも、創造性豊かなボール出しや、一寸した隙を突いてボールを奪う俊敏さは、9月のW杯2023でも楽しみなところです。
「前半はあれだけゲームを支配していたのにも関わらず、後半は規律の部分でミスをして相手にチャンスを与えてしまった。」と、後半のレッドカードが出た場面を振り返るデクラーク選手。「14人でプレーする時間帯が長かった。14人では戦い続けてもなかなかディフェンスを崩せません。」と、3位決定戦に向けて気持ちをリセットしていました。
あと一歩で敗れたイーグルスは、5月19日(金)に同じ秩父宮ラグビー場を舞台にした3位決定戦に臨みます。
勝ったワイルドナイツは、翌5月20日(土)に国立競技場に舞台を移し、3連覇を目指してクボタスピアーズ船橋・東京ベイと東京サントリーサンゴリアスの勝者と対戦します。
両チームとも今シーズン最後の試合となる一戦。来るラグビーワールドカップ2023をより楽しむためにも、各国代表選手の活躍は要チェックですね!