”天下分け目” の決戦・関ヶ原の戦いの舞台となった美濃国(岐阜県)で行われた、女子ソフトボール世界最高峰リーグ “JD.LEAGUE(JDリーグ)” の東西地区対抗交流戦シリーズ。
「天下分け目の岐阜決戦・前編」レポートに続き、5月28日に大垣市(大垣市北公園野球場)に繰り広げられた熱戦の後半戦を、各チームの “名将“ に焦点を当ててレポートします。
東軍・下野国 vs 西軍・近江国
第3試合は、ホンダ リヴェルタ(栃木県真岡市)と日本精工ブレイブベアリーズ(滋賀県湖南市)の対戦です。昨シーズンはリーグ4位ながらプレーオフに進出。1勝を挙げた勢いをそのままに、今年もここまで8勝2敗の2位と好位置に付けるリヴェルタと、同リーグ7位、今年も2勝8敗で7位と巻き返しをはかりたいブレイブベアリーズの対戦です。
好調リヴェルタを今年から率いるのは、加藤 一秀監督です。男子ソフトボールで活躍した加藤監督ですが、実は昨年までリヴェルタのコーチをされていたのです。選手のことを良く分かっている新監督での下、選手たちも落ち着いた様子で試合前のアップに臨んでいます。
長身で真っ黒に焼けた笑顔から溢れる白い歯。アニメに登場する爽やかなスポーツマンが実写化されたような加藤監督は、「シーズン前に良い流れは守備から作ろうと言っていたことを、選手が同調して一生懸命やってくれています。それが序盤に勝てている一番の要因ですね。」と、力を注いだ守備力の強化がチームの好調を支えていると話します。
「カーダと、フォードの両外国人投手も昨年のプレーオフ2戦を経験して、更に成長してくれている。特にビックカメラ高崎戦(5月13日の第4節)にも好投してくれて、ようやく勝つことができた。この勝ちもチームに良い流れを作ってくれています。」と、アメリカが誇る両エースの獅子奮迅の活躍に目を細めます。
一方、昨年の東地区首位打者(打率.405)、本塁打10本と打点27はいずれも東地区2位。今シーズン、三冠王に最も近い選手と注目をされている塚本 蛍選手が、波に乗り切れていないことを聞くと、「塚本は、もう戻ってきますよ。練習を見ていても状態はずっと良いんです。あとはちょっとした切っ掛けだけですから、昨年以上の塚本が見られますよ。」と断言していました。
リヴェルタ先発のAlly Carda(アリー・カーダ)投手は、東京2020銀メダリストで、昨年アメリカで開催されたWorld Gamesでもアメリカの金メダル獲得に貢献した選手です。
この名投手をどう攻略するのか?注目のブレイブベアリーズ打線が、初回から “先制攻撃” を仕掛けます。1死から髙原 侑里選手が二遊間に鋭い打球を放って出塁すると、3番の沢 柚妃選手もレフト前へ弾き返して1、2塁と先制のチャンスを作ります。
しかし、国際大会で多くの修羅場をくぐり抜けているカーダ投手は動じません。続く打者を打ち取り、無失点に抑えます。
“戻ってきた” 主砲が火を噴く!
その裏、リヴェルタも攻め返します。先頭の大川 茉由選手が内野安打で出塁すると、2番・下村 歩実選手も “スラップ” というソフトボール特有の打法で内野安打!
1死1、3塁とチャンスを広げ、打席に入るのは “戻ってくる” と加藤監督が予言した4番の塚本 蛍選手です。
「今までは、結果を求めてしまっていた自分がいたので、先ずはしっかりミートをしていこうと打席に入りました。」と試合後に話してくれた塚本選手。ともすれば打ち上げてしまうであろう浮き上がる速球をしっかりと上から叩いたボールは、あっという間に左中間のフェンスを越えていきました!
先制点を奪って喜びに沸くリヴェルタベンチに戻ると、メジャーリーグ(MLB)のロサンゼルス・エンゼルスで話題となっている、大谷 翔平選手やMike Trout(マイク・トラウト)選手らが本塁打を放った後に見せる “兜パフォーマンス” でニッコリ。
予言的中の加藤監督も、3塁コーチャーズボックスから嬉しそうに手を叩いて祝福していました。
これで主導権を握ったリヴェルタかと思われましたが、ブレイブベアリーズも簡単には引き下がりません。1死から𠮷田 樹理選手、弓納持(ゆみなもち)あみ選手、黒木 美佳選手の下位打線3人で満塁のチャンスを作って上位打線に繋ぎます。
2イニング続けてランナーを背負う苦しい展開のカーダ投手ですが、ここから緩急を使ったピッチングでまたもやピンチを切り抜けます。
すると2回裏2死からリヴェルタ打線が爆発します。3番・大工谷 真波選手、4番・塚本選手の連続タイムリーに加藤監督のぐるぐる回す右腕も忙しそうです。さらに1、3塁とすると、6番の木村 愛選手がスリーランホームラン!一挙に5点を奪う “電光石火の連続安打” に試合の大勢が決しました。
「取り切るよ!」と3塁コーチャーズボックスから声を掛け続ける加藤監督に、ベンチの選手たちも「取り切るよ!」と呼応して集中力を切らさず攻撃するリヴェルタ。
4回裏には、“戻ってきた” 主砲の塚本選手がこの日2本目となるホームランを左越えに放つなど、3安打、2ホームラン、6打点の活躍で “Most Wow! Player” に輝くなど、14安打14得点でとブレイブベアリーズ投手陣を打ち崩して大勝しました。
試合後、加藤監督が “塚本選手が戻ってくる予言” をしたことを伝えると、「ミートに徹し、しっかと打つことができました。チームの勝利がより近くなるよう、今日のようにしっかりと打点を挙げられる打撃を見せたいです。」と復調に手応えを感じながら笑顔で答えてくれました。
東軍・上野国 vs 西軍・伊予国
夏を思わせる強い日射しとなったこの日ですが、季節はまだ初夏。夕刻から始まった第4試合は “夜戦”(ナイトゲーム)。今度は、今までレポートしてきた3試合とは異なる、1点を争う息詰まる展開となりました。
昨シーズン5位、今シーズンはここまで3勝8敗の太陽誘電ソルフィーユ(群馬県高崎市)と、昨シーズン5位、今シーズンも4勝6敗で6位の伊予銀行ヴェールズ(愛媛県松山市)。ここまでビッグウェーブを掴みきれない戦いが続きますが、共に昨日の交流戦初戦を勝利した勢いを活かしたい一戦です。
先ずマウンドに上がったのは、昨日完封でチームに3勝目をもたらしたソルフィーユのエースの曽根 はんな投手。シーズン序盤の局面でエースの連投策となりましたが、好調のエースに勢いを付けてもらって流れに乗る作戦です。
対するヴェールズの先発は、ルーキーながら今季2勝を挙げている遠藤 杏樺投手。「東地区には速球派投手が多いので、ストレートだけでは通用しないなと思っていました。配球を考え、緩急と様々な球種を織り交ぜて勝負しました。」と話したとおり、様々な球種を内外角に投げ分けて得点を許しません。
序盤から走者を出すものの先発投手の踏ん張りで、なかなかホームを踏めない両チーム。回を追うごとに高まるスタンドの緊張感と共に、選手たちのプレーはますます研ぎ澄まされていきます。
ヴェールズの快足1、2番コンビ。松瀬 清夏選手と齋藤 明日加選手も、持ち前の転がす打撃で1塁ベースめがけてヘッドスライディングを見せますが、出塁することができません。
「それならば!」と、中軸の3番・辻井 美波選手、4番・本間 紀帆選手でチャンスメイクしますが、連投のエース・曽根投手が力投を見せてこちらも得点を許しません。
中盤に入り、ソルフィーユも4回に6番の向山 琴葉選手が、5回には9番の須田 真琴選手が先頭でヒットを放って得点のチャンスを作りますが、ヴェールズ内野陣のスーパープレーが飛び出して遠藤投手を助けます。
拮抗した “夜戦” は終盤にドラマ!
膠着状態が続く中、最初に動いたのはヴェールズ。6回のマウンドに、3本柱の一角!昨日、強打のホンダ リヴェルタ打線を1失点に抑えて完投勝利を挙げた黒木 美紀投手をマウンドに送ります。対するは、ソルフィーユの主砲・中溝 優生選手。昨年の日米対抗ソフトボールでとして活躍するなど、日本男子ソフトボール界のニュースターとして期待の高い中溝選手が四球で3イニング連続の先頭打者出塁を果たします。
何としても得点圏にランナーを進めたいソルフィーユは、続く木下 華恋選手がバント。これを前進していた一塁手の井上 瑞希選手がライナーで好捕すると、180度後ろのファーストベースに向かって矢のような送球!これを素早くベースカバー入っていた二塁手の芦田 歩実選手が捕ってダブルプレー。またも守備のビッグプレーでヴェールズが流れを引き寄せました。
6回2死無走者、続く向山選手も1-2と追い込まれ、いよいよ7回の攻防で勝負が決するかと思った矢先、前の打席で二塁打を放っていた向山選手のバットが火を噴きました!
真ん中付近の速球を叩くと、レフト頭上への大きなフライ。打球はレフトフェンスに張り付く齋藤選手が見上げる頭上を越えて先制ホームラン!ついにソルフィーユが1点をもぎ取りました。
最終回、何としても追いつきたいヴェールズ。先頭の打率5割・キャプテン安川 裕美選手がヒットを放って反撃の狼煙を上げると、2死ながらも2塁に同点のランナーを進めます。ここで、ソルフィーユの “名将” 山路 典子監督がマウンドに向かい、選手たちを鼓舞。緊張感ある時間が続き、スタンドも必死の応援です。
ヴェールズがひっくり返すか。ソルフィーユが守り切るか。運命の結末は!?
2死1、2塁、フルカウント・・・最後は、曽根投手が踏ん張りきって2試合連続の完封勝利!ソルフィーユが東西対決岐阜の陣を連勝で飾りました。
試合後、ヴェールズの “名将” 石村 寛監督は、「何としても連勝したかった。」と絞り出すように話し始めます。再三好プレーでピンチを凌いだ守備についても、「昨日のホンダ戦でも守備からリズムを作って、接戦を我慢強く戦ってワンチャンスをモノにして勝てました。この試合も接戦に持ち込んでいただけに。」と、悔しさを滲ませながら少しずつ試合を振り返ります。
「(昨日完封した)曽根投手の連投は予想外でしたが、松瀬、齋藤が足でチャンスを作ったり、際どい球を見極めて塁に出たりとチャンスは常に作れていた。(ランナーを)送るべき場面で送ることができなかったことが悔やまれます。バントをする球と見逃す球をしっかり決めて打席に入ることを徹底していただけに悔しい。」と話す石村監督。
開幕戦前の本誌インタビューに応じてくれた石村監督は、男子ソフトボール界で選手として、指導者として “世界で戦う経験を持つ名将” 。インタビューでは優しい笑顔を見せてくれた石村監督ですが、ここでは、勝ち負けの世界を生きる厳しい勝負師の一面を見ることができました。
5月27日、28日に岐阜県を舞台にしたJD.LEAGUE(JDリーグ)東西地区対抗交流戦シリーズは、東軍8勝、西軍8勝と互角の結果。
しかし、交流戦はまだ始まったばかり。6月3日、4日には戦場を京都府京都市、栃木県那須塩原市、愛知県刈谷市、埼玉県朝霞市の4会場に分けて、2節目に突入します。
どの会場も接戦が予想される好カードが揃う交流戦。皆さんもお近くの会場に足を運んで、選手たちの熱いプレーを間近で感じてみてはいかがでしょうか?