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取材・文:
Journal ONE(編集部)
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令和の世の “天下分け目” の戦い

遡ること今から420年ほど前、徳川家康率いる東軍と石田三成率いる西軍が争った ”天下分け目” の決戦・関ヶ原の戦いは、誰もが知る有名な史実のひとつ。
その “天下分け目” の戦いが行われた美濃国(岐阜県)で今年、女子ソフトボール世界最高峰リーグ “JD.LEAGUE(JDリーグ)” に加盟する全16チームが一堂に会した、東西地区対抗交流戦シリーズが行われました。

岐阜市(長良川球場)、大垣市(大垣市北公園野球場)を戦場に、土日で1日4試合ずつ行わる交流戦シリーズ。日ごろ対戦しないチーム同士の試合観戦が楽しみなことはもちろん、16チームの本拠地に馴染み深い戦国武将のイラストと、16チームの紹介文が施されたオリジナルカードがもらえたり、グラウンドでファン参加のイベントが行われたりと、楽しい企画が多数用意されていました。女子ソフトボールのJDリーグ 東西交流戦の来場特典・戦国武将カード-Journal-ONE撮影

Journal-ONEは、令和の世に行われた “天下分け目” の戦いをレポート。戦国の名だたる武将たちが参戦した関ヶ原の戦いと同じく、JDリーグの各チームで采配を振るう “名将” の皆さんにお話を伺いながら5月28日に大垣市で行われた試合をレポートしていきます。

この前編に続き、「天下分け目の岐阜決戦・後編」もありますので、是非読んで下さいね。

東軍・武蔵国 vs 西軍・摂津国

第1試合は、日立サンディーバ(神奈川県横浜市)とシオノギ レインボーストークス兵庫(兵庫県尼崎市)の対戦です。昨シーズンはリーグ2位、今年もここまで6勝5敗の3位とまずまずの位置に付けるサンディーバと、同リーグ4位から、今年は7勝4敗で3位に付けて勢いに乗るレインボーストークス。東西上位チーム同士の対戦です。

この試合は両チームの ”名将” にも注目!サンディーバの村山 修次監督は、春のセンバツ高校野球での全国制覇に始まり、大学野球、社会人野球と野球界で活躍した名将。一方、今年就任したレインボーストークスの松田 光監督が采配を振るいます。松田監督は、世界野球ソフトボール連盟 (WBSC)の年間最優秀選手に選出されたこともある、日本男子ソフトボール界のレジェンド!その手腕に注目したいところです。

村山監督には昨秋の国民体育大会(国体)で、松田監督には今シーズンの開幕戦でお話を伺っていたのですが、どちらも優しい笑顔が印象的な名将です
村山監督にここまでの戦いを振り返ってもらうと、「これまで接戦が続いています。負けた試合も全て1点差と緊張感ある試合が続く中で、選手たちもはとても頑張ってくれています。」と自軍の武将たちに最大の賛辞を送ります。
しかし、昨シーズンの本塁打王で攻撃の核・坂本 結愛選手が死球で右手を骨折(5月15日の対デンソーでフーバー投手から)。試合に出場できない厳しいチーム状況です。「万全ではないチーム状態ですが、全員ソフトで頑張っていきたい。」と話してくれました。

“全員ソフトの陣”の破壊力!

試合は、“全員ソフトの陣” を敷いたサンディーバが序盤から躍動します。
先ずは2回裏、4番のHannah Flippen(ハンナ・フリッペン)選手が、粘りに粘って先頭で四球を選ぶと、続く5番の森山 遥菜選手がヒット。“全員ソフトの陣” でチャンスを作ります。
この無死1、2塁とチャンスに打席に立ったのは山内 早織選手。「最近、積極的にバットを振れていなかったので、今日はファーストストライクから強く振り切ろうと思っていました。」と話してくれた山内選手のスイング一閃!逆方向にもかかわらず、打った瞬間それと分かる先制のスリーランホームランを左中間にたたき込みました!

続く3回も “全員ソフトの陣” を緩めないサンディーバ。交代したレインボーストークス・千葉 咲実投手からも2死1、3塁と追加点のチャンスを作ります。ここで打席に立ったのは、またしても山内選手。「1打席目の良い感触を忘れず、強く叩いてゴロで間を抜くことを心がけて打席に入りました。」と振り返った山内選手。先ほどストレートで本塁打を浴びたレインボーストークスバッテリーも、緩急を付けた配球で山内選手を討ち取りにいきますが、山内選手は動じません。最後は、低めの難しい球を強く振り抜くと、投手の足元を鋭く抜けるタイムリーヒットとなります!
更に満塁とチャンスを広げるサンディーバは、続く7番・唐牛(かろうじ)彩名選手もセンター前に鋭く弾き返して6-0と試合を優位に進めます。

対するレインボーストークスも、4回に1死満塁からのチャンスを作り、サンディーバ先発のキャプテン・坂本 実桜投手を攻め立てます。死球で1点を返して更に反撃ムードが高まる中、ここで坂本投手のギアが上がります。2者連続三振の力投を見せ、レインボーストークスの反撃を最少失点で食い止めました。

ピンチをしのいで更に勢いがついたサンディーバはその裏、2死ながらも2、3塁とチャンスを掴むと、2回にチャンスメイクをした森山選手が2点タイムリーを放って8-1と追加点をあげて突き放します。

そして “全員ソフトの陣” が作った6回の1死満塁のチャンスに、またもや登場したのは山内選手!「(この打席は)試合の状況を見て、ゴロよりも最低限の犠牲フライになればと思って打席に入りました。」と振り返った山内選手は、チームの勝利を決定付ける犠牲フライを高々とライトに放ち、5打点目を挙げる大暴れを見せてくれました。

この試合で最も活躍した “Most Wow! Player” に輝いた山内選手は試合後、「とにかく、坂本キャプテンに勝ち星を付けることが出来て本当に良かったです。万全なチーム状態でなくても、やれる選手が役割を果たして勝ちを重ねていきたいです。」と、4回7奪三振の好投を見せた坂本主将の勝利を喜びつつも、まだまだ続くリーグ戦を見据えて引き締まった表情で話す山内選手。

メジャーリーグ(MLB)のロサンゼルス・エンゼルスで話題となっている、大谷 翔平選手やMike Trout(マイク・トラウト)選手らが本塁打を放った後に見せる “兜パフォーマンス” をやってみた感想を聞くと、「大谷選手と同じパフーマンスが出来て、嬉しかったです。」と素敵な笑顔で答えてくれました。

左中間に、右翼ポール際に鋭い打球で弧を描く山内選手のバッティングは、兜パフォーマンスの本家・大谷 翔平選手にも負けないパワーと技術を兼ね備えているからこそできる離れ業です。これからも注目していきたい選手ですね。

「山内のホームランで試合のペースを掴めました。接戦の試合が続いていましたが、今日は色々な選手を試すこともできて良かったです。本来の戦力とはいきませんが、何とか全員ソフトで前半戦を乗り切って後半戦へ勢いを付けていきたいです。」と。東西対決に勝利した東軍の将・村山監督も山内選手の活躍に目を細めていました。

東軍・遠江国 vs 西軍・三河国

第2試合は、NECプラットフォームズ(静岡県掛川市)と豊田自動織機シャイニングベガ(愛知県刈谷市)の対戦です。この試合で注目したのは、シャイニングベガの “名将” 永吉 慎一監督。昨シーズンはリーグ2位からプレーオフを勝ち抜き、初代女王の座をかけたダイヤモンドシリーズでビックカメラ高崎ビークイーンと接戦を演じたその手腕が東西対決でどう発揮されるのか!

社会人野球、男子ソフトボールと多彩な現役時代を過ごした永吉監督。女子ソフトボール界の ”名将” として、準優勝に輝いた昨シーズンの勢いを維持して、今年もここまで8勝3敗の西地区2位に付けている強さを聞いてみました。
「社会人野球はもちろんですが、男子ソフトボールも女子ソフトボールとは全く違うスポーツと言っても良いくらい。自分が得た経験が必ずしもこのチームに適応するとは言えないんですよ。」と話し始めた永吉監督。
「でも、同じ投げて打つ球技ですから、トップアスリート同士で交流したことが良い経験になっています。」と紹介してくれたのは、シーズン前の鹿児島キャンプで社会人野球のJR東海野球部と練習することで得たヒントです。

「(今シーズンは)開幕戦ではトヨタに大差を付けられてしまいましたが、多くの選手を開幕戦に出せたことが返って良かったですね。」と、ピンチをチャンスに変えることでチームが勢いに乗ったことも教えてくれました。
昨年の主軸・中川 彩音選手(現・SGホールディングス ギャラクシースターズ)が抜けた影響については、「中川選手が抜けて攻撃の戦力ダウンが避けられない中、エルズウォース選手の獲得で何とか攻撃陣の補強が出来ました。」
「投手陣はエスコベト選手が安定した投球を見せてくれている間に、次の選手を育てていかなければなりません。若い選手に試合で力を付けてもらいながら勝ち星を重ねていこうと。」と話す永吉監督に、育てながら勝つとは難しいことを考えているなぁと感心して聞き入ってしまいます。

それを察した永吉監督、「確かにとても勇気の要る采配ですよ。」と私の反応に同意したうえで、「昨年、ダイヤモンドシリーズまで進んで、優勝まであと一歩(1-2でビックカメラ高崎に惜敗)まで迫ったという自信が、選手たちの成長に繋がっています。ウチは髪型などの決まりも他のチームよりは厳しいなど、口うるさくて嫌がられるかもしれませんが、日ごろの振る舞いはプレーに現れるといつも選手たちには言っています。」
なるほど、昨年得た自信を確かな実力に繋げるには、日ごろの振る舞いが大事だと言うことですね。
「選手たちを自分の娘だと思って、少しでも良い成果を出してもらえるように接しています。まぁ、選手たちは私を”ただのおじさん”だと思っていますよ(笑)。」と、アップする選手たちを横目に笑顔で話してくれました。

“育てながら勝つ”永吉流で白星

試合は序盤、プラットフォームズの大塲 亜莉菜投手、シャイニングベガの江渡 祐希投手の投げ合いで投手戦の様相です。中盤、この均衡を破ったのはシャイニングベガでした。
4回表、3番でキャプテンの田井 亜加音選手、4番で期待の新戦力Taylor Ellsworth(テイラー・エルズウォース)選手の連続四死球、6番・椛山 奈々選手の強襲ヒットで1死満塁のチャンスをつくると、7番・竹中 真海選手がライト線を痛烈に破る走者一掃のタイムリースリーベース!一気に3-0と試合を優位に進めます。

永吉監督が成長を期待している選手の一人、今季すでに4勝と好調の先発・江渡投手には、この得点で援護は十分でした。2回以降、無安打に抑える素晴らしい投球を見せて今季5勝を完封で飾りました。
東西対決2戦目は、“一撃必殺” と “鉄の防禦” の戦いを見せた、西軍・シャイニングベガの勝利となりました。

「天下分け目の岐阜決戦・後編」へ続きます。

アクセス
大垣市北公園野球場
  • 東海道新幹線 名古屋駅-JR東海道本線(約35分)-大垣駅-徒歩10分

 

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