2023年9月24日J1第28節の湘南VS川崎@国立競技場 -Journal-ONE撮影
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取材・文:
Journal ONE(編集部)
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はじめに

2023年9月24日J1第28節の湘南VS川崎@国立競技場 -Journal-ONE撮影

開幕30周年を迎えているJリーグ(明治安田生命J1リーグ、以下“Jリーグ)。各チームの熾烈な順位争いも最終盤に突入し、その動向に多くの注目が集まっていますが、去る9月24日、サッカーの聖地・国立競技場で1つの大きなチャレンジを成し遂げたクラブがあることをご存じでしょうか?

29年ぶりのクラブ動員記録更新

チャレンジの主人公は、神奈川県の西部9市11町をホームタウンに持つ「湘南ベルマーレ(以下”ベルマーレ“)」。彼らは、J1リーグ第28節の対川崎フロンターレ戦において、それまでの同クラブの最多来場者記録48,640人を5,000人以上も上回る、54,243人を動員。29年ぶりに自らのクラブ記録を更新することに成功したのです。

クラブ動員記録更新が発表された瞬間のスタジアム/2023年9月24日J1第28節の湘南VS川崎@国立競技場

全2回連載の後編となる本記事では、ベルマーレにとって歴史的な1日となった試合当日の様子をお伝えします。(「前編」では、記録達成に向けたクラブや選手、地域の想いを公開中

聖地・国立は早朝から活況

試合が行われた9月24日。午前10時頃に代々木の国立競技場に到着した取材班は、まずその人の多さに驚かされました。試合キックオフの6時間前にもかかわらず、代々木の国立競技場は、既に多くの人で賑わっていたのです。

試合開始前、多くの来場者でにぎわう国立競技場/2023年9月24日J1第28節の湘南VS川崎@国立競技場 -Journal-ONE撮影

昼前の開店に向けて準備を進めるキッチンカーのスタッフ、リーグ加盟30周年を記念した復刻ユニフォームを身に纏う湘南サポーター、試合前の特別イベント「みんなでチアダンス」に出場する子どもたちや保護者。外苑門近くのモニュメント前では、記念写真を撮ろうとする人たちが列をなし、その向かいにあるベルマーレ場外グッズブース前にも、開店を待つサポーターたちの行列が続いていました。

特別グッズを求めて、アイテムショップに開店前から並ぶ来場者/2023年9月24日J1第28節の湘南VS川崎@国立競技場 -Journal-ONE撮影

国立競技場で数万人の来場者を迎え、そして楽しんで貰うために、ベルマーレが総力を挙げて準備してきた様々な会場内のコンテンツ。それらを朝から多くの人が楽しむ光景から、本当にたくさんの人がこの日をワクワクしながら待っていたことが伝わってきました。

会場スタッフの心中にも熱気

活況なのは会場の様子だけではありません。「昨日は学生の頃の文化祭の前みたいな気持ちだった」と語るのは、この連載の前編でもインタビューに応えてくれた野口さん。普段からベルマーレの試合運営ボランティアとして活躍されている方です。この日は、いつものレモンガススタジアム平塚から国立競技場へ活躍の場を移し、来る大舞台への準備に汗を流していました。

会場ボランティアも多数の方が活躍中/2023年9月24日J1第28節の湘南VS川崎@国立競技場 -Journal-ONE撮影

「今日来てくれる皆さんに、とにかく楽しんでいって欲しいです」と語る熱のこもった口調からは、野口さんをはじめとした多くの運営スタッフにとっても、この日が特別な一日であることが伝わってきます。

” 初めての国立 “を楽しむ子どもたち

親子の触れ合い、世代を超えてコラボする2つのユニフォーム/2023年9月24日J1第28節の湘南VS川崎@国立競技場 -Journal-ONE撮影

朝から賑わっていたこの日の国立競技場には、大人だけでなく、楽しそうな子どもたちの笑顔もあちらこちらに溢れていました。クラブがホームタウン地域の子どもたち1万人を招待した「こどもゆめチケット」企画もあり、その参加者家族も多く来ていたようです。

国立競技場のモニュメントの前で家族そろって記念撮影をしていたのは、この日平塚から来たというご家族。こどもゆめチケット企画を利用して来場した6歳と4歳のご兄妹が、楽しそうに走り回っている姿がとても印象的でした。

大好きなボムグンのユニを来た湘南ファンの女の子/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -Journal-ONE撮影

特に娘さんは幼いながらも「ソン・ボムグンが好き! 」と教えてくれた立派な湘南サポーター。この日はご家族全員にとって初めての国立観戦だそうで、「(スタジアムの)中を見られるのが楽しみ! 」と開場を待ち遠しそうに話してくれました。

藤沢から来た小学生2人と引率のお父さん/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -Journal-ONE撮影

藤沢から来ていた小学生2人とそのお父さんは、今回が4年ぶりの子ども招待企画の利用。以前、夏休みの招待企画でレモンガススタジアムには行ったことがあるお子さんでしたが、国立観戦はこの日が初めてだそうで「スタジアムが大きい…レモンガススタジアムとはやっぱり違う」と日本最高峰のスタジアムの迫力に驚いていました。

「ホームタウン地域の子どもたちが夢を抱くような1日にしたい」というクラブ側の想いが込められたこの「こどもゆめチケット」企画。利用した多くの子どもとその親子に、初めての国立競技場の観戦やその思い出という、かけがえのない体験がしっかりと届いていました。

特別イベントに湧くスタジアム

午後1時の開場以降は、16時過ぎのキックオフに向けてスタジアム内では様々な特別イベントが、国立の大舞台を彩り始めました。

「みんなでチアダンス」に参加したダンサーたち/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -Journal-ONE撮影

ホームタウンの子どもたちを中心とした数百名によるチアダンスショー、スクール生とその親子たちが実際のスタジアムトラック上で披露した円陣ダッシュ企画など。スタンドの観客からはチームの別なく温かな拍手や声援が飛び、和やかな雰囲気がスタジアムを包んでいきます。

国立のスタジアム内で楽しそうに過ごす子供たち/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -Journal-ONE撮影

夕方からの試合観戦だけでなく、これら一つひとつの企画が湘南地域の子どもたちや親子にとっての一生の思い出として胸に刻まれていく、まさに今回の国立開催のスローガン「刻め。」を体現するかのような空間がそこに広がっていました。

レジェンドたちによる前哨戦

試合前イベントの中でも、ひときわ観客たちから熱視線が注がれた企画が「刻め。神奈川ダービー ~ ベルマーレOB vs フロンターレOB PK対決 ~」です。

レジェンドOBらによるPK対決、集合写真/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -Journal-ONE撮影

湘南OBチームにGK小島伸幸氏のほか、名良橋晃氏、岩本輝雄氏、石原直樹氏、坪井慶介氏が登場し、一方の川崎OBも大久保嘉人氏や鄭大世氏など、両チームが誇るレジェンド選手たちが国立の特設ピッチに登場すると、両チームのゴール裏スタンドからは大声援があがりました。

豪華メンバーによるPK戦は、序盤から両者譲らぬ真剣勝負。最初のキッカーとして登場した川崎の1人目鄭大世氏は、98年W杯メンバーの小島氏が守るゴールマウスに向かって、現役さながらの強烈なシュートを突き刺します。このあまりのガチさに、小島氏も苦笑い。

PKで強烈なシュートを打つ鄭大世氏/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -Journal-ONE撮影

もちろん湘南OBチームも黙ってはいません。直後には、ベルマーレが誇るレジェンドの一人岩本氏が、現役時代の美しいキックを彷彿とさせる左足からのシュートで見事に点を取り返します。

PKを決める岩本輝雄氏/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -Journal-ONE撮影

その後もPK戦は一進一退の状況が続きます。湘南OB3人目の名良橋氏のシュートを川崎OBのキーパー吉原慎也氏が見事にストップすれば、続く川崎OBの4人目キッカーの井川祐輔氏のシュートを今度は湘南OB小島氏が止め返します。

PKで相手シュートを止める小島信幸氏/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -Journal-ONE撮影

その後は各チームのキッカーが決め続け、7本目までもつれこんだところでタイムアップ。OBたちによる神奈川ダービー前哨戦はドローに終わり、続くトップチーム同士の試合へ決着を託す形で幕を閉じました。

ハイタッチで喜び合う湘南OBチーム/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -Journal-ONE撮影

興奮が高まる、試合直前のスタジアム

16時過ぎのキックオフが迫ってくる頃、スタジアムには3階席までたくさんの観客が入り、期待感と緊張感が入り交じったビッグマッチ特有の雰囲気が会場を埋め尽くしていました。

試合開始直前、ゴール裏スタンドに集まった湘南サポーター/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場

試合開始を待ちわびるその期待は、スタメン発表とその直後の湘南乃風の特別LIVEで大歓声となって一気に爆発し、選手を迎え入れるのに最高の雰囲気へと変わっていきます。そして、いよいよ選手入場がスタジアムにコールされ、両チームの選手がピッチへ登場。その瞬間、3階席までびっしりと埋まったベルマーレ側ゴール裏に、巨大な「SHONAN」のコレオグラフィーが浮かび上がりました。

選手入場時、湘南サポーターによる惟男グラフィー/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -

国立に集まった大勢の湘南サポーターたちが一丸となってチームを鼓舞する姿は、まさに荘厳の一言に尽きる光景でした。

苦しい試合展開にも、大歓声は鳴り止まず

大歓声の中でのキックオフを迎えたベルマーレ。試合は開始10分に川崎の山田新選手に得点を許す苦しい立ち上がりとなりますが、そんな状況をものともしないかのように、湘南サポーターからの大声援は選手たちへ注がれ続けます。相手ゴールへ迫っていけばワンプレーごとに拍手が巻き起こり、逆に自陣に押し込まれる展開では「湘南! 湘南! 」と自チームを鼓舞するコールがスタジアム中に響き渡ります。

フラッグを振る湘南サポーター/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場

さらに前半34分に不運なPKで2失点目を喫した際にも、湘南GKである馬渡選手を激励するコールが始まります。「馬渡! 馬渡! 」と呼ぶ声は、それまでの大歓声をさらに上回る大きさでした。

選手へ大声援を送る湘南サポーター/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -

まさに “国立ホーム開催”という言葉に違わぬ、巨大な国立競技場をベルマーレの本拠地と錯覚させるほどの大声援。この日、試合終了のその瞬間まで、サポーターたちのチャントとコールが途切れることはありませんでした。

後半30分、運命の発表とその直後!

記録達成の瞬間が訪れたのは、2点ビハインドのまま迎えた後半30分。スタジアムナビゲーターの「ここで本日の来場者数を発表します」というアナウンスの直後、大型ビジョンに「54,243人 クラブ史上最多観客動員数更新! 」という表示が映し出されると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こります。

クラブ動員記録更新が発表された瞬間のスタジアム風景/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -

スタンドが記録更新に沸くと同時に、ピッチ上でも劇的なシーンが巻き起こります。川崎FWマルシーニョ選手の決定的なシュートを、湘南DFキム・ミンテ選手が必死のカバーでライン際ぎりぎりで阻止。大ピンチにミンテ選手がみせた執念のディフェンスは、過去最多の大歓声が、選手の背中を押したかのようなシーンでした。

その後も最後まで得点チャンスを作り続けたベルマーレでしたが、この日のゴールはどうしても遠く、結果は0-2のスコアで試合終了。試合後、ピッチを後にする選手たちの姿と表情には、いつも以上の悔しさが滲んでいるようにも見えました。

国立を終えて、選手たちの想い

国立での大きな一戦を終えた時の心境について、後日、ベルマーレの選手たちに話を聞くことができました。

「あの舞台で勝つということが理想だったので悔しい気持ちは本当に強かったです。」と敗戦の悔しさを語ってくれたのは田中聡選手。

川崎戦で躍動する田中聡選手/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場

「自分たちが結果を出して強くなり、スタジアムも大きくなり、大きな規模になっていったら、それがまた地域貢献にもなると思います。湘南の良さをより多くの人に知ってもらえるように頑張りたいと思います。」と、クラブと地域のこれからについての想いを話してくれました。

同試合で90分間キャプテンマークを巻いてプレーをした杉岡大暉選手は「5万人以上の人がスタジアムに集うというのは、本当にすごいことだと思います。ベルマーレにそのポテンシャルがあるんだなということも嬉しかった。」と、国立での経験を振り返っています。

川崎戦にフル出場した杉岡大暉選手1/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場

今後に向けては「常日頃から平塚に人を呼ぶためには僕たちのプレーや結果が重要だと思うし、それは僕らの仕事だと思っています。」と、選手としての強い決意を話してくれました。

川崎戦にフル出場した杉岡大暉選手2/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場

プロジェクト当事者の想い

今回の国立ホーム開催そして動員記録更新を「(これまでの歴史の中で)クラブに関わっていただいた全ての方が成し遂げた大きな成果」と位置づけるのは、株式会社湘南ベルマーレのスタッフで、今回の国立プロジェクトの主要メンバーでもある日下部諒さん。

国立プロジェクト現地でのクラブスタッフ(日下部諒氏)/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場

挑戦を終えた今、クラブとしての動きは未来を見据えているそうです。「経験と課題を明確に整理し、これっきりで終わらせずに今後クラブがより愛されるクラブになれるように、進化しながら価値を上げていけるように。より多くの人に知ってもらえるように。日々の活動へつなげていきます。」と、国立の経験をクラブの未来へ繋げる動きがあることを教えてくれました。

おわりに

いかがでしたでしょうか? 今回は前・後編の2回に渡り、湘南ベルマーレが挑んだ国立ホーム開催の様子をお届けしました。

前編でお伝えしたように、選手やクラブ、サポーター、そして地域とが互いに近く、密接な関係性で結ばれている湘南ベルマーレ。彼らはこの日、その揺るがぬ土台を背景に、自らが掲げた高い目標、国立ホーム開催とクラブ動員記録の更新を見事に達成しました。

試合開始直前、円陣を組むチームと大声援の湘南サポーター/2023年9月24日J1第28節の湘南ベルマーレVS川崎フロンターレ@国立競技場 -

サッカーがもつ情熱や感動を生み出すのは、ピッチ上の選手の躍動だけではありません。選手たちと共に歩むクラブやサポーター、ホームタウン地域が、互いに手を取り合うことで、様々なドラマや感動的な瞬間が生み出されています。今回の湘南ベルマーレの挑戦が国立の舞台に生み出した数々の光景もまた、サッカーを通じて多くの人が繋がれる素晴らしさ、そこで生まれる力の大きさを、改めて私たちに力強く証明してくれています。

アクセス
国立競技場
  • JR総武線(各駅停車) 千駄ケ谷駅/信濃町駅:徒歩5分
  • 都営大江戸線 国立競技場(A2出口):徒歩1分
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