日本の “Ball Park” で東京2020決勝の再現
野球・ソフトボールの本場アメリカ。MLB(Major League Baseball)での活躍が連日報じられている、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷 翔平選手の映像を見て、Ball Park(野球場)の雰囲気を味わいたいと思う方も多くいるのではないでしょうか?
アメリカのBall Parkの雰囲気が味わえるここ山口県岩国市では、オリンピック・東京大会(以下、東京2020)の決勝戦、日本代表vsアメリカ代表を思い起こされる試合が開催!MLBの雰囲気と、東京2020の雰囲気をまとめて味わえる夢の対決は、日米友好の絆を深めるスポーツイベントとなりました。
ここ、山口県岩国市にはアメリカ海兵隊航空基地があり、軍人とそのご家族だけで約5,000人が在住しています(岩国市HPより)。町の中でアメリカ人を見かける確率がとても高く、繁華街でもアメリカナイズされたお店をよく見かけます。この日の会場となった “愛宕スポーツコンプレックス 絆スタジアム” には、アメリカのスーパーマーケットで見かけるスナックやソフトドリンクだけを取り扱う移動販売車も出店していました。「いつもは岩国基地の中で売っています。アメリカから輸入しています。」と教えてくれた店員さん。だから、記載されている値段表が全て米ドル表記なんですね!為替相場で円換算して日本円で売ってくれましたけど(汗)。
MLBのBall Park定番フードのホットドッグ、ハンバーガー、ピザを販売するキッチンカーも軒を連ね、多くのアメリカ人観客に混じって日本人の観客も楽しそうにメニューを選んでいる光景は、ここはアメリカのBall Parkか?と錯覚してしまいそうです。
日米ライバル対決を演じる両国代表
東京2020で銀メダルを獲得したアメリカ代表。実は大会前にキャンプを行った地がここ岩国の絆スタジアムだったのです。今回来日したアメリカ代表の選手たちは、カレッジソフトボールで活躍している選手たちが中心のチームですので、次のオリンピック(2028ロサンゼルス大会)を目指す若い選手ばかり。
昨年来日した代表選手は、#9のKinzie HANSEN(キンジー・ハンセン)捕手と、#71のJada CODY選手の2人だけ。2度目の来日となったハンセン選手は、「来日2回目となった今回もとてもエキサイティング!日本での試合を本当に楽しみにしていました。」と試合前に笑顔で話してくれました。
「来日は初めて!米軍基地の子どもたちにソフトボールを教えるイベントも楽しかったし、ラーメンも美味しかったです。」と話すのは、#24 NiJaree CANADY(ナイジャリー[ナイシャ])・キャナディ)投手と#15 Alana VAWTER(アラナ・バウター)投手です。彼女たちは全世界屈指の名門校・スタンフォード大学ソフトボールチームのツインエース!Apple、Google、Facebook… 日本でも知らない人が殆どいない名だたるIT企業の一大拠点・シリコンバレーの中心にある名門スタンフォード大は、ソフトボールもNCAAディビジョン1に属する強豪校なんです。
対する日本代表は、東京2020金メダリスト “ソフトボール界のレジェンド” 上野 由岐子投手(ビックカメラ高崎ビークイーン)や “リアル二刀流” の藤田 倭選手(同)、東京2020で大ブレイクした後藤 希友(みう)投手(トヨタレッドテリアーズ)といった、オリンピアンを中心にした実力重視のチーム編成です。次世代を担う日本のトップリーグ・JDリーグで活躍する若い選手たちも多く選出されていて、2028年のロサンゼルスオリンピックでの公式競技復活に向けた準備も確りしていることが覗えます。
この大会の実現に尽力したのは、山口県ソフトボール協会の秋枝英行理事長。実は、1年前にもお話を聞かせてもらっていたのです。「昨シーズン、JDリーグの公式戦を誘致しました。その時、オリンピック金メダリストを始めとする一流選手の試合を観た山口県民、そして子どもたちの笑顔に触れ、今度は日米対抗ソフトボールを誘致したいと思ったのです。」と、ひとつずつ大きくなった夢を叶えた嬉しさを話してくれました。
国際試合を盛り上げるファンの皆さん
このライバル対決を演出しようと、今回のチケットにはちょっとした工夫がされているのです。それは、“日本代表レプリカユニフォーム付きチケット”!早々に来場したファンの多くがこのユニフォームに身を包んでいますね。最近、WBC(World Baseball Classic)や、ラグビーワールドカップなどでも、日本代表の試合に選手たちと同じJapanのユニフォームを着て国際試合を楽しむといった機運が高まっていますので、こういったニーズにも対応した嬉しい企画です。
愛媛県から来た、会社員の女性2人組。「オリンピック(東京大会)でソフトボールのチケットが当選したのですが、コロナで観戦することが出来ませんでした。今日はやっと日本代表の試合が観られるので楽しみです。」と、西日本地区で初めての開催となった岩国での試合を心待ちにしていたとのこと。
広島県から来たご家族。Japanユニフォームに袖を通した小学生4年生の双子姉妹は、ソフトボールに打ち込んでいるとのことで、真っ黒に日焼けした元気な笑顔が印象的です。美心(みこ)さんと莉心(りこ)さんにそれぞれに推し選手を聞くと、「私は投手をやりたいので、上野由岐子投手に憧れています!」「私は、二刀流の藤田倭選手が好きです!」と、東京2020金メダリストのレジェンドの名前を挙げてくれました。
「やっと、日本代表の試合を始めてこの目で観ることが出来て感激です。」と話すご両親と共に絆スタジアムの立派な正面オブジェを前でガッツポーツ!日本代表の必勝を願っています。
観戦席も工夫が見られます。普段、降り立つことのできないグランドレベルの一角に備え付けられたスペシャルシートでは、選手と同じ目線で試合を観戦できるという非日常の体験ができるのです。しかも!試合前に先ほど紹介したアメリカ代表のアラナ投手にキャッチボールの相手に指名されました。20球ほど全力でアラナ選手の胸をめがけて力投した男の子も普段はチームでショートを守っているとのこと。「とても良い球を投げますね。将来は良い選手になるでしょうね。」と、アラナ投手も笑顔で記念撮影に応じていました
注目の初戦は “湿気” との戦い?
この日は、沖縄で停滞する台風の影響もあり、日中から生暖かい湿気を含んだ空気を運んできていた岩国市・絆スタジアム。7時からのナイトゲームで太陽は沈んで暑さは少し和らいだものの、腕から指先にしたたり落ちる汗が選手の手元を狂わせます。
#2 三輪 さくら投手(トヨタレッドテリアーズ)、#24 ナイシャ投手の先発で始まった試合。
JDリーグでは抜群の制球力で勝ち星を重ねている三輪投手ですが、この日の湿気でなかなかボールを操ることができないのか、微妙なコースがボールになったりボールが真ん中に集まり痛打されたりと本来の投球ができません。一方、速球、ライズボール共に見るからに球質が重そうなナイシャ投手。こちらも指を盛んに気にして何度もタオルで汗を拭いますが、それでも大きく捕手からボールが逸れる投球もあって本来の投球スタイルでは無い様子です。
試合が動いたのは2回表のアメリカ代表。5番の#17 Tailor PLEASANTS (テイラー・プレザンス)選手が四球で出塁すると、続く6番 #22 Alex HONNOLD(アレックス・ホナルド)選手が詰まりながらもライト前に運んで無死1、3塁と先制のチャンスを掴みます。
すると、#8 Jayda Kearney(ジェイダ・カーニー)選手もライトへのクリーンヒットで続いて、アメリカ代表が1点を先制します!更に、無死1、2塁と大量点のチャンスに強打者・ハンセン選手が打席に入ります。
ビッグチャンスを与えた三輪投手ですが、ここから本領を発揮します!自慢の制球力でハンセン選手を中外角の出し入れで三振に取ると、続く#23 Viviana MARTINEZを投手ゴロ、先頭に戻ってErin COFFEL(エリン・コッフォル)選手をレフトフライに切って取り。最少失点でこの回を凌ぎました。
ここまで三輪投手と#24 切石 結女捕手(トヨタレッドテリアーズ)のバッテリーの緩急を付けた投球に詰まりながらもパワーでヒットにしていくアメリカ打線。3回には、3番の#11 Megan GRANT(メーガン・グラント)選手が流し打ってレフトオーバーのソロ本塁打を放ち、2点目を奪います。ナイシャ投手の重い球に差し込まれる日本代表打線にパワーの差を見せ付けます。
流れを変えたい日本代表は、4回から唯一の大学生から選出された#29 山下千世投手(金沢学院大)をマウンドに送ります。
僅かアウトひとつを取ったところで、#21 左腕の曽根 はん奈投手(太陽誘電ソルフィーユ)に後を託します。捕手も#28 炭谷 遙香選手(ビックカメラ高崎ビークイーン)に交代し、アメリカ代表の猛攻を凌ぎにかかります。曽根投手は、JDリーグでは今シーズン2日連続完封勝利を挙げるなど調子が良い選手です。
しかし、この湿気に曽根投手も制球力が定まりません。1番の#21 Erin COFFEL(エリン・コッフォル)選手に四球を与えて満塁にすると、2番の二刀流・#72 Valerie CAGLE(ヴァレリー・ケイグル)選手にもセンター前に運ばれて4点目。更にグラント選手にも右前にヒットを打たれて5-0と嫌な流れを止めることが来ません。
一方的になりかけた試合の流れを引き戻すべく、ここで日本代表がマウンドへ送り込んだのは、二刀流の藤田投手です。場内のコールにJapanのユニフォームで赤く染まったスタンドから大きな歓声が起こります。東京2020金メダリストが、流れを変えることができるのか?
1死満塁のピンチに打席に入るは、アメリカ代表の4番・コーディー選手。藤田投手はストライクを先制させて追い込みますが、コーディー選手はなかなかボール球に手を出しません!際どいボールを選んで四球で押し出しとなりますが、続くプレザンツ選手のサードへの難しいゴロを、普段はセカンドを守る#10 川畑 瞳選手(デンソーブライトペガサス)が身体の前で上手く捌いて本塁フォースアウト。6番ホナルド選手も抑えて、ようやくチェンジです。
このままでは終われない日本代表は、同じく湿気で制球が安定しないナイシャから四球で1、2塁とすると、パワーを見せたのは#26 塚本 蛍選手(ホンダ リヴェルタ)でした!JDリーグの後半戦で1試合2本塁打を放ったパワーを見せ付け、逆方向へ大きな弧を描くスリーランホームランを放ち、直ぐさま6-3と反撃に転じます。
更に5回は日本代表の小技が光ります!先頭2番の#9 唐牛(かろうじ) 彩名選手(日立サンディーバ)がいきなりのセーフティバントで一塁にヘッドスライディング。3番 #6 石川 恭子選手(トヨタレッドテリアーズ)がセンターに技ありのヒットで続きます。
ここで、アメリカ代表は#66 Ruby MAYLAN(ルビー・メイラン)投手にスイッチ。途中出場の4番の内藤 実穂(みのり)選手(ビックカメラ高崎ビークイーン)、#4 須藤 志歩選手(豊田自動織機シャイニングベガ)を抑えると、捕手のキンジー選手もガッツポース!
しかし、ここから更に粘りを見せる日本代表は、川畑選手がショートへの内野安打で気迫のヘッドスライディングを見せると、エラーも呼び込み4-6。更に、先ほどホームランを放った塚本選手の強い打球に備え、後ろに守っていたショートが強烈なゴロを何とか抑えて二塁に送球。フォースアウトかと思われましたが、テンポラリーランナーの一塁走者の須藤が好スタートを見せていました!セカンドのベースカバーよりも早く二塁に到達した須藤選手の足でフィールダーズチョイスとして5-6!
そして、豪快な打撃が特徴の炭谷選手がセンター前にしっかりと運ぶ2点タイムリーヒットを放ち、遂に7-6と逆転!激しい点の取り合いに、詰めかけた2,363人の観客からは大きな拍手が沸き起こりました。
エラーで試合が大きく動く終盤
劇的な打ち合いとなったこの試合は、終盤にもまだまだドラマが待っていました。
6回には、3番のグラント選手が緩急で揺さぶる藤田投手の投球に対応し、左中間フェンスを大きく越えるソロホームランを放ち7-7の同点に追いつくと、続く4番のコーディー選手もバスターで揺さぶりフルカウントから四球を奪う粘りを見せます。5番 プレゼンツ選手が死球でチャンスを広げ、6番 ホナルド選手はセカンドゴロ!ダブルプレーかと思われた打球を須藤選手が二塁へ悪送球して7-8と再逆転に成功します。
その裏、メイラン投手も唐牛選手に死球を与えたところで、二刀流・ケイグル選手がレフトの守備からリリーフに向かいます。日本のジメついた湿気に思うような投球ができないケイグル投手は、この回3つのワイルドピッチをしてしまい8-8の同点とすると、更にはハンセン捕手まで投手に返す送球が滑って二遊間を抜ける冒頭となる珍しいプレー。日本代表は無安打、相手のミスのみで逆転となりました。
更に、ライト前ヒットで出塁した須藤選手を二塁に置いて、打席に入るのは日本が誇る二刀流・藤田選手です。二刀流対決となった初球!チェンジアップの制球が定まらないケイグル投手の直球を狙い撃ちした打球は一閃!センターのフェンスを楽々と越えるツーランホームランで8-11と突き放しました。
最終回となるか? アメリカ代表はこの回先頭のコッフォル選手がライト前ヒットで出塁すると、打席には前の回、二刀流対決で藤田選手にホームランを浴びたケイグル選手です。攻守入れ替えての二刀流対決という珍しいシーンです。「先ほどのリベンジ!」とばかりにケイゲル選手が放った打球は、こちらもセンターの頭を越えるツーランホームランです!
二刀流対決は信じられない “両者ホームランによる引き分け” となり、10-11の1点差に迫ります。
JDリーグでは短いイニングでの登板が続く藤田投手は、強力打線を相手に細心の投球を続け4イニング目。疲れの色が見えてきた藤田投手をアメリカ打線は見逃しませんでした。
続くグラント選手、コーディー選手もヒットで続くと、6番のホナルド選手がタイムリーヒットを放って遂に11-11の同点に追いつきました!
延長タイブレークも思わぬ展開
7回裏、日本代表は唐牛選手のツーベースヒットでサヨナラのチャンスを得るも無得点。試合は無死2塁から始まる “延長タイブレーク” に突入しました。
先ずはアメリカ代表の攻撃は、一死1、3塁とチャンスを広げると、この日6打席目となった1番・コッフェル選手がセンター前にタイムリーヒットを放って1点を奪います。
その裏の日本代表の攻撃。今まで攻守で粘りに粘りを見せていた選手たちでしたが、この1点を取り返す力は残っていませんでした。再びマウンドに上がったナイシャ投手が3人を抑えて試合終了。初戦はアメリカ代表が打ち合いを制し、初戦を勝利で飾りました。
激しい猛暑に台風接近に伴う湿気と、決して良くないコンディションの中でも最高のパフォーマンスを出そうと全力を尽くした選手たち。国際親善試合で様々な行事と並行しながらもプレーに決して手を抜かないその姿が、観ている私たちを清々しい気持ちにしてくれた一戦でした。
[アメリカ代表先発メンバー]
1) SS Erin COFFEL #21(エリン・コッフォル)
2) LF Valerie CAGLE #72(ヴァレリー・ケイゲル)
3) RF Megan GLANT #11(メガン・グラント)
4) 3B Jada Cody #71(ジェイダ・コーディー)
5) CF Taylor PLEASANTS #17(テイラー・プレザンス)
6) CF Alex HONNOLD #22(アレックス・ホナルド)
7) DP Jayda KEARNEY #8(ジェイダ・カーニー)
8) C Kinzie HANSEN #9(キンジー・ハンセン)
9) 2B Viviana MARTINEZ #23(ヴィヴィアナ・マルチネス)
P) Nijaree[Nija]Canady #24(ナイジャリー[ナイシャ]・キャナディ)
[日本代表先発メンバー]
1)RF 中川彩音 #9(SGHギャラクシースターズ)
2) CF 唐牛彩名 #15(日立サンディーバ)
3) SS 石川恭子 #6(トヨタレッドテリアーズ)
4) 1B 下山絵里 #13(トヨタレッドテリアーズ)
5) 2B 工藤 環奈 #3(ビックカメラ高崎ビークイーン)
6) 3B 川畑 瞳 #10(デンソーブライトペガサス)
7) DP 藤田倭 #16(ビックカメラ高崎ビークイーン)
8) LF 塚本蛍 #26(ホンダリベルタ)
9) C 切石結女 #24(トヨタレッドテリアーズ)
P) 三輪さくら #2(トヨタレッドテリアーズ)
1)RF 中川彩音 #9(SGHギャラクシースターズ)