ラグビーW杯の熱狂を振り返る
“ラグビーワールドカップ2023 フランス大会(ラグビーW杯2023)” が、南アフリカ代表スプリングボクスの2大会連続4度目の優勝で幕を閉じました。
決勝会場のスタッド・ド・フランスには、80,065人の大観衆が集まり、ニュージーランド代表オールブラックスと繰り広げた12-11という歴史に残る接戦の決勝戦に歓喜するその様子と、私たちを含む世界中のラグビーファンがテレビの前で熱狂する様子に、ラグビーの持つ素晴らしい力を感じました。
実はこの盛り上がり、選手たちの素晴らしいパフォーマンスだけでなく、世界中から集まったファンとそれをもてなすフランスの現地の人たちが、様々なラグビー観戦を楽しんでいることにあることが分かります。
パリでの開幕の様子をレポートした、2003年のラグビーW杯オーストラリア大会に始まり、2007年のフランス、2011年のニュージーランド、2015年のイングランド、そして前回の日本と5大会連続で現地観戦をして来た編集部の記者が、この回ではパリ近郊の会場・リヨン(Lyon)を舞台にしたラグビーW杯観戦の面白さをお伝えしていきます。
フランス第2の都市・リヨンへ
パリからリヨンに行くには、高速鉄道が便利。1981年に開通したパリとリヨンを結ぶフランス国鉄のTGVに乗るためにパリ・リヨン駅(Gare de Lyon)にやってきました。
リヨン行きの高速鉄道はTGV以外にもイタリアの高速鉄道・フレッチャロッサ(Frecciarossa)が2021年の12月から運行していて、料金はこちらの方が安めです。しかもTGVは2階建てなので狭く感じますが、フィレッチャロッサは特等(エグゼクティブ)、1等(ビジネス)、2等(普通車)の3クラス共に広くて快適な車両です。外観もフェラーリレッドと洗練されたデザインがカッコイイですね。
車内にはお洒落なカフェがあり、イタリアらしい洗練された制服に身を包んで接客してくれた係の女性に写真撮影を頼むと、わざわざ制帽を被ってノリノリでポーズを取ってくれました。
ヨーロッパを鉄道で旅する際は、車窓の景色も注目して欲しいポイント。今回のパリ-リヨン間は街中をあっという間に過ぎると、どこまでも田園風景が続きます。こういった田園風景も、向かう地域や国によって全く違うんです。ここに住んでいる人たちはどういった生活をしているのかな?どういった作物を育てているのかな?などと思いを馳せながら、時間を忘れてただ窓の外を見るものW杯が私にくれたギフトのひとつです。
1時間40分余りの鉄道旅を終えて到着したリヨン·ペラーシュ駅(Gare de Lyon-Perrache)は、リヨン中心部にある主要鉄道駅。駅に降り立つと、ここでもW杯の展示があったり案内スタッフがいたりと雰囲気を盛り上げていました。
世界中のファンが集まるリヨンのファンゾーン
駅から街の中心部にあるベルクール広場(Place Bellecour)まで続く歩行者用1本道。立ち並ぶお店のショーウィンドウを見ながら歩くと徐々にラグビー観戦のスイッチが入っていきます。通りには漫画のお店もいくつかあって、日本のアニメに関するディスプレイも! 親近感がわきますね(笑)。
ちなみに今回、リヨン滞在で泊まったホテルはこの道沿い。ファンゾーンがあるベルクール広場まで徒歩2、3分で、スタジアムに向かう駅もすぐなのでとても便利でした。抜群な立地に加え、お部屋もととても広くて快適! 1泊2万円ほどで泊まることができて本当にラッキーでした。
いよいよ、マロニエの木々に囲まれた広大なベルクール広場に到着です。公園の象徴であるルイ14世の像を目指して進むと、大きなファンゾーンが見えてきました。会場の地図を見ると、幾つものテーマに分かれたブースが展開されており、参加型のラグビー体験ゲームなど誰もがラグビーを楽しめるコンテンツを提供しています。
ファンゾーンに集まるファンたち。その出で立ちや楽しみ方は、その国の “お国柄”が垣間見えるほど特徴的。そのコスチュームを見ながらビールを飲んでいるだけでも気分が高揚してきます。会場の誰もが本当に素敵な笑顔で、それぞれのW杯を楽しんでいることが良くわかりますね。
仲良くなったアルゼンチンサポーターの二人は、もともとアルゼンチンの敵対するチーム同士でプレーしていたのですが、競技ラグビーを引退してからこうやって仲良くなったとのこと。「今日は友達だけど、日曜は敵だね! 日曜の日本戦にも行くのでナントでまた再会しよう。」とアルゼンチンの国旗を前に記念撮影をしました。
ファンゾーンの中央、国旗を持ちながら応援歌なのか国歌なのかを高々と歌い、盛り上がっているのは女子3人組のウルグアイサポーターです。決して強豪とは言えないウルグアイからもこうしてフランスまで応援に訪れ、自分たちの楽しみ方でW杯を満喫しています。リーグワンや、日本代表強化試合でこういったシーンを見かけることが増えてきた日本も、徐々に世界標準のファンに近づいてきたのかなと。W杯後、日本での更なる盛り上がりを期待したいですね。
こちらは、予選プールBのライバルである世界ランキング1位のアイルランドと同2位の南アフリカのサポーターです。「この前の試合では負けてしまったけど、決勝でまた会おう!」と話していたスプリングボクスの相棒を抱えた南アフリカサポーターが乾杯の音頭を取ると、アイルランド発祥のキリスト教カトリックの祭礼日の一つで、アイルランドにキリスト教を広めた、聖パトリックの功績を讃えるセントパトリックスデー(St. Patrick’s Day)で仮装される緑色の妖精・レプラコーンの帽子を被った女性サポーターも笑顔でビールを掲げて乾杯!
ファンゾーンからは、リヨンの象徴でフルヴィエールの丘にある世界遺産 “ノートルダム大聖堂” も見ることができ、石畳の街並みが美しいリヨン旧市街や、クロワルースの丘など、ラグビー観戦の前後も見逃すことのできない観光スポットがたくさんありました。
いよいよリヨンでのラグビー観戦へ
会場となった、フランスのプロサッカーのオリンピック・リヨンの本拠地であるグルーパマ・スタディオム(OL Stadium/ Groupama Stadium)へは、トラムと徒歩で1時間弱。リヨン中心部の駅とスタジアムを直通で結ぶこのトラムも一部はW杯の装飾となっていました。
この道中でも、試合放映のあるレストランやオフィシャルショップなど、W杯の匂いがそこここで見られます。至るところでボランティアの案内役が出迎えてくれたり、無料のフェイスペインティングには長蛇の列ができるほどの大人気でした。
「自動車で2,000キロ以上を旅してリヨンまでやってきたんだよ。」とビールを片手に驚きの情報を教えてくれたのは、ルーマニアから来たというサポーター4人組です。「開幕戦を観るためにパリまで来て、一度ルーマニアに帰り、また昨日からリヨンに来たんだ。」とのこと。
スタジアムの外周が目に入ってくると、サッカーファンでもある私の血がたぎってきます! サッカーチーム・オリンピック·リヨンの本拠地で、2016年の欧州選手権でも会場になったグルーパマ・スタジアムの壁一面には、2000年代にリヨンを欧州の舞台で躍進させたフランス人監督、リバプールの監督経験もあるジェラール・ウリエ(Gerard Houllier)の肖像があり、自国の功績者を讃えています。
スタジアムの中に入ると、その内装もリヨン・カラーです。ちょうどフランス国旗と同じトリコロール・カラーなので、フランス代表を応援しているスタジアムのようでした。
今回観戦したニュージーランド代表とウルグアイ代表を観戦した場所は、ベンチ裏すぐでベンチ外の選手が座る席とも近い! 試合前、ハーフタイム、試合後と多くの選手たちがサインや記念撮影に快く応じています。あっという間に、私のオールブラックスのジャージーはサインでいっぱいになってしまいました。因みに、この席のチケット代は176ユーロ(約28,000円)でしたが、これほど間近でオールブラックスを観ることができたので、お得だったと思います。
試合観戦では、試合直前に行くのではなく練習からの観戦がオススメです。試合前には、リッチー・モウンガ(Richie Mounga)選手やボーデン・バレット(Beauden Barrett)選手、ジョーディー・バレット(Jordie Barrett)選手が色々な場所からキック練習を行っています。同じタイミングで違う場所から一緒に蹴る姿は試合では絶対に観られない貴重な光景です。
点差、勝敗に関係なく盛り上がる
試合は前半早々から格下のウルグアイが積極的に攻勢に出て、そのファイティングスピリットにスタンドはウルグアイ応援一色に湧いて盛り上がります。パリで観戦したオーストラリア対ジョージアの一戦と同様、格下のチームを応援するフランス人気質がうかがえる会場の雰囲気となりました。
しかし、オールブラックスの人気と実力は別格でした。
前半はTMOでことごとくトライが取り消しになりましたが、失点はもちろん無駄な反則もほとんどなく無難な試合運びを見せたオールブラックス。若干、物足りなさはありましたが、その分が後半に爆発して73-0という大差での勝利となりました。
一方のウルグアイも、PG(ペナルティーゴール)は一つも狙わず、「なんとしてもオールブラックスからトライを取るんだ!」と言わんばかりの気迫で闘い、それを観客が後押しする雰囲気がたまりませんでした!
パリの9ユーロと比べ、若干安い8ユーロのスーパードライを片手に満喫した80分間の試合。スタジアムの歓声が身体の中に残る余韻を楽しみながら、帰りは深夜バスでパリに戻りました。
まだまだ続く、W杯フランス大会の観戦レポートをお楽しみに!
[ラグビー] W杯フランス現地レポート-開幕編 >> コチラ