パラリンピック・リオデジャネイロ大会、東京大会(東京2020)と2大会連続で銅メダルを獲得した日本の車いすラグビー。その両大会で活躍した選手や、次のパリ大会での活躍が期待される選手が国内8つのクラブチームに分かれ、日本一を決める戦い “第24回 車いすラグビー日本選手権大会” が開催されました!
3年ぶりの開催となる車いすラグビーの日本選手権。2019年12月の第21回大会以降は、新型コロナの影響による中止が続きましたが、決戦の舞台となった千葉県千葉市にある千葉ポートアリーナは、久しぶりの有観客試合ということもあり、活気溢れる3日間の大会となりました。
予選大会を勝ち抜いた8チームが出場したこの大会。Pool AとPool Bに分かれて4チーム総当たりの予選ラウンドをおこなった後、各プールの上位2チームは決勝トーナメントに出場。また、3位以降の順位決定戦も行われる長丁場のため、選手やスタッフの皆さんは初日から大忙しです。
Journal-ONEが密着取材しているAXE(アックス)も、年明けから日本選手権の直前練習を行い、連携プレーの確認や対戦チームの対策を建てて頂上を目指します。
初戦の相手は、パラリンピック・リオ大会と東京2020・銅メダリストである今井 友明選手が所属するRIZE CHIBA。Journal-ONEでは、松戸市イベントでのインタビューや千葉ロータリーカップでも紹介したお馴染みのチームです!
1Qから主導権を握りたいAXEは、青木 颯志選手を軸に、峰島 靖選手とニック・コバック選手が交代でコンビを組んで、得点を重ねていきます。
2Qはローポインターの岸 光太郎選手、山口 貴久選手のリオ大会・銅メダリストコンビ、羽賀 理之選手、倉橋 香衣(かえ)選手の東京2020・銅メダリストコンビと名だたる選手たちがRIZE CHIBAの攻撃をことごとくシャットアウト! プレーオフでは中盤でキレのあるプレーを連発していた橋本 惇吾選手も絶好調で、32-8とAXEが大量リードして前半を終了しました。
この大会は有観客試合と言うこともあり、この試合を観戦しに千葉市内の小学生たちが応援に来ています。前半は、羽賀選手や峰島選手の素早い切り込みやニック選手の豪快なタックルといったダイナミックなプレーへの声援が起こっていましたが、後半は小学生たちの目が肥えてきたようです。
3Q、RIZE CHIBAがパスカットから反撃に転じると、会場の声援が一気に玄人受けしそうなプレーに集まります。乗松 隆由(たかゆき)選手の相手オフェンスのコースをシャットアウトする絶妙なディフェンスや、ハイポインターを欠いた苦しい展開ながらも小刻みにパスを繋ぐCHIBA RIZEのコンビネーションに小学生たちから大きな拍手が湧き起こります!
久しぶりの声援を背に受け、両チームとも最後の最後まで全力で戦い、AXEが63-17で勝利しました。ファンの歓声や拍手は両チームの選手全員に送られ、選手たちも笑顔で手を振って歓声に応えていました。
「山口選手は車いすバスケの大会と重なり、本戦に出場できないことは分かっていた。」と苦戦を覚悟して臨んだ心境を試合後に語ってくれた今井選手。
「新メンバーも多く、日本選手権という緊張感ある大会を経験できたことは今後のチームの成長に繋がる。」とチーム作りの手応えを感じていた一方、「上位進出が難しいからと言って諦めることはありません。チームの目標を“勝つ”という結果ではなく、オフェンス成功率を上げるという目標に切り替えたことで、メンバーの意欲は更に高くなっていますよ。」と笑顔で話してくれた今井選手。自己の成長とチームの育成を担う日本のレジェンドは、車いすラグビー界全体のレベルアップと盛り上がりを常に考えて行動しているんですね。
連戦となったAXEは、「上位進出への最大の難関。」と中谷 英樹ヘッドコーチが話していたOkinawa Hurricanesとの一戦に臨みます。Journal-ONEが初めて目にするOkinawa Hurricanesは、カナダ代表のザック・マデル(Zak Madell)選手を中心としたスピードとパワーのある選手たちが揃っているとのこと。
AXEは日本選手権の直前練習で、パラリンピック・リオ大会と東京2020・銅メダリストの池崎 大輔選手や、カナダナショナルチームに招集されるリオ・コバック(Rio Kanda-Kovac)選手をザック選手に見立てて対策を練ってきました。
「ザックは強行日程で来日し、沖縄からの移動で調子が出ない序盤がカギだった。」と、羽賀選手が試合後に語っていたとおり、1Qからザック対策通りの試合展開となります。
この試合、フルタイム出場で獅子奮迅の活躍を見せた、峰島・羽賀両選手を中心にスペースへバスして得点をするシーンに、今度は千葉市内から観戦に来ていた中学生たちから大きな拍手が湧き起こります。
スペースに入り込んだ山口選手へのパス、ポストプレーでニック選手から峰島選手、峰島選手から羽賀選手とテンポ良いボール回しでOkinawa Hurricanesに食らい付いていきます。
一方のOkinawa Hurricanesは評判通り、ザック選手の強い身体と素早いチェアワーク、巧みなボールさばきであっという間に得点を重ねます。マークが厳しくなると、仲里 進選手や壁谷 知茂選手がフォローに入りミス無く着実に加点していきます。
前半からハイペースで飛ばしていたAXEに後半疲れが見えてきたようです。
「勝負所の前半で突き放すことができなかった。」と乗松選手が後に語った様に、徐々にOkinawa Hurricanesに点差を付けられてしまいます。4Q途中でタイムアウトを取り、スタミナのある青木選手を投入して巻き返しを図りますが、47-54で敗れたAXEは1勝1敗で初日を終えることになりました。
1勝1敗で迎えた “負けられない” 大会2日目。予選最後の相手はBLITZです。
BLITZもパラリンピアンが在籍する強豪チーム!東京2020銅メダリストの小川 仁士選手、リオ大会・東京2020銅メダリストの島川 慎一選手を中心に、ここまで2連勝と波に乗っています。つい先程の、Okinawa hurricanesとの一戦では、ザック選手と島川選手の迫力満点のマッチアップなど一進一退の白熱ゲームを制したBLITZ。
AXEが決勝トーナメントに進出するためには、絶対に負けられない戦いとなります。
この試合もフルタイムで獅子奮迅の活躍を見せた峰島選手を中心にBLITZに挑みます。
1Qはお互いのキーマン同士を抑える攻防が続きます。AXEのディフェンスは相手陣内から素早いプレッシャーで島川選手の動きを封じに行きます。一方のBLITZも羽賀選手を徹底マークしてスペースにパスを出させない戦略のようです。
試合開始早々から手に汗握る試合展開は、10-11の僅差であっという間に終わってしまいました。
続く2Q、パスカットの応酬が続く激しい展開は、徐々にBLITZ優勢の試合展開に。
AXEが得意とするロングパスの攻撃を荒武 優仁選手がパスカットするなど、BLITZが徐々に引き離しに掛かります。
このまま終わるのか?と思った矢先、4QにAXEが猛追を見せます!
BLITZが前半に試合の流れを作った “相手の連携のスキを付いたバスカット” を成功させたAXEは、再びパスの精度も上がって得点を重ねていきます。1Q同様、一進一退の攻防に持ち込んだAXE。試合の流れが徐々に変わり始めたようです。
「最後はAXEのプレッシャーでチームのスタミナが切れてしまった。集中力をもう一度取り戻そうとチームを鼓舞するのに苦労した。」と島川選手が話してくれたように、追いすがるAXEと振り払うBLITZの闘志溢れる攻防に、会場からは再び大きな拍手が湧き起こります。
最後まで観客が盛り上がる試合を見せてくれましたが、AXEは45-49で敗れ目標としていた決勝トーナメント進出は果たせませんでした。
「Okinawa戦は狙い通りの攻守はできていました。峰島選手と羽賀選手がザック選手を抑えていくという作戦もしっかりできていたのですが、細かいミスで序盤を制することができませんでした。」と試合を終えて語った乗松選手。
「中谷ヘッドコーチの戦術が浸透してきた今年、チーム全体では力が付いてきたと思います。ピリオドのラストゴールを殆ど取れたことなんかはその成果ではないでしょうか。」とチーム力の底上げに手応えを感じた今シーズンを振り返る乗松選手。
ご自身の更なる飛躍については、「インバウンド(ボールを投げ入れる役)の精度と距離はまだまだ向上の余地があります!」と進化に貪欲な姿勢も見せてくれた乗松さんでした。
「前の試合でBLITZがOkinawa Hurricanesに勝ったので、得失点差を気にしてしまい本来できることができなかった。」と羽賀選手はBLITZ戦を振り返ります。
久しぶりの観客で湧いた初日を振り返っては、「やはり歓声があると気持ちも上がりますよね。明日(最終日の順位決定戦)の多くの人たちに応援をして欲しいですね。」と穏やかな表情で話す羽賀さん。
今シーズン、Journal-ONEはAXEの密着取材を通じて車いすラグビーの魅力を紹介してきました。練習や試合を取材しながら少しずつテクニックや戦術を知ることで、ルールを全て把握できなくても楽しく応援できるスポーツであることも分かりました。
加えて、AXEを通じてRIZE CHIBA、TOHOKU STRMERS、Freedomといった個性豊かなチーム、素晴らしい選手の皆さん、スタッフの皆さんを取材させていただき、車いすラグビーに携わる皆さんの素敵な素顔も紹介することができました。
第24回 車いすラグビー日本選手権、初優勝のFreedomの皆さん、準優勝のTOHOKU STORMERSの皆さん、本当におめでとうございます!
そして、全てのチーム、選手、スタッフの皆さん、本当にお疲れ様でした!
クラブチームはひとつのシーズンを終えましたが、2024年のパラリンピック・パリ大会に向け、車いすラグビー界の歩みは止まりません。2月2日~5日には、ここ千葉ポートアリーナで “2023ジャパンパラ車いすラグビー競技大会” が開催されるんです!
日本・オーストラリア・アメリカ・フランスの4か国が総当たりで戦う国際試合には、お馴染みAXEから倉橋選手、乗松選手を始め、CHIBA RIZEの今井選手、BLITZの島川選手、TOHOKU STORMERSの橋本選手、Freedomの池選手、日本選手権では解説で会場を盛り上げた池崎選手など、Journal-ONEで紹介させて頂いた選手が多く出場します。
この大会も有観客試合での開催。皆さん、パラリンピック・東京2020で味わえなかった感動を千葉ポートアリーナで味わいませんか?