Wheelchair Rugby 第24回車いすラグビーのAXE直前練習-Journal-ONE撮影
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取材・文:
Journal ONE(編集部)
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パラリンピック・リオデジャネイロ大会、東京大会(東京2020)と2大会連続で銅メダルを獲得した日本の車いすラグビー。その両大会で活躍した選手や、次のパリ大会での活躍が期待される選手が国内8つのクラブチームに分かれ、日本一を決める戦いが近づいてきました。

第24回 車いすラグビー日本選手権大会” は、千葉県千葉市にある千葉ポートアリーナを舞台に、1月20日(金)から1月22日(日)の3日間にわたって開催される長丁場の戦いです。

日本選手権に出場するのは、2022年度に日本各地で行われた予選を勝ち抜いた、北は北海道から南は沖縄までの8チーム。Pool AとPool Bに分かれ、総当たり戦を行った後に上位2チームがトーナメント戦にコマを進め、日本一の頂上を目指します。

年を越していきなりの大一番に、各チームともコンディション作りに苦労するところ・・・ 今回のレポートは、日本選手権に向けた最後の調整に臨む「AXE」の全体練習を取材! 「チームのコミュニケーション」をテーマに日本一を目指す取り組みを紹介します。Wheelchair Rugby 第24回車いすラグビーのAXE直前練習-Journal-ONE撮影

先ずは練習前、選手たちが準備をする中でひとり黙々とホワイトボードいっぱいに書き込みをしている方がいます。そう、AXEの中谷 英樹ヘッドコーチです。中谷コーチは東京2020や、昨年秋にデンマークで開催された “2022 WWR World Championship” でも日本代表のアナリストとしてメダル獲得に貢献された日本の車いすラグビー界になくてはならない知将なんです!Wheelchair Rugby 第24回車いすラグビーのAXE直前練習-Journal-ONE撮影

早速、新年のご挨拶と共に今日の練習のメニューを伺いました。
「正月明けですので、先ずは身体が動くかの確認をしなければなりません。その状態を見極めながら、日本選手権でキーとなるプレーの確認をするのが午前中。午後からは対戦相手を想定した実践的なケーススタディにする予定です。」と中谷コーチ。
「午後からは “秘密兵器” を投入して、万全の備えをするつもりです。」と、にっこり笑って話してくれました。

着替えの合間に、AXEの皆さんに新年のご挨拶です。選手の皆さんは、どの様な年越しをされたのでしょうか?
「正月は、3時間だけ実家に帰りましたよ。」と話してくれたのは、リオと東京2020のパラリンピック銅メダリスト・羽賀 理之(まさゆき)選手。「ウチは、家族がインフルエンザになってしまい、思うように調整できませんでした。」と話すのは、AXEのポイントゲッター・峰島 靖選手。「正月も近所の公園で走り込みをしていました。今年は去年よりももっと上手くなりたいです。」と、SHIBUYA CUPで日本代表として活躍した青木 颯志選手は良い新年を迎えた様子です。
順番にご挨拶をして、ニック・コバック選手の前に来ました。あれ? 誰か若い選手がいますね。
「前に紹介した、息子のリオを連れてきました。」と、The University of Arizonaに在学中のRio Kanda-Kovac選手を紹介してくれました。
以前、ニックさんからYouTubeでカナダナショナルチームのプロモーション動画を見せて貰っていた私。その動画の主役を張っていたリオさんが、正月休みで日本に来ていたんですね。
中谷コーチが教えてくれた、日本選手権を想定した “秘密兵器” はリオさんだったんですね!Wheelchair Rugby AXEの練習に参加するRIO KANDA KOVAC選手-Journal-ONE撮影

皆さん準備が整うと、中谷コーチが大きなモニターを引っ張ってきました。先ずは今日の練習ポイントを映像で確認するミーティングです。
日本選手権を想定し、キーとなるプレーとその課題点を丁寧に説明する中谷コーチ。選手たちもその意図を漏らさず理解しようと真剣な眼差しです。具体的にどのプレーかをここでお伝えできないのは残念ですが、日本選手権は久しぶりの有観客試合ですので、実際に生で観戦してその成果を見届けて欲しいですね。Wheelchair Rugby 第24回車いすラグビーのAXE直前練習-Journal-ONE撮影

Wheelchair Rugby 第24回車いすラグビーのAXE直前練習-Journal-ONE撮影

「日本選手権は、今まで観ていただいた試合とは雰囲気が異なります。パラリンピックほどではありませんが、選手の気合いとスピードが全然違います。なので、スピード感ある試合展開でもしっかりと連携プレーができるように調整するのが、今日の練習の趣旨ですね。」と教えてくれたのは、パラリンピック・ロンドン大会とリオデジャネイロ大会の日本代表を務めた岸 光太郎選手です。
「それと、会場に観客が入るため、ベンチやコート内での指示が聞こえないことがあります。ですから、今日はいつもより多く選手同士でコミュニケーションを取り、さまざまなシーンを想定した意思確認をしておく必要があるんです。」と、岸さんもコミュニケーションの大切さを話します。Wheelchair Rugby パラリンピックロンドン大会・リオデジャネイロ大会の日本代表 岸光太郎選手-Journal-ONE撮影

中谷コーチの指示で、ポイントとなるプレーを想定した模擬試合が始まりました!
プレー前に想定される場面を中谷コーチが選手に伝え、ラインを変えながら何度も何度も模擬試合を繰り返します。プレーを止めるたび、峰島さんと岸さんを中心にした選手同士の意思確認が行われます。Wheelchair Rugby 岸光太郎選手と峰島靖選手(AXE)-Journal-ONE撮影
相手チーム役に終始する、リオさんの動きがとても速いため、全体的にキレとスピード感のある模擬試合になっています! これが本番の日本選手権では当たり前の速さなのでしょうか。選手たちは、自分の役割をひとつひとつ確認しながら連携の理解を深めているようです。
「日本選手権本番は、当然この練習のとおりにはいきません。でも、繰り返しの練習を続けることで動きに余裕ができるため、実際の試合でも全体の動きを俯瞰しながらマークすべき選手をしっかりと追って対応できるようになるんですよ。」と、小川 晃生選手が、この練習の重要性を教えてくれます。Wheelchair Rugby AXEの練習に参加するRIO KANDA KOVAC選手-Journal-ONE撮影

試合中、ベンチにいるときはいつも岸さんと戦術について “ひそひそ話” をしている東京2020・銅メダリストの倉橋 香衣(かえ)選手も、「私は、自分の対応できるゾーンで穴を空けないよう、全体を見渡しながらプレーしているんです。“ひそひそ話” は何を話したか記憶にないですけど(笑)、恐らく同じローポインターの選手の動きを見て、プレーの意図やさまざまな可能性を(同じローポインターの)岸さんと話しているんだと思います。」と笑顔でコミュニケーションの大切さを教えてくれました。Wheelchair Rugby 東京2020 銅メダリストの倉橋香衣選手(AXE)-Journal-ONE撮影

そして、日本選手権優勝にはハイポインターの攻守にわたる活躍は欠かせないところ。
峰島さんと若きエース・青木さんはもちろんですが、パワー全開のプレーが信条のニック選手の活躍こそが鍵を握っているといえるでしょう。
そのニック選手。50歳を超えているとは思えないスピーディーな動きでマッチアップしています。マッチアップの相手は息子のリオさんです!Wheelchair Rugby リオ選手とニック選手の親子マッチ(AXE)-Journal-ONE撮影
「リオとプレーすると、いつも熱くなっちゃうんですよ。上手くプレーできないとリオに “何でそんな動きをするの!?” “なんでそれが出来ないの!?” と注意されるから、なにクソってね(笑)」とニックさん。実の息子、しかもカナダナショナルチームの息子と堂々と渡り合うニックさんの姿は本当に躍動しています。親子で真剣にスポーツできるという素晴らしい長所も車いすラグビーは持ち合わせているんだなぁと感心しながら魅入ってしまいますね。
リオさんのお陰で、ニックさんの日本選手権への準備も万端となりました!Wheelchair Rugby リオ選手とニック選手の親子マッチ(AXE)-Journal-ONE撮影

午前中のハードワークを終えた中谷コーチ。「午前中の動きは、正月明けとしてはまずまずだったのではないでしょうか。今日、タカさん(乗松 隆由選手)がコンディション不良で休みなので、彼のラインが試せないのは痛いですが・・・午後は更に負荷をかけて、“秘密兵器” も投入して対策を万全にしていきます。」とのこと。
あれ? “秘密兵器” ってリオさんのことでは無かったのかな?と思いつつ、午後の練習まで一休みとなりました。

昼食を挟んだ午後は、更に激しい試合形式の練習が続きます。
中谷コーチ、今度はご自身がハイポインター用のラグ車(車いすラグビー競技用の車いす)に乗りましたね・・・ 何と!コーチ自らが選手として仮想対戦相手に加わっての練習が始まりました。Wheelchair Rugby 中谷HCとニック選手のマッチ(AXE)-Journal-ONE撮影
ラグ車の操作って、本当に難しいんです。私やレポーターのNiinaも実車を体験したのですが、本当にラグ車が言うことを聞いてくれない・・・ 右腕と左腕を別々に素早く動かしながら繊細でスピーディーなチェアワークを行うことは本当に難しいんです。
しかし、中谷コーチはリオさんと同じくらい素早い動きで、どんどんAXEが課題とするポジショニングに突っ込んで行きます。中谷コーチとリオさんの2枚看板が相手になったことで、ユーティリティプレーヤーの羽賀さんや、ローポインターの要・リオ大会銅メダリストの山口 貴久選手へのプレッシャーが一気にキツくなったようです。Wheelchair Rugby パラリンピックリオデジャネイロ大会・銅メダリストの山口貴久選手-Journal-ONE撮影

「今日は、動きが俊敏なローポインターであるタカがいないので、その役目を僕が担わなければならない。午後は自分の限界に挑戦します。」と言っていた山口さん。ゾーンディフェンスで鉄壁の守りをしながら、スペースに積極的に切り込んでボールを運ぶ動きを繰り返しています。練習後には、「今日の練習は想定以上にキツかった・・・ でも、日本選手権でこれくらいの動きをすれば、もっとチームの勝利に貢献できると思いますから本番も頑張ります。」と高松合宿で見せた休憩なしの長距離運転に負けないハードワークを誓っていた山口さんでした。

「今日は、心身共に追い込んで良い練習が出来ました。」と羽賀さんも、練習後に手応えを話します。「私たちのようなアスリート雇用選手同士は平日でも連携プレーの確認ができますが、フルタイム勤務の選手とは連携プレーの確認をする最後の機会です。本番前の最後のチーム練習で、これだけ出来たのは良かったです。」と、今日の成果を教えてくれました。
普段は、加圧トレーニングを取り入れた追い込む練習も欠かさない羽賀さんですが、それでも今日の練習は結構キツかったんですね。Wheelchair Rugby 東京2020・銅メダリストの羽賀理之選手-Journal-ONE

午後の練習が始まってから暫くすると、新しい選手がやって来ました。どこかで観た気がするなぁと遠くから眺めていたら何と!リオ、東京2020の銅メダリスト・池崎 大輔選手です。中谷コーチが言っていた “秘密兵器” とは、池崎さんのことだったんですね!
チェアワークとスピード溢れるプレーで日本のエースとして活躍した東京2020では、大会前から注目されるアスリートとしてさまざまなメディアで紹介されていた池崎さん。
所属チームのTOKYO SUNSが活動をしていないため、今年の日本選手権に出場することはありませんが、日々のトレーニングも兼ねてAXEの練習に参加したのだそう。
「日本選手権には出場しませんが、現地でライブ解説を行いますので、皆さん応援に来て下さいね!」と、池崎さんも3年ぶりに開催される日本選手権を楽しみにしているようです。Wheelchair Rugby 東京2020・銅メダリストの池崎大輔選手-Journal-ONE

中谷コーチが池崎さんと交代し、ハードワークはまだまだ続きます。
日本代表のエースと、カナダナショナルチームの若き新星がいるチームを生で観ることができるとは、お年玉を貰った気分です。
池崎さんは、AXEの選手たちの特長をとても良く把握していて、味方チームに入れ替わり入ってくる選手ひとりひとりに、ポジション取りやスペースへの動き方を細かく教えています。中谷コーチに加え、優秀な臨時コーチがひとり増えたような様子に、選手たちの集中力もより高まっていきます。Wheelchair Rugby 東京2020・銅メダリストの池崎大輔選手と峰島靖選手-Journal-ONE

「私も日本選手権は初体験(3年ぶりの開催・以前はRIZEに所属)になるんですが、今日のような激しい試合展開が緊張感ある雰囲気の中で繰り広げられると聞いているので、楽しみですが緊張します。」とスタッフの坂井さん。
同じスタッフの一瀬さんは、午前中の練習から審判としてずっと走りっぱなしで・・・「これだけスピード感ある試合をジャッジしていると、もう脚がパンパンですよ!」と合間にストレッチをしながら選手たちの調整を後押しします。メカニックの川畑さんは、朝からずっと全ての選手のタイヤをひとつひとつ丁寧にチェックし、本番に向けたラグ車のコンディション調整に余念がありません。Wheelchair Rugby 第24回車いすラグビーのAXE直前練習-Journal-ONE撮影

「実際の試合を想定して、さまざまなプレーの確認が出来たので本当に良かったです。」と練習後に語った峰島さん。ほぼ全ての時間をプレーしたAXEのポイントゲッターは、ハードワークの疲れも見せず充実した笑顔を見せてくれました。Wheelchair Rugby 峰島靖選手(AXE)-Journal-ONE撮影

いよいよ迫る “第24回 車いすラグビー日本選手権大会”!
1月20日(金)から1月22日(日)の3日間、千葉ポートアリーナで有観客試合として開催されます。2024年のパラリンピック・パリ大会に向けての準備ともなるこの大会を、生で観戦して車いすラグビーの魅力を体感して下さいね。

アクセス
日本財団パラアリーナ
  • 新交通ゆりかもめ「東京国際クルーズターミナル駅」下車 徒歩すぐ

 

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