世界レベルの国内リーグは遠征続き
2022年春に開幕した女子ソフトボールの新リーグ “JDリーグ”。 オリンピック・東京大会(以下、東京2020)で2大会連続金メダルに輝いた、ソフトボール日本代表選手をはじめとする国内外のトップアスリートたちが集い、世界屈指のゲームを展開するエキサイティングな国内トップリーグです。世界中のスポーツファンからの注目を浴びるこのJDリーグ、2年目の2023シーズンもいよいよ終盤戦に差し掛かりました。
週末14節で29試合を戦い、11月に行われるプレーオフ、ダイヤモンドシリーズに進出できる上位7チームを目指すリーグ戦ですが、その殆どをアウェイ(本拠地以外の地域)で戦うため選手たちのスケジュールは苛酷です。しかし、チームを応援するファンやスタッフの皆さんの移動も大変!アウェイの試合では圧倒的な地元開催のチームと声援の差が出てしまいます。
残り3節となった第12節、愛知県大口町を本拠地とする西地区の東海理化チェリーブロッサムズが、同地区の伊予銀行ヴェールズの地元・愛媛県松山市に遠征した試合。応援する皆さんも遠征は大変だろうと思いスタンドを見ると、大きなチームフラッグを中心にのぼり旗や横断幕がたくさん飾られていて、まるでホームゲームのような勢いある応援席ではないですか!
“支える人” の思い
「選手ごとの横断幕は、選手が所属する会社の部署がお金を出し合って自主的に作ったものなんですよ。」と、チェリーブロッサムズのユニフォームを着た男性が教えてくれます。「最初はある選手の部署が作り始めたのですが。それを見た他の部署の社員たちが “うちの部署でも所属選手を応援しよう” と、どんどん数が増え始めて今では飾り付ける時間が足りないくらいです(笑)。」と、カラフルなデザインの横断幕を指差すこの男性は・・・ 何と!東海理化の代表取締役社長・二之夕 裕美(ひろよし)さんです!
背番号39の上には “NINOYU” と名前が記されたマイ・ユニフォームを着て応援する二之夕さんは、「グラウンドでプレーする選手たちと同じ気持ちで戦うのです。番号は、観に来ていただいたファンや社員の皆さんに “サンキュー” と感謝を込めてね。」とのこと。ここまでわずか1勝と苦しむチームを応援したいと、松山ラウンドに足を運んだ思いについて、「企業スポーツは、景気が悪くなると最初に整理対象となりますよね? でもそれをやってしまうと、社員たちの雰囲気が湿ってくるのです。企業スポーツを続けることは、人への投資の一つ。自分の会社の社員が活躍している姿を見ることで、会社が明るくなってくれるのです。」と、選手の奮闘が社業にも活かされていると教えてくれます。
今夏の社会人野球 “第94回 都市対抗野球大会” では、東海地区代表として初のベスト8入りを果たした野球部を例に出し、「東海地区はレベルが高いチームが幾つもあって、その中で勝ったり負けたりするなかで社員に笑顔を与えてくれるのです。トップアスリートであるチェリーブロッサムズの選手たちは、勝てなくて悔しい思いをしているでしょう。でも、全力で支えるので安心してソフトボールに取り組んでもらいたいですね。」と、試合前練習で元気にグラウンドを動き回る選手たちを優しい目で見つめながら “支える人” の思いを教えてくれました。
チーム一丸で壁を乗り越える
今季2勝目を目指すチェリーブロッサムズは、兵庫県尼崎市を本拠地とするシオノギ レインボーストークスとの対戦。「昨シーズンから、レインボーストークス戦での登板で勝てていないので、今日は何とか勝ちたいです。」と話していたのは、先発のエース・永谷 真衣投手。
しかし、初回から連打を浴びた永谷投手は1死満塁といきなりのピンチを迎えます。マウンドに集まった選手たちは、互いに何かを確認。前進守備でクリンアップの古藤 優実選手に対します。すると、ここから永谷投手のギアが一気に上がります! 「得意のライズボールを見切られていたので、思い切って攻め方を変えることを確認したんです。」と試合後に教えてくれた永谷投手は、アウトコースの速球を主体に内野ゴロと三振でピンチを脱します。
3回のピンチも切り抜けた永谷投手でしたが、4回の先頭打者・戸村 美紅選手にやはりライズを狙われて一発を浴びてしまいます。しかし、「先制点を取られましたがソロホームランだったので、流れが相手に行っている感覚はありませんでした。永谷さんが良い投球をしていたので何回かは逆転するチャンスはあるだろうなと思い、これ以上の失点を重ねないよう必死に守りました。」と、この場面を振り返ったのはキャプテンの上村 奈実選手です。中盤以降勢いを増すレインボーストークス打線は、あわやホームランという大きな打球を何本も放ちますが上村選手を中心とした外野陣が必死のディフェンスでアウトを重ねていきます。
「最近の試合で外野の頭を越える長打が多かったので、後ろをケアしつつ通常の打球にも対応できるような守備練習を重ねてきました。その練習の成果が出て永谷さんを助けられました。」と、ひとつずつ成長しているチームに手応えを感じている上村キャプテン。
0-1と最少失点で切り抜けているチェリーブロッサムズですが、打線の方は4回までレインボーストークスの先発・堀本 優良投手の前にヒット1本に抑えられる厳しい展開。ですが上村キャプテンのいうとおり、選手たちに焦りの色はありませんでした。
5回、先頭の吉田 奈々選手が四球で出塁すると、打席には藤木 未来選手が入ります。1球目、2球目と送りバントの構えに、レインボーストークスのサードとファーストが猛ダッシュ! 簡単に同点のランナーを進めさせないという気概が伝わるプレーです。そして3球目、送りバントかと思われた藤木選手に出されたサインはヒッティング! 「吉田選手の後ろを打つ選手が大事と思い打線を組んでいますが、その役目を藤木選手が果たしてくれています。前の打席でも良いバッティングをしていたので簡単にバントさせる選択肢はなかった。」と話した中西監督の期待に見事に応えた藤木選手がレフト前にヒットを放って無死一、二塁とチャンスを広げます。
すると、第1打席でレフト前ヒットを放った朝田 雅音選手が今度はライトへ運ぶ同点タイムリーを放つと、更に井上 瑞樹選手のヒットエンドランで逆転! ここまで耐え抜いてきたチェリーブロッサムズは、2死満塁とクリンアップまでチャンスを繋ぎ、最後は貝沼 晴香選手のタイムリーヒットで3点を奪うビックイニングとなりました。この一気果敢な全員攻撃にベンチの盛り上がりは最高潮。流れは完全にチェリーブロッサムズのペースとなりました。
「(逆転した回、)チームの一体感が伝わってきて熱くなるものがありました。2点差を付けてくれたこともあり、思い切って投げることができました。」と振り返った永谷投手がレインボーストークス打線をピシャリと抑えて完投勝利! 試合後に感極まった永谷投手は、「今年、任された試合で長い回を投げることができないことが多かったので、ようやく自分の投球で勝ち切ることが出来て・・・つい涙を流してしまいました。」とその理由を教えてくれました。
度々のベンチワークで流れを持ってきた中西監督は試合後、「相手の堀本投手は速球が武器ですが、チェンジアップを多く混ぜられて少し選手たちも戸惑ったようでしたので、チェンジアップ狙いに変えました。」と、一気果敢に攻めて逆転した場面を振り返ります。
永谷投手の粘りの投球についても、「ゲーム立ち上がりは、どんなピッチャーでも難しいものです。ランナーを溜めた場面でも落ち着いて良く守備が守ったと思いますし、ピンチの後も永谷投手が落ち着いて持ち味を出してくれました。」とエースを労いました。
来週の地元開催(豊橋ラウンド)に向けて弾みが付いたことについては、「豊橋ラウンドに来ていただくお客さんも、今日来てくれたお客さんも、毎回球場に来れる訳ではありません。その日その試合で、常に全力でプレーするところを見せたいと思い臨んでいるので、そういった意味では今日は良い試合を観ていただけたと思います。昨シーズンのデータを取られて対策をされている今シーズンは、努力をしていても中々結果に結びつかないこともあります。まだまだ苦しい戦いが多いですが、良い戦いが増えてきています。”良いゲームだったね。“ と終わるのではなく、会社の人に元気を与える目的である “勝つ” ところを見せて一緒に喜びたいですね。」と地元開催への抱負を中西監督が語ってくれました。
ルーキー対決の行方は
初の連勝を狙うチェリーブロッサムズの次の相手は、地元・愛媛県の伊予銀行ヴェールズです。この試合の両先発は共に “期待の大卒ルーキー” の田畑 七海投手(金沢学院大)と遠藤 杏樺投手(IPU・環太平洋大学)の登板となりました。
チェリーブロッサムズの田畑投手は、昨年の第57回全日本大学女子選手権(インカレ)優勝投手。ヴェールズの遠藤投手も3位と。共にゴールデンルーキーとして期待を背負ってここまで戦ってきました。「JDリーグではまだ未勝利(遠藤投手は5勝)。これだけ経験を積ませていただいているので、早くチームに貢献したいと思っています。昨日、永谷さんが持ってきてくれた良い流れを活かして勝ちに繋げたい。」と強い気持ちでマウンドに登りました。
しかし初回、簡単に先頭打者を打ち取ると、2番・松瀬 清夏選手にスリーベースを許すと、ヴェールズの主軸・辻井 美波選手と本間 紀帆選手に四球を与えてピンチを広げてしまいます。何とか最少失点に抑えた田畑投手でしたが、「自分は考え込んでしまうタイプなので、守備のテンポを大事に捕手のリード通りに投げきらなければならなかったのですが・・・」と、3回途中で降板したこの日の投球を振り返ります。
0-3のビハインドで迎えた6回にツーベースを放ち、反撃の口火を切った上村キャプテンも、「去年は1部(JDリーグ)に上がって怖いものなしでした。相手もデータがなかったので、自分たちがやりたいソフトボールができたのですが、今年は攻略されることが多く苦しい試合が続いています。」と今シーズンを振り返ります。
「そんな状況でも、自分たちのソフトボールである粘り強さを出していこうと話しています。田畑投手の加入でローテーションもしっかりと回るようになったことで、永谷投手と田畑投手の後ろに控えるバリエーションある3人の投手陣も活きてきました。」と、田畑投手を労う上村キャプテンの言葉には、チームが成長している自身に溢れていました。
次は今シーズンのホーム最終節!
“仕事とソフトボールの両立” を大切に世界屈指の選手たちと戦うことはとても大変だと想像しますが、「職場の方たちとの距離が近いので、地元開催での声援は本当に私たちの力になります。」と、その効果を教えてくれた上村キャプテン。
初戦の殊勲打を放った朝田選手も、「豊橋ラウンドでは、今節の良い流れを活かして職場の方に普段と違う姿を観ていただきたいです。」と、豊橋ラウンドでの連勝を誓います。
「大学と違いトップリーグではギリギリの勝負が必要となりますが、カウントを悪くして守備のリズムを悪くしては勝てる試合も落としてしまうと実感しました。地元・豊橋ラウンドでは、地元の方々、会社の方々に少しでも感謝の気持ちを伝えるようなプレーを見せて、初勝利を掴みます。」と、前を向いて決意を新たにしていました。
残り2節となったJDリーグの2023シーズン。次の第13節(10月21日、22日 ※一部20日も開催)は、静岡県掛川市、愛知県豊橋市、岐阜県大垣市、福岡県北九州市で。最終節となる第14節(10月28日、29日)は、群馬県高崎市、埼玉県本庄市、愛知県名古屋市、京都府京都市で開催されます。
2028年オリンピック・ロサンゼルス大会での実施競技復活が決まり、これから益々熱くなる女子ソフトボール。お近くの町で開催されるJDリーグを観戦して、ハイレベルな戦いを演じる選手たちの笑顔を間近に観てみませんか?きっと皆さんも、ソフトボール観戦の面白さに気付いてもらえると思います。
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