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アジア大会6連覇の源
全国から勝ち残った32チームの女子ソフトボールチームが、佐賀県太良町、白石町に集結!
ソフトボール日本一の座をかけて戦う “全日本総合女子ソフトボール選手権(以下、全日本総合)” に集った32チーム中、その半分の16チームが日本国内のトップリーグ “JDリーグ” に所属するチーム。
10月2日、中国・浙江省紹興市 紹興野球ソフトボールスポーツ文化センターで行われた日本代表と中国代表の一戦は、“第19回アジア競技大会(以下、アジア大会)” のゴールドメダルゲーム。この日まで予選5戦全勝と、完璧な強さを見せて決勝に駒を進めました。
初回に先制アーチを放った、4番の内藤 実穂選手(ビックカメラ高崎ビークイーン)や、先発で4回2死まで中国代表打線を零封した後藤 希友投手(トヨタレッドテリアーズ)など、6大会連続金メダルに輝いた日本代表メンバー全員はこのJDリーグに所属。また、このアジア大会に選ばれたうちの6選手が、2020年オリンピック・東京大会(以下、東京2020)で金メダルに輝いた日本代表の選手たち(東京2020に選出された15名中、6名は既に現役引退)なのです。
この世界トップクラスを誇る選手たちが集うJDリーグには、銀メダルのアメリカ代表、オーストラリア代表、メキシコ代表、イタリア代表などの海外の強豪チームで活躍した選手たちも数多くプレーしています。国内にいながら、オリンピックのような国際色豊かなハイレベルの戦いがその目で見られる珍しいリーグです。そんな世界トップレベルの選手たちに、大学ソフトボールのメインイベント “全日本大学女子選手権(以下、インカレ)” で死力を尽くして戦ったばかりの大学ソフトボール部を中心とした残る16チームが挑むノックアウトラウンドが全日本総合。
何が起こるか分からない一発勝負の決戦は、JDリーガーにとって “決して負けられない戦い”。このレポートでは、様々な思いを胸に大学ソフトボール部を迎え撃つJDリーグの選手たちに焦点を当て、その戦いを振り返ってみたいと思います。大学生がJDリーガーに挑戦したその思いを紹介した “大学生の挑戦!-日本総合女子ソフトボール選手権大会” のレポートも合わせて読んで頂き、全日本総合ならではの面白さを知っていただければ嬉しいです。
大学日本一に対峙する -伊予銀行ヴェールズ
JDリーグ西地区所属、今シーズンはなかなか投打のバランスがかみ合わず、リーグ戦残り7試合を残した時点で同地区6位に位置している “伊予銀行ヴェールズ” が、インカレを10年ぶりに制覇し勢いに乗る、愛知県の中京大学と対戦しました。
「今シーズンは、選手たちのコンディションが上がらず苦戦を強いられています。シーズンも終盤に入り、疲れも見えている中での全日本総合となりますが、一つでも多く勝って残りのリーグ戦での勢いを付けたいです。」と話してくれたのは、今年からヴェールズを率いている石村 寛監督です。
ソフトボールは女子だけでなく男子のレベルも高く、2023年7月時点でのWBSC(World Baseball Softball Confederation)世界ランキングでは世界3位(女子はアメリカに次いで2位)なんです。その男子ソフトボール界で、世界男子ソフトボール大会に2度出場。2009年は主将としてチームを牽引してきた石村監督は、前年までヘッドコーチとしてU-23(23歳以下)男子日本代表を率いていた手腕を買われ、ヴェールズの監督に就任しました。
対する、愛知県の名古屋市と豊田市にキャンパスを構える中京大学は、今年のインカレを10年ぶりに制した “大学チャンピオン” ! 扇の要で主将の市川 愛渚(ひな)選手(星野高)をはじめとする主力4選手は既に来春のJDリーグ入りが内定しており、在籍する3年生も成瀬 結衣投手(星城高)を中心に高い能力を持つ選手たちが揃っている強豪です。
中京大学を日本一に導いた、二瓶 雄樹部長兼監督が、世界を知る名将・石村監督にどんな采配で挑むのか注目の一戦。昨年鹿児島で開催された全日本総合では、JDリーグ16チーム中3チームが大学、下部チームに敗れているだけに緊張感ある試合展開が予想されます。
両エースが力投する序盤
ヴェールズ・庄司 奈々投手、中京大学・成瀬投手と、共にエースが先発しました。
庄司投手は、リーグ戦ではここまで例年どおりの勝ち星を積み重ねることが出来ず、チームの成績に直結してしまっています。「今シーズンは、攻撃陣がせっかく点を取ってくれても打たれてしまうという悪い流れが続いています。とは言え、決して調子が悪いわけではないので、とにかく打者ひとりずつと丁寧に勝負して自分らしい投球をしたいです。」と、全日本総合で良い流れを引き寄せたいと話す庄司投手。初回、先頭打者に死球を与えますが、“ひとりひとり” 丁寧に投げ続けて序盤を無失点で凌ぎます。
インカレ決勝では、園田学園大学を相手に1失点の完投勝利を挙げて “胴上げ投手” となった成瀬投手も好調を維持。力強いフォームから繰り出すライズボールを武器に、JDリーガー達に真っ向勝負を挑みます。「新チームとして始動する選手たちにとっては、来年につながる試合になるよう。」と話していた二瓶監督の期待通り、先頭に四球を与えるものの長打力のあるクリンアップ・辻井 美波選手、本間 紀帆選手を打ち取って無失点。
すると2回裏、チャンスを掴んだのはヴェールズでした。先頭の中京大学OGの川口 茉奈選手が四球で歩くと、続く居内 佑加選手もヒットで続き2死満塁と攻めたてます。ここで1番の松瀬 清夏選手がセンター前にタイムリーヒットを放ち先制に成功しました!
急転の天候に試合も動く
9月中旬にもかかわらず、佐賀県白石町は真夏のような暑さです。選手たちももちろんですが、審判の皆さんや大会運営に携わる皆さんも汗だくです。しかし、4回表の中京大学の攻撃中に真夏のような天候が一変! 大粒の雨が降りしきるスコールとなりました。
2死1塁で打席に立つのは、来春トヨタレッドテリアーズへの入団が内定している5番の市川選手。ヴェールズと同じJDリーグ西地区に所属するレッドテリアーズ・市川選手とは今後戦う機会が多くなるため、何としても打たれるわけにはいきません。降りしきる雨が “水を差す” 中、捕手の安川 裕美選手が一生懸命濡れたボールを拭いて手渡ししますが、その効果が全くなくなるほど雨脚が強くなってきました。
「確かに雨は投げにくいのですが、全日本総合って毎年雨が降るんですよ。だから突然の雨でしたが、“お~来た来た”っていう感じでしたよ(笑)。」と話す庄司投手でしたが、濡れたボールの扱いは難しく市川選手にフルカウントから四球を与えてしまいます。
「流石に一時中断でしょ?」と言わんばかりに主審の顔を覗き込む安川選手。主審もバックネットの運営に相談しますが、結果は続行。この判断が試合を動かすことになりました。
ここで打席に入るのは、代打・2年生の竹田 愛佳選手(千葉経大付属高)です。2年生とは思えない雰囲気ある構えの竹田選手は新チームで主力として期待されている選手です。庄司投手の速球を豪快に振り抜いた打球は詰まりながらもセンター前に落ちるタイムリーヒット! 大学女王・中京大学が中盤に同点に追いつきました。
先輩の意地が勝敗を左右する
中京大学に傾きかけた流れを引き戻そうと、得点圏に走者を送るヴェールズ。積極的に選手を代えて勝ち越し点を奪おうとする中京大学。それぞれ1回ずつの攻防は無得点のまま5日裏、終盤戦に入ってきました。
5回裏も2死無走者となったヴェールズですが、ここから得点力の高いクリンアップがJDリーガーの力を見せます。今シーズンここまでリーグ3位タイの12四球を選んでいる辻井選手が四球で出塁すると、チャンスにめっぽう強い4番・本間選手が得意の “状況に応じたバッティング” でセンター前にヒットを放ち、2死ながら1、2塁と勝ち越しのチャンスを作りました。
ここで二瓶監督を中心にマウンドで円陣を組む中京大学。その視線の先で打席に入るのは、中京大学在籍時の2020年にコロナ禍で代替大会となったインカレの優勝メンバー・川口選手です! 試合を決するシーンでの先輩後輩のガチ対決が見られるのも、全日本総合の魅力。カウント3-0と投げにくそうな成瀬投手でしたが、インサイドを強気に攻めて3-2のフルカウントまで持っていきます。いよいよ勝負球!「ライズにてこずっていたので、なんとかそれを打とうと振り切った。」と試合後に話した川口選手が放った打球は、左中間を破る勝ち越しの2点タイムリーツーベース! 2塁ベース場で渾身のガッツポーズを見せました。
「リーグ戦では、この打順の巡り合わせで得点が出来ずに苦しい展開が続いていましたが、ひとつ吹っ切れた感じです。」とこの試合の最大の成果を教えてくれた石村監督。
更には、今年は思うような結果が出ずに苦しいシーズンを送っている6番の居内選手が豪快に振り抜いた打球は、ライトフェンス越えまであと50cmと迫る豪快なタイムリーツーベース! ついにヴェールズの得点パターンが機能して勝ち越しに成功しました。
ご当地選手の活躍に家族も応援
この全日本総合は、毎年 “国民体育大会(来年からは、国民スポーツ大会に改名)” のリハーサル大会として全国を回って開催されます。そのため開催する各県では、その県に所縁のある “ご当地選手” に注目が集まります。
実は佐賀県、女子ソフトボールが盛んな地域。女子ソフトボール界の名門・佐賀女子高からは、東京2020金メダリストの二刀流・藤田 倭投手(ビックカメラ高崎ビークイーン)、同じ東京2020金メダリストでアジア大会決勝で決勝のホームランを放った内藤選手、同じアジア大会日本代表の中溝 優生選手(太陽誘電ソルフィーユ)など、数々のJDリーガーを輩出しているソフトボール王国なのです。
そんな注目のご当地選手たちが大きく紙面を占める大会ポスターですが、ヴェールズの選手も大きく掲載されているのです。その選手は久保 和咲選手。佐賀県伊万里市の出身です。伊万里と言えば “焼物” の伊万里焼が思い浮かびます。江戸時代に鍋島藩の御用窯として発展した大川内山地区は、今でも焼物の町の風情ある雰囲気が観光客に人気のスポットです。
ご両親とおばあちゃんが応援に駆けつけたこの日、久保選手は代打で出場。アナウンスで久保選手の名前がコールされると観戦していた地元の皆さんから、温かい拍手が湧き起こっていました。普段、愛媛県を拠点に全国で試合に臨む久保選手を見ることが出来る数少ない機会に、おばあちゃんも本当に嬉しそうに久保選手を応援していました。
リーグ戦に弾みの付く勝利に
1失点完投勝利を挙げた庄司投手は、「インカレ優勝チームとの対戦でしたが、特に意識はしていませんでした。自分たちもしっかり練習してきたし、やるべき自分の役割を果たしていけば自ずと結果は出るだろうと思っていたので。今日は自分自身、強気で楽しくピッチングできました。」と、残りのリーグ戦に弾みの付く勝利だったと振り返ります。「それも、ベンチのみんなの声だったり、常に勝ち越し点を取ってくれた打撃陣だったり、みんなに感謝する勝利でした。あと、今日の守備はすごかったです! 助けられて乗せられました。」と、レフトの齋藤 明日加選手のダイビングキャッチや、ライトの本間選手のフェンス激突のスーパーキャッチを思い返していました。もちろん、後ろでVサインをしている安川捕手の好リードも光りました(笑)。
「少し打球がフライ気味だったので、抜けるかどうか心配でしたが外野手の間を抜けてくれて良かったです。」と満面の笑みで話すのは。決勝のタイムリーツーベースを放った川口選手です。中京大学OGとして、後輩に良いところを見せられたことについては、「(大学時代の)チームメイト、同期や先輩、後輩たちとJDリーグで戦う時がソフトボールをしていて一番楽しいんです! 今年の後輩たちも色々なチームに入ると聞いています。また戦う機会が増えるのは本当に楽しみです。」と、今日対戦した後輩たちとリーグ戦で再戦することを心待ちにしていました。
全日本総合に続いては、愛媛県代表として鹿児島国体への出場も決まっているヴェールズ選手たち。目まぐるしく開催される様々な大会で力を付けて、リーグ戦に戻るのは10月13日。地元・松山市の坊ちゃんスタジアムでのホームゲーム3連戦に臨みます。
今シーズン最後の地元開催を3連勝で勝ち切れるよう、地元・愛媛県はもちろん、四国4県を元気にしようと取り組んでいるヴェールズを応援すべく、多くの方がスタジアムに駆けつけることが予想されます。ヴェールズと一緒に “四国を元気プロジェクト” を推進する四国旅客鉄道の皆さんや、地域のファンと一緒にスタジアムでヴェールズを応援してみませんか?