令和の世の “天下分け目” の戦い
“天下分け目” の決戦が、令和の世に再び!
女子ソフトボール世界最高峰リーグ “JD.LEAGUE(JDリーグ)” に加盟する全16チームが、有名な史実 “関ヶ原の戦い” の舞台となった美濃国(岐阜県)に一堂に会して始まった、東西地区対抗交流戦シリーズ。
レギュラーシーズン中に対戦することのない、東地区8チーム、西地区8チーム同士が激突する見どころ満載の交流戦1stラウンドは、岐阜市(長良川球場)、大垣市(大垣市北公園野球場)を戦場に、戦国の世を感じさせる様々なイベントと共に観戦した多くの観客を熱狂させました。
Journal-ONEは、この令和の世に行われた “天下分け目” の戦いをレポート。戦国の名だたる武将たちが参戦した関ヶ原の戦いと同じく、JDリーグの各チームで采配を振るう “名将” の皆さんにお話を伺いながら6月4日、埼玉県朝霞市に戦場を移して行われた東西決戦・交流戦2ndラウンドをレポートしていきます。
交流戦1stラウンドのレポート、「天下分け目の岐阜決戦」も是非読んで下さいね。
東軍・上野国 vs 西軍・近江国
2日前に全国で大きな被害をもたらした線状降水帯による大雨の影響でグラウンドコンディションは最悪。開催が危ぶまれた交流戦2ndラウンドでしたが、ここ埼玉県朝霞市の朝霞中央公園野球場をはじめとする4つの地域の関係者の皆さんの尽力によって、グラウンドコンディションは整えられ、選手たちは溌剌とプレーすることができました。
第1試合は、ビックカメラ高崎ビークイーン(群馬県高崎市)と日本精工ブレイブベアリーズ(滋賀県湖南市)の対戦です。JDリーグ元年の昨シーズン、見事初代女王の座を勝ち獲ったビークイーンは、今シーズンも女王の貫禄を見せここまで13勝1敗で東地区の首位を走ります。一方のブレイブベアリーズは、2勝11敗と厳しい戦いが続いていますが、女王・ビークイーンに一矢報いたいところです。
主君を支える名武将の存在感
戦国の世において、名将と言われる主君を支えた “名武将” も勝敗の行方を大きく左右する存在でした。織田 信長と木下 藤吉郎(豊臣 秀吉)、伊達 政宗と片倉 小十郎(景綱)、上杉 景勝と前田慶次郎(利益)など、小説やドラマ、アニメ、ゲームに至るまで現代でも注目されている重要なキャストです。
ビークイーンの岩渕 有美監督は2004年アテネオリンピックの銅メダリスト!2017年の監督就任以来、数々のタイトルをビークイーンにもたらしてきた “女子ソフトボール界きっての名将” 。この主君支えているのが、日本人の誰もが知っているレジェンド・上野 由岐子投手!歴史上の名武将と同様、ドラマやアニメ、ゲームになってもおかしくない人気と実績を兼ね備えた選手です。
上野投手は今年、リーグ戦開幕戦で511日ぶりの公式戦復帰登板を果たしたばかり。
「短いイニングならば投げられるというコンディションですが、目標は長いイニングを投げること。徐々に調整して状態を上げていきたい。」と話していた上野投手の存在感に注目したいところです。
拮抗した展開から侵掠すること火の如く
快晴の好天に恵まれたものの、過ぎ去った低気圧の影響でセンターからホームベースに向かって時折強い風が吹くコンディションの中、ビークイーンはここまで5勝を挙げている勝股 美咲投手、ブレイブベアリーズは山田 玲菜投手が先発です。
1回裏、ビークイーンは四球と犠打で1死2、3塁と先制のチャンスを作ると、日本代表でも主軸を務める4番の内藤 実穂選手がレフト前に鋭く弾き返すタイムリーヒットで1点を先制。一気果敢に攻め込みたいビークイーンでしたが、山田投手は続く藤田 倭選手、炭谷 遥香選手という強打者2人に強気のピッチングで得点を与えません。
ピンチを凌いだブレイブベアリーズも2回表、6番・沢 柚妃選手の右中間を抜くタイムリーツーベースですぐさま同点に追いつき、流れを渡さず食い下がります。
勝股投手、山田投手が要所を締め、拮抗した展開となってきた3回裏1死、ビークイーンの重量打線が一気果敢に攻め込みます。
日本代表の遊撃手、3番の工藤 環奈選手が、厳しく内角を突いた速球に反応!打球は、強い逆風をものともせず右翼深くまで届く特大のソロ本塁打を打ち均衡を破りました。
日本代表、東京2020金メダリストを中心とした、パワーとテクニックを兼ね備えるビークイーン打線は ”侵掠すること火の如く” 攻め込み、あっという間に試合の主導権を握りました。
前日敗れたものの、接戦の好ゲームを演じていたブレイブベアリーズも、4回裏1死1塁と3廻り目の上位打線を迎えたところで、後藤 明日香投手にスイッチ。後藤投手は、ビークイーンの上位打線2番・松本選手、ここまで2安打と好調の工藤選手を抑える力投を見せ味方の反撃を待ちます。
名武将の登場に沸く終盤戦
2回に失点したものの、その後は安打を許さない安定した投球で5回まで投げきったビークイーン先発の勝股投手に代わり、背番号7番がマウンドに上がるとスタンドはこの日一番の歓声に包まれます!上野 由岐子投手の登場です。
「今年は炭谷をキャッチャーとして育てていくチーム方針。若い新人もチャンスがあれば使っていきたいので、”上野が投げるから経験できる” といった雰囲気も作っていけたら良いなと思っています。」と話す上野投手。この回からマスクを被る炭谷捕手とのテンポ良いサイン交換から、攻めの投球をしていきます。
内外野全ての選手に合図を送りながら時折見せる笑顔に、“あぁ、心からソフトボールを楽しんでいるなぁ” と感心してしまいます。
結局2イニングを被安打1で投げきった上野投手は相手に全くつけいる隙を与えず、チームに14勝目、勝股投手に6勝目をもたらしました。
散発2安打と好リリーフを見せたブレイブベアリーズの後藤投手。残念ながら打線がその力投に応えることができませんでしたが、女王・ビークイーンと接戦を演じた経験は次に繋がる戦いになることでしょう。
名武将が掲げる次なる目標
「痛みを感じることなく万全の状態で投げられる喜び、久しぶりに楽しく投げられています。痛みを持っていた脚をはじめ、色々な部分(の痛み)を我慢して投げてきた。この1年、しっかりリカバリーしてきた甲斐があって余裕ある投球ができています。」と、投げる喜びを話してくれた上野投手。
今年のテーマについて聞くと、「昨年(プレーをせず)周りからソフトを見てきたので、今まで以上についた俯瞰力をテーマにしています。今までは、俯瞰した中でピンポイントに気になった部分をフォーカスしていましたが、今年は先を読む、先を感じられる心の余裕があるかなと思います。今は常に全体を見ながら細かいところまで気づけることが目標です。」とのこと。
「今年は、新人かレギュラーかで二極化しているメンバー構成なので、俯瞰力でしっかりとお互いを見て、離れないように誘導してあげたい。どのチームも世代交代が進んでいるので、ウチも上手く世代交代ができるように。特にベテランが残っている分、しっかりと引き継げるようチームに貢献していきたい。」と、試合以外でもチームへの献身を口にする上野選手。
昨年、日本代表(日米対抗ソフトボール2022)でも、ビークイーンでも色々な選手に分け隔て無く話しかけていたシーンを挙げ、既に献身的に取り組んでいるのでは?と聞くと、「特に意識してやっていないんですよね。気付いたら話しをしている。これはずっと変わらずに自然にやっていることです。今まで自分が先輩たちにやっていただいたことを、後輩に引き継いでいるんです。伝えていく、残していくが私の仕事ですから。」と笑顔で話してくれました。
「東西決戦!第2ラウンド・後編 」へ続きます。