“世界屈指のトップリーグ” が本気の頂点奪取へ
女子ソフトボール日本一のチームを決める戦い、“全日本総合女子ソフトボール選手権(以下、全日本総合)” が開催された佐賀県の太良町、白石町。全国から集まった強豪32チームのうち、半分の16チームが日本国内のトップリーグ “JDリーグ” のチームです。
JDリーグには、2020年オリンピック・東京大会(以下、東京2020)で金メダルに輝いた日本代表の選手たちはもちろん、銀メダルのアメリカ代表、オーストラリア代表など海外の強豪チームで活躍した選手たちも数多くプレーしています。日本が誇る緻密でスピーディーなソフトボールに外国人選手のパワーが加わる戦いは、女子ソフトボール界のMLB(メジャーリーグ)といっても過言ではありません。
このトップリーグ・JDリーグに挑戦しようと、大学ソフトボールのメインイベント・全日本大学女子選手権(以下、インカレ)で死力を尽くして戦ったばかりの大学ソフトボール部を中心とした残る16チームも牙を研いで向かってくる中、“決して負けられない戦い” を制して頂点を目指すのは本当に険しい道のりです。
このレポートでは、頂点を目指すJDリーグの選手たちと、勝利を願い熱い声援を送る “観る人” に焦点を当て、初戦の戦いを振り返ってみたいと思います。大学生がJDリーガーに挑戦したその思いを紹介した “大学生の挑戦!-日本総合女子ソフトボール選手権大会” のレポートも合わせて読んで頂ければ、この大会の面白さがより分かると思います。
熊本からの応援を背に -大垣ミナモ
太良町グラウンドのオープニングゲームに登場したのは、JDリーグ東地区に所属する大垣ミナモです。リーグ戦前半は苦しい戦いが続きましたが、前半戦最終節から調子を上げて開幕戦では地元・大垣のファンの声援を背に連勝を飾るなど好調を維持しながら、全日本総合に参戦してきました。
アイドルのコンサートに来たのか?と二度見してしまうような、キラキラした手作りの応援うちわを持った女性ファンたちがミナモのベンチサイドで応援をしています。「推しの選手はだれかな?」と思い、うちわのデザインを覗くと・・・ 何と!ミナモの門松 浩孝監督ではないですか!
この可愛らしい “門松応援団” の正体は、熊本県立熊本商業高校女子ソフトボール部の皆さん。今年の3月まで門松監督が率いていた “教え子たち” の応援団だったのです。熊本県立八代東高校や熊本商業高校で教鞭を取りつつ、ソフトボール部を全国高校選抜大会やインターハイに何度も導き、上位進出を果たしてきた門松監督が、日本最高峰リーグのチームを率いる勇姿を応援しようと、朝6時半に熊本を出発してここ佐賀県太良町までやって来た訳です。うちわのデザインに納得ですね。
現在、熊本商業を率いているのは、こちらも門松監督の教え子・松本 愛依理先生です。この夏、インターハイに進んだ強豪校を率いる松本先生も現役時代は門松監督の下で、汗を流した選手なんですね。「門松先生の足元にも及びませんが、教わったことをひとつひとつ選手たちに伝えています。」と話す松本先生に、門松監督の印象を聞いてみました。
「門松先生は本当に良くソフトボールを知っていて、プレーひとつひとつの意味を教えて頂きました。一番印象に残っているのは、練習中にくじけそうになったとき、『人生は80年、高校生活は3年、その中の部活動という一瞬に全力を尽くせなければ人生そのものにも力を尽くすことは出来ない。』と言われたことです。今でも、辛いことや苦しいことがあるときはこの言葉を思い出して全力を尽くしています。」とのこと。
熊本商業の選手たちの特徴については、「本当に素直で良い子たちばかりなんです。それ故、何でも『はい!』と言って言われたことをやってしまう。先ほどの門松先生の教えのように、プレーひとつひとつの意味まで理解して動いているのか? 分からないけれども『はい!』と返事をしているのか。この辺を見極めながらコミュニケーションするように心がけて練習や試合に臨んでいます。」と、話してくれました。
対戦相手はインカレ ベスト4
関東ブロック3枠のひとつを勝ち取り、全日本総合に出場した山梨県の山梨学院大学。今年のインカレではベスト4に輝いた実績を持つ強豪校がJDリーグのミナモに挑戦します。
「トーナメントですので、失敗は許されません。特に初対戦の相手ですので、集中力を保って試合に臨みました。」と、試合後にキャプテンの須藤 麻里子選手が話したように、序盤から緊迫した試合展開となりました。ミナモの先発・中山 日菜子投手が内野安打でいきなり先頭打者に出塁を許しますが、長井 美侑捕手の盗塁刺殺でピンチの芽を摘み取ると、素晴らしい投球術を駆使して山梨学院大学に出塁を許しません。
打線は初回、山梨学院大学の先発・田中 愛花投手(山梨学院高)を攻め、1死から近本 和加子選手、伊藤 梨梨花選手の連続ヒットで先制のチャンスを作りますが、田中投手に後続を打ち取られ無失点に終わります。続く2回も西野 希美選手が内野安打を放って出塁するなど、じわじわとプレッシャーを掛けていくミナモ。すると3回、近本選手のツーベースと伊藤選手のスリーベースの連続長打!JDリーガーのパワーを見せ付ける攻撃でついに先制点をもぎ取りました。
しかし、門松監督が試合後に「山梨学院大学の守備は、想像を超える良さだった。」と振り返った通り、1死1・3塁と絶体絶命のピンチに二盗を刺殺した椋梨 琳花捕手(星城高)や、ライト前に抜けるかと思われた打球に飛びついたセカンドの河西 真奈選手(山梨学院高)など、光るプレーで追加点を許さない山梨学院大学。インカレ ベスト4まで進出したチーム力を存分に発揮します。
4回にも、鈴村 二千花選手の安打と毎回塁上に走者を送るミナモは、5回の先頭・近本選手が左中間を深々と破るランニングホームランで欲しかった追加点を挙げると、もう援護は十分でした。リーグ戦ではなかなか勝ち星に恵まれなかった中山投手ですが、初回以降全く危なげないピッチングを披露。山梨学院大学打線を完封して、JDリーガーとしての貫禄を見せてくれました。
この日、リーグ戦とは異なる1番に起用された内田 小百合選手は、「とにかく勝ててホッとしています。この勢いで次も勝ち上がっていきたいです。」と、笑顔で試合を振り返り応援してくれた高校生との記念撮影に応じています。
「門松さんのこと好き? 私も好きよ。」と流ちょうな日本語で、熊本商業ソフトボール部の皆さんに話しかける、東京2020オーストラリア代表にも選ばれたEren Roberts(エレン・ロバーツ)投手に高校生たちは興味津々。あっという間に大勢でエレン投手を取り囲んで、ソフトボールの話しで盛り上がっていました。
リーグ戦も総合も狙うは優勝 -日立サンディーバ
「緊張感あるトーナメントでの戦いは、JDリーグでの優勝に向けても良い経験になります。」と話すのは、こちらもJDリーグ東地区に所属する日立サンディーバの村山 修次監督です。
全日本総合で一時中断されているJDリーグ2シーズン目となる、2023年のリーグ戦では東地区3位に付けているサンディーバ。2位のデンソーブライトペガサスとは僅か0.5ゲーム差。日本一を目指すポストシーズンのダイヤモンドシリーズや、プレーオフ進出に向けてますます負けられない戦いが続きます。
日本代表の常連で、この大会直後に開催された “第19回アジア競技大会2023中国・杭州” にも選ばれ、日本の6大会連続の金メダル獲得にも貢献した坂本 結愛選手。同じく日本代表として8月の “日米対抗ソフトボール2023”で活躍した唐牛 彩名選手。アメリカ代表チームのHannah Flippen(ハンナ・フリッペン)選手、東京2020メキシコ代表のTaylor McQuillin(テイラー・マクイリン)投手など、ワールドワイドに名選手を擁するサンディーバに挑むのは、インカレ準優勝!JDリーグに何人もの選手を輩出している兵庫県の名門・園田学園大学ソフトボール部。
大垣ミナモと山梨学院大学の一戦を見ながら、「私たちの目標は全日本総合でも優勝です。JDリーグとは違った相手で緊張感はありますが、リーグ戦で新たな戦力となって欲しい選手たちも起用しながら、(決勝までの)5試合を戦っていきます。」と、村山監督がこの大会にかける抱負を語ってくれました。
全日本総合の優勝を後押しすべく、大きな機材を持ち込んでこの一戦に臨む人たちの姿もあります。日立サンディーバ応援団の皆さんです!
JDリーグ全16チームにはそれぞれ応援団があり、日本全国の試合に駆けつけては熱い声援を送っています。チームごとに特長ある応援スタイルはJDリーグ観戦のひとつの楽しみですが、全日本総合となると帯同する応援団は殆ど居ないのです。それ故、佐賀県太良町に観戦に来た皆さんはサンディーバ応援団を見られて少し得をした気分になったことでしょう。
「私が応援団になったのは、コロナ禍真っ只中の3年前。それを思えば、こうやって声援を送ることが出来る日々はとても充実しています。」と話してくれたのは、応援団長の天木 健介さんです。日立でグルーバル事業に携わる天木さんですが、応援団就任を打診されるまでソフトボールの観戦経験は無かったとのこと。
「女子ソフトボールのスピード感ある選手たちの動きは、想像を絶する迫力でした。」と、初めて応援したときの感動を話す天木さん。「今日来ているメンバーを含め、団員は所属部署もオフィスもバラバラ。応援団に携わることがなければ、仕事を一緒にする機会すらない社員が集まっています。」と、グローバルで多彩な事業を手掛ける日立グループの圧倒的なスケールの中で社員同士を素敵なご縁で繋いだ応援団なんですね。
「全日本総合も優勝を目指すチームのために一生懸命応援しますが、リーグ戦も是非観戦に来て下さい!私たちと一緒に声を出して選手と一つになって戦っていきましょう!」と、クライマックスに近づくリーグ戦の観戦も確りとPRしてくれました。
試合巧者のJDリーガーが大学生の挑戦を一蹴
サンディーバ・田内 愛絵里投手、園田学園大学・飯島 綾香投手(藤村女子高)の両左腕が先発となったこの試合、先に動いたのはやはりサンディーバでした。
その後、田内投手と飯島投手の投げ合いで膠着した展開となった4回、長打を警戒してハンナ選手に四球を与えた飯島投手がピンチを迎えます。2死2塁で打席に入った杉浦 穂華選手は、千葉経大付属高から入団し園田学園大学の選手たちと同年代の選手です。同年代とはいえトップリーグで活躍している杉浦選手が、JDリーガーの意地を見せるタイムリーヒットを放って2-0とリードを広げます。
更には6回、再び杉浦選手のヒットと盗塁を足掛かりに、1死2塁とチャンスを作ると、ここで登場したのはサンディーバが誇るスター・坂本 結愛選手!今シーズンは序盤に死球を受けて骨折。前半戦を欠場した坂本選手ですが、昨シーズン東地区本塁打王の打棒は健在。9月1日に行われた大垣ミナモとの後半戦開幕ゲームでも復帰早々に一発を放って復活をアピールしています。
「配球を読むタイプ」と話していた坂本選手は、飯島投手の速球を狙い打つ豪快なスイング!打球は打った瞬間にそれと分かる当たりで、左中間深々とフェンスを越えるツーランホームラン!終盤に4-0と突き放す理想的な試合展開となりました。
そして7回、村山監督がリーグ戦終盤で活躍を期する途中出場の鈴木 未步選手が期待に応えてヒットで出塁すると、やはりこの選手も黙っていませんでした、ハンナ選手の打球は一閃!これまた打った瞬間にそれと分かる当たりを放って6-0。サンディーバ自慢のパワーと田内投手のピッチングで大学生を圧倒して2回戦に駒を進めました。
試合結果だけでなく、佐賀県で行われた “第75回全日本総合女子ソフトボール選手権大会” の魅力をお伝えしたレポートも次がいよいよ最後です。
開会式や大会を支える地域の皆さん、トップリーグに挑戦した大学生チームの皆さん、頂点を目指すJDリーガーとそれを応援する皆さん。視点を変えて見えてくるソフトボールの魅力をお伝えする最終章もお楽しみに!