令和の世の “天下分け目” の戦い
北京オリンピック、東京オリンピックと2大会連続(ロンドン オリンピック、リオデジャネイロ オリンピックは競技種目から外れる)で日本に金メダルをもたらした “女子ソフトボール”。伝説のピッチングで日本中を沸かせた、上野 由岐子投手をはじめとする金メダリストたちや、世界各国の代表選手たちがプレーする世界最高峰の女子ソフトボールリーグ “JD.LEAGUE(JDリーグ)” が、今シーズン前半戦の最終節を迎えました。
全16チームが東西地区に分かれて行われているリーグ戦は現在、東西地区対抗交流戦シリーズが行われています。かの有名な史実 “関ヶ原の戦い” の舞台となった美濃国(岐阜県)に一堂に会して開幕した今年は、令和の世の “天下分け目” の戦いに相応しい対決が続きます。
この日まで3節(一部、雨天で順延)を戦い終えての戦績は東軍の25勝に対し、西軍の21勝とやや東軍優勢の展開となっています。天下分け目の最終章が行われた第9節、愛媛県西予市にある宇和球場は、西軍・伊予銀行VERTZの地元。地元の大声援を受けたヴェールズの連勝で西軍の巻き返しなるか?東軍の勢いそのままか?注目の西予ラウンドをレポートします。
伊予国の熱い思い
実は、ここ愛媛県西予市での開催は、地元の熱い思いがあって実現しました。平成29年(2017年)に開催された “2017愛顔つなぐ えひめ国体” 成年女子ソフトボールの部で、地元・愛媛県選抜選手が優勝を飾ったレガシーを活かし、ソフトボールで地域創生を目指します。
この活動に賛同した地元企業のJR四国と伊予銀行がタッグを組んで実施している “四国を元気に!プロジェクト” において、ヴェールズの庄司 奈々投手と辻井 美波選手が2月に西予市を訪問。宇和中学ソフトボール部の皆さんとのソフトボール・クリニックや、平成30年7月豪雨で甚大な被害を受けた野村町の乙亥会館 災害伝承展示室見学などで交流を深めていました。
ソフトボール、スポーツをきっかけに、地域の皆さんとの絆が深まり、スポーツを “するひと” “みるひと” “ささえるひと” が笑顔になる。スポーツが持つ力の素晴らしさに感心してしまいますね。
地元での連勝を期して
伊予銀行ヴェールズ(愛媛県松山市)は、昨シーズン5位、今シーズンは6勝10敗(6/16時点)ともう一段階ブーストしたいところです。地元開催の最終節を連勝で飾り、チームにも地元にも勢いを与えたいラウンドです。
今シーズンから指揮を執る、“世界のソフトボールを知る名将” 石村 寛監督が、疲れの見えてきた選手たちをどう勝利に導いていくかに注目が集まります。
試合開始前のセレモニー “ファーストピッチ” に登場した、管家 一夫西予市長、兵頭 竜西予市ソフトボール協会会長をはじめとする地元の皆さんの悲願であった “JDリーグの試合開催” を実現した西予市宇和球場には、2日間で1,214人が集まり熱い声援を送りました。
愛媛大学チアリーディング部と、伊予銀行応援団がコラボした応援に、「地元ファンの皆さんでいっぱいのスタンドを見て、本当に有り難いなぁと思いました。県外からも多くの人たちが来てくれて感謝しかありません。」と、ヴェールズの打線を牽引する4番の本間 紀帆選手が目を細めます。
“四国を元気に!プロジェクト” で、一緒に西予市を盛り上げたJR四国の皆さんも、香川県高松市から応援にやって来て、2月以来の嬉しい再会を果たしました。
同じく “四国を元気に!プロジェクト” で、庄司 奈々投手、辻井 美波選手にソフトボールを教えてもらった、西予市宇和中学校ソフトボール部の皆さんも、ボールガールや、試合の間のグラウンド整備を行ってサポートです。世界最高峰リーグで活躍する選手たちの本気のプレーが肌で感じられる距離で観戦している皆さん、一球一球とても熱心に見つめていました。
手に汗握る1点を争う攻防
西予ラウンドの初戦・大垣ミナモの打線に立ち向かうのは、今季4勝とチームの勝ち頭である黒木 美紀投手です。前節の日立サンディーバ戦で完封勝利を挙げ、絶好調かと思われた黒木投手でしたが、初回からランナーを背負う厳しい展開。
得点圏にランナーを進められながらも得点を許さない黒木投手の好投に報いたいヴェールズは、2回に先頭打者として入った4番・本間選手が魅せます。「あのカウントでは、ストレートを狙っていました。」と、カウント1-1から振り抜いた打球は左中間深くに突き刺さる先制の第3号ソロホームラン!
チームリーダーがもたらした勢いは守備にも波及していきます。3回表も2死ながら1、2塁とピンチを背負った黒木投手。ミナモの4番・内田 小百合選手が放った打球は二遊間を抜けるセンター前ヒット!2塁走者は3塁を回りホームへ向かう中、ゴロをさばいたセンターの松瀬 清夏選手のレーザービームが炸裂してホーム手前でタッチアウト!同点のピンチを凌ぎます。
するとその裏、先頭の井上 瑞希選手がヒットで出塁し2死2塁としたところで、打席に入るのはルーキーの2番・齋藤 明日加選手です。開幕から2番に座り、快足を活かしたヘッドスライディングが印象的なガッツプレーが信条の選手。しかし、長いリーグ戦初経験の齋藤選手にも疲れの色が見られ、決してベストなコンディションとは言えない状態。そんな中、地元の大歓声を背にした齋藤選手が1、2塁間をしぶとく破って欲しかった追加点を黒木投手にプレゼントします。
4回に1点を返されたヴェールズですが、ピンチの場面で石村監督が内外野全ての選手をマウンドに集めて鼓舞するなど、地元勝利に執念を見せて必死のディフェンス。黒木投手が後続を打ち取り、5回から後を継いだ遠藤投手がミナモ打線を無失点に抑えて地元の期待に応えました。
地元に勝利をプレゼント・黒木 美紀投手、本間 紀帆選手
「朝の練習時にコンディションが良くないことが分かりました。こんなことはシーズン通じても滅多に無いんですが。」と、試合後に話してくれた黒木投手。
「石村監督に直ぐに相談し、庄司投手と遠藤投手に準備をしておいて欲しいとお願いしたほどです。」と、チームに迷惑が掛からぬよう自己分析をしっかりできるのも一流選手の素養です。
長いシーズンを戦う中で、常に好調の状態を維持するのは本当に難しいプロフェッショナルな世界。ここまで3ヶ月、16試合を戦ってきたヴェールズの選手たちにも “疲労” “怪我” といった暗雲が立ちこめます。「どのチームも条件は同じ。残り1試合、チーム一丸となって連勝目指して頑張ります!」と笑顔で話してくれました。
先制ホームランを放ち、Most Wow! Player(ヒロインインタビュー)に輝いた本間選手は、「ホームランは狙っていませんでした。」と今シーズン第3号弾を打った場面を振り返ります。
今シーズン、相手のホームランをもぎ取るフェンス激突キャッチを見せるなど、好守で好調を維持し続けている本間選手。「私一人でソフトボールをする訳ではないので、あのホームランでチームに活気が出た。みんなの起爆剤となる一本が出たことが嬉しいです。」と、チームリーダーとして何とか盛り上げたいという強い思いを感じます。
「明日は好投手・フーバーが投げてくる厳しい展開になると思いますが、地元の声援を背に最終戦も勝てるように頑張ります!」と笑顔で話してくれました。
総力戦で最後まで
連勝を狙う次の相手は、デンソー ブライトペガサス(愛知県安城市)。昨シーズンリーグ3位でプレーオフ準決勝に進出した強豪です。今年は東京2020大会金メダリストの川畑 瞳選手を擁する自慢の打線と、東地区・最多勝のCarley HOOVER(カーリー・フーバー)投手を擁する強力な投手陣を持つチーム。
「黒木、遠藤のコンディション不良で投手陣が厳しい状況で、打撃陣も調子を落としている選手が多くなってきています。打順の組み替えを含め、最終戦は総力戦になると思います。」と、前日に石村監督が話していたとおり、ヴェールズはピースを組み合わせた “最適解” で連勝を狙います。
左打者を並べるブライトペガサスに対峙したのは、2年目の左腕・須永 小春投手です。昨シーズン初勝利を挙げ、2年目の躍動に期待の掛かる須永投手でしたが、初回に日本代表でも活躍する3番・川村 莉沙選手、4番・釼持 祐衣選手にアベックホームランを打たれ、3点を先制される苦しい展開となります。
追いつきたい打線も、「男子ソフトボール選手を相手に、速くて重たいボールを打ち込んできた。」と石村監督が教えてくれた “フーバー対策” で反撃を開始します。この試合、1番に入った好調の本間選手、勝負を避けられるシーンが続く(この試合も4四球)3番・辻井選手が四球を選んでチャンスを作りますが、フーバー投手の重い球を真芯で捉えることができず得点を奪えません。
何とか無失点で食い下がりたいヴェールズでしたが、火の付いたブライトペガサス打線を抑えきれません。2回途中からマウンドを引き継いだ庄司投手、小泉 夢乃投手、遠藤 杏樺投手にも襲いかかり、18安打6本塁打の13得点を挙げる猛攻を見せました。
しかし、どんなに点差が付いてもヴェールズの選手たちは諦めません!4回以降、途中出場した岡崎 里彩選手や、坪内 楓選手がヒットを放つなど、控え選手がチームを盛り上げて反撃していきます。
リーグ戦後半から徐々に調子を上げてきていた8番・井上 瑞希選手に初ホームランが飛び出し、今シーズン打線の核として期待されながらも結果を残せず苦労してきた居内 佑加選手にもタイムリーヒットが出るなど、8得点を挙げて最後まで諦めない試合を地元応援団に見せていました。
原点に戻って再起を誓う・須永 小春投手
「先発は昨日の時点で言われていました。地元開催の最終戦に先発するチャンスをいただき、何とか期待に応えたいと思ってマウンドに上がったのですが・・・」と、悔しい表情で話し始めた須永投手。
いつも明るく、チームの先頭に立って声を出したり、雑用を誰よりも率先して行う元気な須永投手からは想像できない姿です。「今年はキャンプから始まり、前半戦は全く調子が上がらなくてチームに迷惑を掛けていました。何一つ貢献できなくて・・・ ここに来て少し調子が上向いてきたので、何とかやってやろうと思ったんですが。」と前半戦苦しんだ心境を話してくれました。
攻めの投球で初勝利も挙げた昨シーズンとの違いを尋ねると、「昨年は調子が良かったので、それが自信になって、結果も伴っていました。昨年のデータを取られ、対策もされることは分かっていたので、それに向けて取り組んできたのですが何もかも足りませんでした。」と冷静に自分を見つめ直します。
「技術面、特にコントロールの部分はもちろん、メンタル面も鍛え直して、後半戦は絶対にチームに貢献できる投球を見せます!」と、原点回帰で復活を宣言してくれた須永投手。ようやく見せた笑顔に、今日の経験を糧に飛躍する後半戦の須永投手の姿が目に浮かびました。
憧れの選手たちとのセッションに笑顔が溢れる
ブライトペガサスとの戦いを終えたヴェールズの選手たち、今度は地元・西予市の子どもたちが待ちに待ったソフトボール・クリニックのイベントに臨みます。
小学生を中心にたくさんの子どもたちが集まり、宇和球場のグラウンドには歓声と笑顔が溢れます。先程まで試合に出ていた選手たちも、笑顔で子どもたちと楽しそうにソフトボールをしています。
投手、内野手、外野手といったポジション別に分かれてのクリニックは、年齢別にも細かく分けてのセッション。子どもたちの体格やレベルに応じて必要なスキルを丁寧に教えていることが良く分かります。
ひとりひとりに声を掛け、気になるポイントを教える選手たちの丁寧なコーチング。それを熱心に聞いて試す子どもたち。トライしたことが上手くいったときに見せるみんなの笑顔。この時間が、子どもたちの一生の宝物になるんだなと思いつつ、この笑顔で地域を元気にしていこうとする西予市の取り組みが今後も続いていくことを期待してスタジアムを後にしました。
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