176センチ・81キロの体格はプロに進む右腕としてはむしろ小柄だ。ただし肩幅が広く、なで肩という「投手体型」をしている。
フォームはやや変則的で、膝を折って重心を沈めるスタイルだ。膝を折った状態でもスムーズに重心移動をして、上半身を力みなく柔らかく使える。身体の軸の強さ、下半身の強さがよく分かった。一塁側へのインステップも含めて威圧感、迫力のある投げ方だ。
スライダー、フォークと言った変化球も、速球と同等の武器で「器用さ」も見て取れた。
試合は投手戦のまま終盤まで進んでいった。愛工大は3回表に1点を先制したが、その裏に失策が絡んで同点に追いつかれる。
6回、7回と試合が進むにつれて、私は時計が気になり始める。中村優斗の快投を堪能しつつ、同時に「試合を最後まで見られるのか」というストレスを感じていた。
ただ、愛工大打線が9回表に爆発する。二死1塁から1番バッターが勝ち越しのタイムリーを放つと、そのまま3連打。4-1とリードを広げて、勝利に大きく前進した。
次戦以降に備えて、愛工大も9回裏の守備を前に中村優斗を下げた。後続が1点を喫し、3番手投手まで苦しむ展開となったが、4-2で愛工大が逃げ切りに成功。試合終了時間は12時02分。なお、球場から駅まで徒歩10分――。ジャストインタイムの本場らしい、無駄のない観戦旅行だった。
関西大学の左腕・金丸夢斗投手を見に神戸へ
関西にも複数球団の指名が予想されるドラフトの目玉がいる。それが関西大学の4回生左腕・金丸夢斗(神港橘高校)だ。彼はその翌週、5月5日の関西学生野球連盟の第5週でじっくり観察できた。
私がサッカーで主に取材するFC町田ゼルビアは、本稿執筆時点でJ1の2位につけており、5月6日に「サンガスタジアム by KYOCERA」で京都サンガF.C.とのアウェイ戦が組まれていた。Jリーグの日程が発表された1月下旬から5月4日と5日は宿を確保し、関西の大学サッカー、大学野球を見る心づもりをしていた。
結果的に4日は別の予定が入ったが、5日は兵庫県の『ほっともっとフィールド神戸』で大学野球を見ることに決めた。10時半試合開始なので、こちらも当日朝の出発で間に合う。とはいえ6時33分東京駅発の「のぞみ5号」に乗る必要があり、やはり早起きは必須だった。
ゴールデンウィークだから宿も新幹線も混む。日程が確定した3月末の時点でJR東海の「EX予約」でチケットを手配しておいた。
5日は同連盟の「1回戦」で、当然ながら各校のエースが登板する。金丸夢斗は同志社大学との第1試合に登場した。大学2年のときにも見ているが、当時とはレベルが明らかに違った。とはいえ、かなり高めの評判を聞いていたので、最初は「こんなものか」という気持ちで見ていた。
回を追うごとに凄さがわかる投手
しかし、この投手が本当にスゴいのは「いつまで経っても落ちない」「投げ間違いをしない」といった安定感だ。試合が進むに従って「これはスゴいぞ」というワクワク感が上がっていく。
ただし、どうにも味方の援護を得られない。金丸夢斗は10回裏、味方の失策も絡んで、一死3塁とサヨナラのピンチを迎える。だが、同志社大が狙ったスクイズは金丸の外角低め速球に届かず無念の空振り。11回裏は2奪三振の三者凡退と、一切の陰りを見せない状態でマウンドを降りた。
勝ち負けはつかなかったものの、11イニングを被安打4、四死球0と零封。奪三振は14という圧巻の内容だった。試合は規定の12回で打ち切られ、0-0の引き分けとなった。
金丸夢斗は177センチ・77キロの左腕で、この日の最速は149キロ。完投、さらに言うと3回戦(1勝1敗で決着がつかなかった場合の3試合目)を意識して、明らかに「加減」をして投げていた。フォームはいい意味でゆったりしていて、「全力で投げています」という力みがない。ただ、肩や肘がしなやかで、足をやや大きく踏み出しながら鋭く腕を振れるフォームだ。
どんな投手もそうだが、「2ストライクに追い込んだあとの決め球」に一番自信のあるボールを投げる。金丸夢斗のベストピッチは速球だが、スライダーやスプリット、チェンジアップなどの変化球もウイニングショットに使えていた。
彼にとって最大の強みはおそらく制球力で、この試合は四死球ゼロ。今季開幕から5試合、35イニングを投げて四死球は「1」しか与えていない。奪三振は47で、3.5を超えると優秀な投手とされる『K/BBレシオ』(三振と四死球の比率)は異次元の「47.0」だ。
2023年のドラフト会議は、東都大学野球連盟から7投手が1位指名を受ける「東都の年」だった。2024年は関西、愛知といった「非関東」の連盟に目玉がいる。春以降の成長やコンディション維持といった条件はあるが、中村優斗と金丸夢斗は「ドラフト1位」「競合」に値するレベルであることを確認できた。