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日本記録保持者として挑む村竹ラシッド。優勝すればパリ五輪代表に即時内定する-児玉育美撮影
すでにパリ五輪代表に内定済みの泉谷は、今回エントリーを見送ったが、その不在を寂しく感じさせないような顔ぶれが揃った。13秒04の自己記録で泉谷とともに日本記録を保持する村竹 ラシッドを筆頭に、参加標準記録を突破済みの選手、歴代の日本記録樹立者で国際大会でも活躍してきた選手、世界選手権代表経験を持つ選手、新進気鋭の若手選手などがずらり。泉谷の内定により残り2つとなった五輪代表枠を巡り、2位以内を目指しての戦いを繰り広げる。
最も優勝、そしてパリに近い位置にいるのは村竹だ。飛び抜けたポテンシャルの高さで高校時代から知られた存在だったが、順天堂大学で山崎一彦氏の指導を受けるようになってから、その才能が一気に開花。
東京オリンピックは、最終選考会だった2021年日本選手権で参加標準記録を突破して代表入りに肉薄しながら、決勝を不正出発(フライング)で失格し、レース自体を走れないという悔しさを味わった。
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日本記録保持者として挑む村竹ラシッド。優勝すればパリ五輪代表に即時内定する-児玉育美撮影
また、ブダペスト世界選手権での活躍が大いに期待されていた昨年は、春先に肉離れをするアクシデントに見舞われ、日本選手権までの回復叶わず不出場。またしても戦わずして代表入りを逃す形となった。13秒04の日本タイ記録は、その後、戦線に復帰した秋シーズンでマークしたものである。
社会人1年目の今季は、安定して高い水準で出場レースを制している。オフシーズンに取り組んだ筋力トレーニングにより、身体がひと回りバルクアップ。日本選手権では、パワフルな走りを見せてくれるだろう。
前回の東京大会でつかみ損ねた五輪代表の座を、確実に取りにいくレースとなる。気象条件次第ではあるが、大学の先輩で、ずっと背中を追ってきた泉谷よりも先に、日本人初、アジア人では2人目となる12秒台突入で、初優勝と五輪内定を決めるかもしれない。
ニッポンの秘密兵器、いよいよ”ヨンパー”で世界へ
男子400mハードル 豊田 兼
陸上競技のトラック種目において、「世界で戦える種目」という評価と期待を長く背負ってきたのは、男子400mハードル。世界選手権で過去に入賞1回(山崎一彦:1995年イエテボリ大会7位)、メダル2回(為末大:2001年エドモントン大会・2005年ヘルシンキ大会ともに3位)の実績を残していることでもよくわかるだろう。
パリ五輪に向けても、現段階で3選手が参加標準記録(48秒70)を突破済み。レース後、即時内定のアナウンスが流れる状況が整った。五輪参加資格を得た競技者が3名以上いる場合は、日本選手権の順位が優先されるため、該当者は「表彰台」を狙ってのレースとなる。
そんななか、いよいよ頭角を現してきた日本陸上界の”秘密兵器”が、旋風を巻き起こす可能性がある。慶應義塾大学4年の豊田兼が、その選手だ。
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豊田兼は400mハードルで日本歴代5位の48秒36をマーク。日本人3人目の47秒台で、父の祖国で開催される五輪出場を決めたい-児玉育美撮影
豊田は昨年10月に48秒47をマークして、すでに五輪参加標準記録を突破した状態で今シーズンを迎えたが、5月19日のセイコーゴールデングランプリで、日本歴代5位となる48秒36をマーク。
ブダペスト世界選手権で48秒48をマークしていた黒川和樹、今年の木南記念を48秒58で制し、3人目の突破者となった筒江海斗との、「三つ巴」と目されていた優勝争いから頭一つリードを奪う形となった。
身長191cm、長い手足を生かして少ない歩数でインターバルを刻み、ダイナミックにフィニッシュラインまで押しきっていくタイプ。今季はフラットレースの400mでも45秒57まで記録を更新したことで、強さに凄みが増した印象だ。
優勝すれば、初の日本タイトルとともに、父の母国・フランスで開催される五輪の代表内定という肩書きも手に入れることになる。条件に恵まれれば、日本人では過去に2人のみ、しかも2回しかマークされていない47秒台のパフォーマンスを見ることができるかもしれない。
実は、豊田は110mハードルでも、参加標準記録まで0.02秒に迫る13秒29の自己記録を有し、昨年のワールドユニバーシティゲームズで金メダルを獲得している実力者。今回の日本選手権では、2種目での出場を明言。大会前半に行われる400mハードルで波に乗れば、後半に行われる110mハードルでも、”台風の目”になるかもしれない。
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