パリ五輪の熱戦そのままに
一大イベントといえる真夏のパリオリンピックを終えて、日本陸上界はシーズン後半に突入した。近年、9月中~下旬の日程で実施されている全日本実業団陸上も、秋を彩る大会の1つ。
全日本実業団連合が主催し、同連合に登録する社会人アスリートのナンバーワンを決める大会だ。今年は連休となる9月21~23日に、山口市の維新記念公園内にある”維新みらいふスタジアム”で行われ、様々な背景を持ちつつ、社会人になっても競技を続けているアスリートたちが多数出場して熱戦を繰り広げた。大会の模様をレポートする。
様々な「陸上人」が集まる大会
企業や所属する団体でチームを作って社会人が競技活動に取り組む「実業団スポーツ」という括りは、実は世界的には珍しいシステム。日本の場合は、学校の「部活動」とともに、アマチュアスポーツの発展に貢献してきた。それは陸上競技においても例外ではなく、日本実業団陸上競技連合の統括のもと、陸上界の興隆に大きく寄与している。
全国大会として毎年実施されてきた、”全日本実業団対抗陸上競技選手権大会”は、今回で72回目。9月21~23日に、山口市の”維新みらいふスタジアム”(維新百年記念公園陸上競技場)において行われた。
9月最後の連休となったこの週末は、秋雨前線の影響で大雨となる地域が多かったが、会場では初日こそ雨模様となる時間帯もあったものの、2日目以降は回復。最終日には晴れ間も見え、やや風は強いながらも、好条件といえるなかで開催された。
全43種目(ジュニア男女各1種目を含む)の決勝が実施され、パリ五輪日本代表選手をはじめ、世界大会メダリストや入賞経験者、日本代表経験者などのほか、社会人としてフルタイムで働きながらも長く競技を続けている選手、クラブチームに所属して競技を続けている選手、この大会で第一線から退く選手、今年社会人デビューを果たした選手など、様々な選手が集結した。
観客席に目をやれば、出場する職場の仲間を応援にやって来た集団や、自身も活躍した経験を持つ懐かしいOB・OGたちの顔が。さらに、スタンドで見かけるベビーカーの多さが目を引いたり、小さな子どもたちの「パパ、頑張れーっ!!!」という可愛らしい声援に、会場にいる人々みんなが思わずほっこりしたりするところも、社会人アスリートが競うこの大会ならでは光景といえるだろう。
選手だけでなく、「陸上」で繋がっている様々な人々が集い、笑顔で行き交う。毎回、「この感じ、温かくて、すごくいいな」と実感できる大会でもある。
切り口は本当にいろいろあるのだが、ここでは来年9月13~21日に東京での開催が決まっている世界選手権の最終日から、ちょうど1年前の開催となった今大会で、東京世界選手権での活躍を期す選手たちがどんな戦いを見せたかにスポットを当てて、ご報告しよう。
ハードルの泉谷、8m14で男子走幅跳3連覇
来季は「二刀流」で世界選手権挑戦か!?
3日間の会期で、スタンドから最も大きなどよめきが上がったのは、大会2日目に行われた男子走幅跳だったのではないか。男子110mハードルで13秒04の日本記録を持ち、昨年のブダペスト世界選手権(5位)やダイヤモンドリーグ2年連続ファイナル進出などの実績を誇る泉谷駿介が、2連覇中の走幅跳に今年も出場。
1回目の跳躍で、8m14(追い風0.7m)のビッグジャンプを披露したのだ。その後、記録を伸ばすことは叶わなかったが、泉谷はこの種目で3連覇を達成し、2024年シーズンを終えた。
大会1週前の9月13日には110mハードルで、ブリュッセル(ベルギー)で行われたダイヤモンドリーグのファイナルに出場したばかり。その疲れも残るなか、1年に1回しか挑戦していない走幅跳で自己記録をあっさりと更新しての勝利は、ポテンシャルの高さを改めて知らしめたといえるだろう。
しかし、泉谷自身は競技後、来年東京で開催される世界選手権の参加標準記録(8m27)の突破を狙っていたことを明かし、「もうちょっと跳びたかったので悔しい」とコメント。
なんと来季は、110mハードルと走幅跳の「二刀流」(この2種目で世界大会に挑むのは、かなり珍しいケース)を視野に入れているという。まだ、最終的な決断には至っていないそうだが、今大会で記録した8m14を本番で跳ぶことができれば、世界大会入賞が見えてくるレベルの記録。来季に向けて、新たな夢が膨らむ結果となった。