「殆どが運動選手推薦総合型選抜で入学してくる学生ですが、学業と部活動の両立を前提としつつ、卒業後のキャリアについても三垣監督をはじめとする首脳陣とキャリアセンターで連携しながらサポートしています。プロ野球や社会人野球などの世界に進めるのは一学年で数名程度、レギュラーの枠も狭き門です。卒業後、野球を続けない部員たちが多くを占める野球部員ですので、一般学生と同等にコミュニケーションや課題解決能力を高め、社会に巣立って欲しいと思い、教育に務めているところです」と、覚悟を持って北の大地で野球をすることを選んだ野球部員たちを ”人物を畑に還す” という建学の理念の一端が分かるエピソードを披露してくれた菅原教授だった。
北海道オホーツクキャンパスの効果
”北海道最果ての地” と書かれたお土産物が目立つ北海道網走市だが、都心からのアクセスは意外と近い。羽田空港から網走市にほど近い女満別空港までは片道2時間弱と、修学旅行先として人気の京都、奈良、大阪に向かう所要時間と変わらない。
「山の上から海の底までが全部、農大の研究フィールドです。山の森や林があって、街があって街作りも東京農大のフィールド。人々の生活・食・衣服があって、海に行くと魚がいて、海の底には昆布などの海藻が生えているので生態を調べて、生えている地面を調べるなど、全てが東京農大の研究領域として体験することができるのです」と、寺谷室長が話すとおり、世田谷キャンパスに隣接する東京農業大学稲花(とうか)小学校の5年生は修学旅行で網走市を訪れ、総合農学としての実習を体感する。
研究の一環として、絶滅の危機に瀕している網走国定公園内にある能取湖に群生する赤いサンゴ草(アッケシソウ )を復活させて、地域の観光資源を守る。マラソンの満足度ランキング1位を誇る網走マラソンでは、学生たちの履修科目に指定して沿道の給水、コースの誘導、設営の手伝いなどのエイド活動を行うなど、地域の活性化にも一役買っており、それらをあわせた経済効果は年間約 194 億 円にもなるそうだ。
東京農大の尽きない魅力
研究領域はもちろん、スポーツ、日々の暮らしの中で地域の皆さんとの絆を深める東京農業大学は、卒業したOBたちも全国でその精神を受け継いだ活動を行っている。
前述の世田谷キャンパス・国際センター内にあるカフェは、 流行の北米発祥のカフェではなく、OBが経営する茨城県を発祥とする SAZA COFFEE(サザコーヒー)が構える。東京農業大の卒業生である鈴木 太郎代表取締役は、コーヒー研究家としてコロンビアにある自社コーヒー農園でコーヒーの育種選抜を行っている。
茨城県特産であるメロンをふんだんに使ったシェークや、水戸藩主徳川 斉昭(とくがわなりあき)の子、江戸幕府最後の将軍となった兄の徳川 慶喜公が、1867年江戸幕府を代表し欧米公使と開港交渉の折もてなしたコーヒーを、史実に基づき当時の産地や焙煎方法から再現した”将軍珈琲”を販売。
また、慶喜公の名代として1867年 のパリ万国博覧会に参加した実弟・徳川 昭武公が、パリの地で飲んだコーヒーの味 を”プリンス徳川カフェ” として再現し販売するなど、農大魂を存分に発揮した経営手腕を見せている。
”実学主義” ”人を畑に還す” という、東京農業大学の教育・建学の精神を受け継いだ卒業生たちは、日本国内はもちろん海外でも多く活躍している。こういった世に種をまき、芽を出し、実を付ける東京農業大学の尽きない魅力が尽きることは無いだろう。