1 stステージで “下克上” を果たしたホンダリヴェルタとの対戦となったこの一戦。前の試合で完封勝利を挙げたジェイリン・フォード投手を相手に、二塁打を含むチーム唯一の複数安打を放った望月選手だったが、あと一点が届かなかったSGホールディングスは、この試合を以て2024シーズンの戦いに終わりを告げた。

プレーオフで二塁打を放った望月選手は塁上でガッツポーズ-JournalｰONE撮影

トップリーグでのプレーを見送り、トラックドライバーの道へ

「引退を決めた当時、NEC（プラットフォームズ）はJDリーグの参加が決まっていたのですが、流石にトップリーグでプレーをするのは難しいと判断したのです」と、一度は引退を決めた当時の心境を話す望月選手。その理由は、トップアスリートには付きものの “怪我” の影響だった。

「2部で対戦していたときに、良い選手だなぁと思っていたのです」と、当時の望月選手を評するのは、現在の指揮官・加藤 愛監督。「引退するのは勿体ないので、ウチに来ないかとラブコールを送ったのですが、意思は固かったですね」と懐かしそうに当時を振り返る。

トラック運転手時代の思い出を話す望月選手（SGH）-JournalｰONE撮影

引退した望月選手は1年間、NECプラットフォームズで事務職に従事するも退社。その転職先に選んだ仕事が「10t車のトラックドラーバー」だったと聞いて驚いた。

「子どもの頃、父がトラックドライバーだったのです。助手席に乗せてもらい、運転台から眺める景色が心に残っていました。憧れの職業だったんです」と、驚くJournal-ONE編集部に転職理由を教えてくれた望月選手。「（NECプラットフォームズのオフィスがある）静岡県掛川市の隣の袋井市にある、”此花運輸” という運送会社にお世話になり、10tトラックを運転してスーパーに物資を運ぶ仕事をしていました」と、不思議そうな目で望月選手を見つめる私たちに笑顔で説明を加えてくれた。

しかし、ここまで聞いてしまうと更に疑問が湧いてくる。10tトラックを運転するには、大型免許が必要では？その免許は･･･と聞きかけたとき、望月選手が「大型免許は、NECで働く間を縫って取得したのです。一度は外の世界で働く経験が必要だなと思っていましたので、それならば憧れの職業に就こうと思い取得したのです」と、強い意志でトラックドライバーへの扉を開いた道のりを教えてくれた。

インタビュー前に子ども達とのイベントで笑顔を見せていた-JournalｰONE撮影

トラックドライバーの仕事は

10t車を運転し、カゴ台車いっぱいに品物を積んでスーパーマーケットに納品する仕事をしていた望月選手。「飲み物が入っているカゴ車は本当に重くて、積卸しが大変でしたね（笑）。運転にも気を遣いました。ビン詰めの商品はトラックの振動でぶつかって割れたりするので」と、プロドライバーとしての留意点まで真剣な表情で話してくれた。

フォークリフトを使ってカゴ車の積卸し作業もしていたという望月選手は、「夏場などは本当に暑くて大変ではありましたが、職場の皆さんが本当に人当たりの良い方たちばかりで、辛いと思ったことはありませんでしたね。女性ドライバーは珍しいので、運転している時にも注目されていたりして楽しかったですよ（笑）」と、当時の仕事ぶりを楽しそうに教えてくれた望月選手。

4勤1休、1日12時間という憧れのトラックドライバーの仕事を続ける中でも、空いた時間はNECプラットフォームズの練習の手伝いをしていた望月選手。「やはり、辞めてもソフトボールが好きだったのだと思います」と振り返った望月選手に転機が訪れたのは、昨年の秋のことだった。

トライアウトに向けてバッティングセンターへ

球拾い、用具の準備や片付けなど、裏方の仕事を黙々とし続ける望月選手をみて、声を掛けたのが溝江 香澄監督と、今シーズンからコーチに就任した西山 麗さんだった。

「まだ（現役で）動けるじゃないか」と声を掛けていただき、自分でも “行けるかな？” と感じていたので、直ぐに加藤監督に連絡を取りました。と2年越しにトライアウトを願い出た望月選手に与えたれた準備期間は僅か「2週間」だった。

NECプラットフォームズの練習手伝いと、カゴ車の積卸し以外の “運動” は「していなかった」と話す望月選手は、「求められているのは守備では無く、バッティングだろうと思っていました。守備はぶっつけ本番でしたね」と、ここからバッティングセンターに通い詰めて打ち込みを敢行。11月末のSGホールディングス・トライアウトに臨んだ結果は見事に合格となった訳だ。