メリエムさんはというと「私は学生で首都ラバトにあるモロッコ大学に通っていた時に食品工学を専攻し、 その後はフランスに行ってビジネスマネジメントを学びました。モロッコに戻ってきてからは農業の会社に一度就職して、その後に博士を目指したのです」

日本でアルガンを研究したメリエムさん‐Journal-ONE撮影
「モロッコにある様々なバイオ資源を研究したいと考えてアルガンを選んだのが始まりです。そして国立大学のグローバル化を文部科学省が主導している中で、北アフリカに強いのが筑波大学だったので礒田先生のもとで研究を進めることに決めました」と教えてくれました。
日本は1980年代から食品の機能性研究で世界をリードし、「機能性食品の概念も日本が世界に先駆けて作ったのですよ」と、これまでの研究の歴史を礒田先生が教えてくれました。
それまでのアルガンの研究というと、主に成分を分析したりオイルの物性を解析するもので、機能性研究はほとんどありませんでしたが、日本との共同研究により、アルガンオイル成分の様々な機能性が見出されました。
アルガンオイルが欧米中心に着目されはじめ、1997年にはアルガンの森が保護林・国際生物圏保護区の指定を受け、アルガンの樹が世界文化遺産に登録されました。そして2021年には国連総会から5月10日は“アルガンの日”と制定され、更に世界中で注目を集めているのです。
世界中で広がるアルガンオイルの成分は?
アルガンオイルは最初、モロッコからフランスへ伝わり化粧品などの開発がされました。フランスの化粧品会社がどんどんアルガンオイルを使用した製品をつくり広めていったことで、今ではその効果が世界に認められ更に開発が進められているのです。
樹の枝に登るたくさんのヤギが、そろって実を食べている不思議な写真を、日本でも見かけたことがあると思います。実はあの樹がアルガンの樹なのです。世界的に認知される前は、ヤギたちはビワくらいの大きさの黄色い実を食べて、実の中にある固い種子は食べずに吐き出します。
その種子を割って“カーネル”というアーモンドのような中身を取り出し、それを絞って抽出したものがオイルになります。もちろん現在は、ヤギが食べたものではなく、完熟の果肉のついた果実を集めてモロッコの女性たちが手作業で丁寧に搾油をしているそうです。
アルガンオイル自体、年間の生産量は4,500トン、100キログラムの種子からは3キログラムのオイルしか採取できない、とても希少なものです。礒田先生が注目したのは搾油したときに残る“カーネルケーキ”。モロッコでは乾燥したカーネルケーキはヤギなどの餌として多く使われます。

右が礒田教授、左がメリエムさんーJournal-ONE撮影
礒田先生は、このカーネルケーキの中にも良い成分が豊富に含まれていることを発見し、有効活用できないかと考えました。そこでメリウムさんがカーネルケーキに含まれる “サポニン” という成分について、メラニン色素を産生するB16細胞を使用して美白作用があることを見つけたのです。
「最初は本当にその機能があるかを地道に調べるところから始まりました。調査を進めていく中でフォーカスしたのが、アルガンオイルを塗ることで起きる皮膚の機能性について細胞を使って研究することでした」と、“もったいない” という発想からたどり着いた研究の経緯について話してくれた礒田先生とメリエムさん 。

マリエムさんが卒業の時に礒田先生と撮った写真-Journal-ONE撮影

2020年に行ったメリエムさんの発表の様子-Journal-ONE撮影
メラニン色素というと皮膚、毛髪などに様々な色合いをもたらす色素。人間にとっては必要不可欠なものですが「色素が生成され過ぎてしまうとシミやそばかす、皮膚がんを引きおこす原因になります。それゆえ、メラニン色素の生成調整が大事になるのです」と、女性ならば誰もが興味を持つ、美白効果の仕組みを教えてくれました。
メリエムさんは、モロッコではあまり確立されていない細胞培養の技術を礒田研究室で学び、「メラニン色素を作るメラノサイト細胞を培養することで、美白、抗酸化作用の効果を発見することができました」と、今までの研究の内容や経緯をわかりやすく教えてくれました。
