1回表、140Km/h半ばの速球を投げ込む阿字投手から、2番の丸山 椰尋(和歌山・熊野高)選手が中前安打を放ちチャンスを作った。地元の県立高校出身でも、全国レベルの投手と互角の勝負ができる。高校野球を終えたその先にも、こういった華やかな舞台で活躍できる可能性があるということを、どれくらいの高校球児が認識しているだろうか?
和歌山大学で躍動する公立高校出身の先輩たちの活躍を知ることで、「野球は好きだが、甲子園出場の名門校に進まないと・・・」「自分の野球人生は高校野球まで・・・」などと考えている高校球児、小学生や中学生の野球好きな子どもたちにも、“野球を続ける目標” が増えることで、野球を続けるモチベーションも上がる。
少子化や、楽しみ方の多様性から、野球だけではなく様々なスポーツを楽しむ子どもたちの数は減少傾向にある。大学日本一を目指す国公立大学という “ブランディング” が、子どもたちに新たな人生の選択肢を生み出し、地域がスポーツで元気になっていくきっかけになるのではないだろうか。
驚きの “ノーサイン野球”
安打で出塁した丸山選手を1塁に置き、3番・吉村 拓貢(和歌山・向陽高)選手の場面で果敢に盗塁を仕掛ける和歌山大学。この試みは東日本国際大学の三井 颯大(埼玉・聖望学園高)捕手の好送球に阻まれたが、大原監督からのサインは出ていない。
6回表も、先頭の伊東 太希(和歌山・星林高)選手が四球で出塁した直後、丸山選手の打席でエンドランを仕掛けた場面(二直の併殺打となる)でも同様に、監督に動きはなかった。
「うちは、ノーサイン野球も特徴のひとつなんですよ」と、大原監督が種明かしをしてくれた。2008年から采配を振るう大原監督が、ノーサイン野球を始めたのは2015年からとのこと。
「大学生は “大人” です。自分たちで考えて野球ができる年齢ですから、指示されて動くよりも自分たちで考えてプレーすることに喜びを感じます。その経験は社会に出ても必ず役に立ちますし」と、和歌山大学野球部最大の “ブランディング” を教えてくれた。
「最初は少しずつ任せていったのですが、一つのプレーの解釈について選手たちが1時間以上も話し合うなど、選手たちの野球への真剣な向き合う姿に触れて “これいけるんちゃうか” って(笑)」と、ノーサイン野球が完成するまでの道のりを丁寧に教えてくれた。
「新チームになるたびに、選手たちは苦労しながら楽しんで自分たちで考えて野球をやってくれています」と、毎年変化するノーサイン野球に目を細める大原監督だった。
好投・島を守備で盛り上げる
試合は無得点同士のまま終盤にもつれ込む展開。「最も警戒していた」と話していた、東日本国際大学のリードオフマン・黒田 義信(福岡・九州国際大学付属高)選手のヒットから4回は1死一、二塁、6回も2死二、
しかし7回、1死から犠打で得点圏に走者を送った東日本国際大学。「あの場面は引っ張らせたくなかったので、あそこに打球が飛ぶ可能性は充分にあった。こちらが守備体系を確認する前に打たれてしまった」と大原監督が振り返ったとおり、三井選手の打球はセカンドとセンターの間に落ちる適時打となり、東日本国際大学が先制点をあげる。
後続を断った島投手に代り、8回からマウンドに上がった近藤 陽樹(市立和歌山高)投手も二つの三振を奪い、リズムを作って最終回の反撃に向かう和歌山大学が粘りを見せる。