「野菜などの苗を販売する種苗会社に入りたいと思っています」と夢を真っ直ぐに答えてくれた風間さん。日々農業と向き合い、将来に繋げる彼のこれからをとても楽しみに感じた。
同じ野菜の即売店 “緑の家” は、私たちの食卓に馴染みのある野菜が並ぶ。テントの屋根から吊された案内看板には、小笠原諸島など遠隔地の農業についての紹介が書かれており、東京都町田市にあるサークルの畑で作ったものと、実習先の農家さんから委託販売という形で様々な野菜がずらりと店前に並んでいた。
祖父が農園をやっていて興味を持ったという ”緑の家” の渋谷さんに話を聞いたところ、「小笠原村にも希望制で春・夏の長期休暇の年2回、実習に行っていますが最近はどの地域でも高齢化が進んでいるなと感じます。この前、北海道に行ったときも広大な畑を管理できるほど人数がいませんでした。もっと人手が足りていたら楽になるのではないかと思いました」と、高齢化課題の解決に考えを巡らせていた。
北海道オホーツクキャンパスに近い、たまねぎの生産量が日本一の北海道北見市での農業実習に関わる模擬店を出している “アグリビジネス学科経営情報研究室” では、たまねぎコロッケとオニオンスープを販売しており美味しそうな香りに来場者が吸い込まれるように列に並んでいく。その列の前では、来場者に向かって元気に声掛けしている男子学生3人組がいた。
アグリビジネス学科で学んでいる彼らは、農友会サッカー部の現役部員とのこと。いずれも、鹿島学園高、浦和南高、大阪桐蔭高と高校サッカーの名門校出身だ。取材した翌日(11月2日)、関東大学サッカーリーグ2部昇格に向けた大一番(後日、無事に2部昇格を果たした)が控えているものの、収穫祭という大事な催しは外せないと笑顔で話してくれた。
来場者が楽しめる研究成果のお披露目会
「農業」とひとことで表すが、そのフィールドは多岐にわたる。豚のイラストが大きく描かれた “農芸化学科統一本部” は、肉の加工に特化した珍しい即売店を出店。この学生たちは、食品加工センターでベーコンの作り方を学び、実際に作った者を提供するのだという。
「大学内に食品加工センターがあり、そこで先生に教えてもらいながらベーコンを代々作っています」と話してくれたのは森次さんと石川さん。「農芸化学科では3年生になると授業で肉の加工を学習するのですが、その内容をそのまま落とし込んで商品にしています。他の授業では食品化学や栄養なども学んでいますし、科学的に食品や成分を理解して微生物や、病気を防ぐ勉強をしています」と、この模擬店でも肉加工をするにあたり、特殊な菌が出ないようになど日々の勉強を活かした食品提供をしていると教えてくれた。
即売店だけでなく、教室内で行われている展示も興味深い。”生産環境工学科バイオロボティクス研究室” では、様々なテーマでスマート農業やフード&アグリテックによって農業分野における課題解決を目指す研究成果を披露している。
「こちらはAgri-CPSプラントと言って温度・湿度を制御してコオロギ、ミルワーム、キノコや金魚を飼育する研究の紹介です」と、説明してくれたのは中村さん。食用コオロギや金魚、キノコなどが入っている透明なケースの上に置かれた四角い機械と接続されたパソコン画面のグラフや表を指さし、今話題の “スマート農業” は、取得したデータをパソコンで解析することで、飼育施設にいなくともリアルタイムで室温などを管理、制御していると教えてくれた。
「ナッツを食べたコオロギは、それを人が食べたときにナッツアレルギーを発症するのかという実験も同時に行っています。キノコ栽培では、論文で見たコーヒー粕を使った栽培方法にも挑戦しようと思います」と、幾つかの研究内容についても話す中村さん。「通常、コーヒー粕はそのまま捨てると二酸化炭素を排出します。でも、栽培に使えれば二酸化炭素を排出することなく、地球にやさしい循環サイクルの中で利活用できるところが注目されているんです」と、食糧問題以外の課題解決にも役立つ研究をしているとのことだった。