戦略や戦術を持っていない若い指導者たちに向けても、「僕は20年かけて西南学院大を全国に連れて行った。6年で全国制覇は凄いな(笑)」と、野田監督を見ながら話しを続ける秦監督は、「そんなに細かく指導はしません」とアドバイスを送る。
6年で全国制覇と振られた野田監督も、「箕自に入れば全国で勝てると思う生徒が多いのですが、言われたことだけをやっても全国では勝てません。自分たちで失敗しながら考え、方向が違うと思った時に初めて話しをするようにしています」と、選手たちが自ら取り組んだ中に成功の活路があると賛同する。
「『できないには、できない理由がある』と気付いたのが20年前くらい。ですから『何でできないの?』と問いかけるのでは無く見守って。優秀なOGたちが毎年指導に来てくれるので、彼女たちと情報を共有して必要な指導をしています」と、指導者が選手たちを観察することも重要だと話した。
「8年前までは全国を知らないチームでした。 “自己効力感(自分自身が目標を達成できる能力を持っていると認識している状態)”は成功体験がないと生まれません。そこで、全国に行ってない時代には、他者の成功事例をとにかく模倣しました。その当時に成功していた東亜大学さんのノーサイン野球を真似て、代理体験をさせたのです。全国制覇を目指すと決めて以降は完全ノーサインにしていますが、それまでは3割位はサインを出していました」と、大原監督も黎明期から今に至る成功体験の作り方を紹介する。
どの指導者も、選手自身で考えて実行することが成功体験を得ることができると話す一方、選手たちの取り組みを注意深く観察し、最適なタイミングで最適な声掛けをすることも重要だと説いていた。
キャッチフレーズ、スローガンをどう設定し、どう浸透させるか
選手自身で考えて実行する上で、無くてはならないのがチームのキャッチフレーズやスローガン。端的に表現したものを作ることも大変だが、チームに浸透させることも大変な作業だ。
「岡山理大サッカー部のスローガンは”NEXT FOOTBALL AIM FOR THE TOP”です。”今までに無い日本一”を目指すという観点から、日本一練習時間の少ないチームを目指しています」と、自チームのスローガンを披露した秦監督。その一環で年間5日の“有給休暇制度”も設けるその意図は、「ライブに行きたい生徒が多い」とZ世代らしい自分時間の使い方も紹介して会場の関心を誘う。
「もちろん、岡山理科大学としての行動指針、サッカー部の行動指針、選手・マネージャーの行動指針と連動させながら個々の指針に落とし込んでいますし、それぞれを実行可能にするため、具体的な日本語に落としていきます」と、スローガンに基づいて一人一人が具体的に行動できるまで徹底的に噛み砕くと話す。
限られた時間を有効に使うため、「選手個々の心と身体の今の状態がどうなのかをアプリを通じて共有し合っています。加えて、組織が立てた目標と自分が立てた目標を比較し、今自分がどの状況にあるのかを理解させるためにもアプリを使う」と秦監督。AIコーチが選手の作る文章を添削し、明確な目標設定ができる手助けにもしているとデジタル技術を活用したオリジナルな取り組みで“タイパ”の良いスローガンの浸透を行っているという。
「私たちはアナログなのですが・・・」と前置きした野田監督は、「理念を実践に落とすために、チアリーディング外の活動にも力を入れています。日本一に相応しい人になるとはどういうことか、外で啓発活動をしているときに気付かせるのです」と、他者と触れあうことで自分たちのスローガンを浸透させると話す。
最後に大原監督は言語化することの大切さに触れ、「そのチームにしかない共通語を使い始める。特にインパクトのある言葉を使い始めると浸透しやすい。私たちは“一体感・成長感・貢献感”という言葉を基に、それぞれの選手に一日を振り返らせています」と、独特な浸透方法を紹介した。