世界陸上に向けたシーズン開幕
9月に東京・国立競技場での”世界陸上競技選手権大会”を控える日本陸上界は、4月に入って、国内トラック&フィールドシーズンが開幕した。日本代表入り、さらには世界選手権本番での活躍を期す選手たちの戦いが、ここからいよいよ本格化する。
4月12日(土)には、トラック種目最初の世界選手権日本代表選考競技会として、”日本選手権10000m”が開催。この日には、”日本グランプリシリーズ”第1戦の熊本大会となる”金栗記念選抜中長距離大会”(”金栗記念”)も同会場でも行われ、中長距離のトップランカーたちが熊本に集結し、熱い戦いを繰り広げた。両大会の模様をご紹介しよう。

降りしきる雨の中での開催となった日本選手権10000m∸児玉育美撮影
日本選手権10000mは雨中の激闘!男子は鈴木芽吹が初優勝
近年、日本選手権10000mは、トラック&フィールド種目の日本選手権とは別日程で開催されている。9月に自国開催の世界選手権を控える今年は、5月末に韓国の亀尾市(クミ)で”アジア選手権”が行われる影響もあり、その選考レースも兼ねて、4月12日という早い日程で実施されることになった。
その舞台は、長距離で数多くのトップランナーを輩出している熊本県。日本グランプリシリーズ第1戦として例年実施されている金栗記念と同日での開催で、昼間に金栗記念を実施したあと、ナイトゲームズとして日本選手権10000mが行われるタイムテーブルだ。
世界選手権の資格は、”世界陸連”(WA)が設定する参加標準記録を突破するか、WAワールドランキングにおいて、種目ごとに設定されているターゲットナンバー(出場枠、10000mは男女ともに27)に入るかのいずれかで獲得することができる。
10000mの参加標準記録は、男子が27分00秒00で、女子は30分20秒00。日本陸連は、今大会ではこの記録を突破して3位以内でフィニッシュすれば、日本代表に即時内定することを決めていた。
しかし、参加標準記録自体が日本記録(男子27分09秒80、女子30分20秒44)を上回る、非常に高い水準。しかも、夕方から天気が崩れ始め、競技開始1時間前あたりから本降りに。このため男女各選手ともに、ワールドランキングのポイントを確実に上げていくためのタイム、そして、ポイント獲得に有利となるクミアジア選手権日本代表の座を狙っての戦略を採っての勝負となった。
男子はペースメーカーが、1周(400m)66秒で刻んでいくレースとなったなか、日本記録保持者の”塩尻和也”がスタート直後から前方でレースを進めていく。中盤でペースが落ちたことを察した塩尻は、5000m手前でペースメーカーをかわして先頭に立ったが、5200m付近で吉居大和が仕掛け、トップグループが一気に削られることに。
7000mすぎからは吉居に追いついた前回覇者で”パリ五輪”代表の”葛西潤”、その葛西にぴたりとついてレースを進めてきた”鈴木芽吹”の3人の戦いとなった。均衡が破れたのは9000mの通過を迎える直前。
3番手にいた鈴木が一気にスパートして、葛西・吉居を突き放すと、そのまま逃げきって27分28秒82で日本選手権初優勝。2位の葛西(27分33秒52)とともに、WAワールドランキングの順位を上げ、世界選手権代表に前進する形となった。

圧巻のスパートで後続を突き放した鈴木。日本選手権初優勝を飾った‐児玉育美撮影
女子10000mはマッチレースを制した廣中璃梨佳が優勝
男子同様に、強い雨が打ちつけるなか行われた女子は、ペースメーカーが序盤から安定したペースを刻んで、1周を75秒で回っていく展開に。中盤にさしかかる前に、トップグループは早くも”廣中璃梨佳”と”矢田みくに”の2人に絞られる。
2人はペースメーカーがつくる流れに乗って、想定通りのペースでレースを展開。8000mでペースメーカーが外れところで、両者の一騎打ちが始まった。廣中がペースを上げる様子を見せたものの、残り4周を迎える直前でややペースを緩め、ここからは矢田がトップに立つことに。
しかし、残り2周に入るところで廣中がスパート。懸命に粘る矢田を残り600m付近で突き放すと、31分13秒78でフィニッシュ。2年ぶり4回目のタイトルを獲得し、故障の影響でパリ五輪出場を逃した昨年の苦境から、着実な復調ぶりを印象づけた。31分20秒09の2位で続いた矢田は、2020年に出した自己記録を一気に14秒30も更新。
この結果、ワールドランキングで、今大会を欠場した”五島莉乃”(パリ五輪代表)に続いて日本人2番手の22位へと浮上し、地元・熊本で、世界選手権出場に向けて幸先のよいスタートを切ることに成功した。

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