試合終了まで残り5分、ボールを持った埼玉WKが敵陣22mライン付近でアタックを重ねる。すると、フィールド中央でボールを持った山沢京平が追加点となるFG(フィールドゴール)を蹴り込むが惜しくも失敗。
このプレーでボールを持ったS東京ベイ。自陣22mラインから相手にボールを渡すまいとジリジリとアタックを重ね、トライチャンスをうかがう。試合時間残り1分、トライラインまではまだ遠い。いよいよラストフォーンかと思われたその時、自陣15mから一気に抜け出したのは途中出場の山田響だった。左サイドラインを駆け上がる山田は、一度はタックルで勢いを失うものの再び激走を見せて執念の同点トライ。

山田響の劇的な同点トライに選手たちも諸手を挙げて吠える‐Journal-ONE撮影
最後に起死回生の同点トライを決めたS東京ベイ。ラストフォーンが鳴る中、これが決まれば劇的な逆転勝ちとなるGボールをセットする。興奮冷めやらないスタンドの喧騒にしばし間が取られた。キックに向かうフォーリー、プレシャーに走る埼玉WKのディフェンス。左サイドライン付近からゴールポストに向かい蹴り込まれたボールは、惜しくもポスト右外を追加し、試合終了までもつれた試合は29-29のドローという結果で幕を閉じた。

フィジカルバトルをドローで終えた選手たちは健闘を称えあう‐Journal-ONE撮影
経験豊かなフロントローが振り返るフィジカルバトル
この試合がここまで盛り上がった理由は、終始互角に展開されたフィジカルバトル。このフィジカルバトルに欠かせないのが、”フロントロー”と呼ばれる選手たちの貢献だ。
フロントローとは、スクラムを組む際に最前列に位置する3人のフォワード選手(PR2人、HO1人)の総称。スクラムを組み、ボールを奪い、ラインアウトに参加するなど、チームの基盤となる役割を担う選手たちには、強靭な体格と力が必要とされる。加えて現代ラグビーでは、俊敏性や瞬時の判断力など高い能力が求められる。気力体力の消耗は激しく、前後半でフロントローの選手を全て入れ替える作戦が当たり前となっている。

フィジカルバトルで奮戦するヴァルアサエリ愛(埼玉WK)∸Journal-ONE撮影
「後半は自分たちに足りない部分が多かった。詳しくはVTRを見ての判断だが、今日はセットピースが上手くいかなかった」と振り返るのは、埼玉WKのボムスコッド・ラグビーW杯日本代表のヴァルアサエリ愛選手だ。
会見でもHO・坂手淳史主将が「やりたいことができたが、相手のやりたいことをやられた部分もある」と話した通り、死力を尽くしたフィジカルバトルでは成功も課題も見えてくるとのこと。
「ラインアウトは練習した通りのプレーができたと思う。足りない部分は修正し、最終節に活かしていきたい。最終節は地元での大事な試合、しっかりと勝ってプレーオフに向けて弾みを付けたい」と、ヴァル選手は地元ファンに勝利を誓う。
ハードワークを要求されるフロントロー・ヴァル選手に体調を尋ねると、「大きな怪我なくここまで来ている。でも、もう歳だから… 今は大丈夫ですが、明日になると痛みが出てくるんです。『あっ!ここが痛い!』とかね(笑)」と、笑顔で翌日のダメージについて教えてくれた。

試合後に笑顔でボディメンテナンスについて話すヴァルアサエリ愛(埼玉WK)-Journal-ONE撮影
“三度目の正直・国立競技場での勝利”への意気込みを聞くと、「できれば準決勝から出場する権利(2位以上)が欲しい。体力的に厳しく、なんでもやらねばならいフロントローだが、経験を活かして局面の先を読むベテランらしいプレーで優勝に貢献していきたいですね」とヴァル選手。衰えないフィジカルと豊かな経験を武器に3年ぶりの王座奪還へ全力で駆け抜けると話してくれた。
スナイパーでもスポッターでもやることは一緒
S東京ベイでは、先発出場する選手を“スナイパー”、リザーブから出場する選手を”スポッター”と呼んでいる。
今シーズン、フロントローで大きな役割を果たしているPRの紙森陽太選手は、シーズン当初から大事な局面でスポッターとして出場する選手。しかし、直近の4試合はスナイパーとしてS東京ベイ重量フォワード陣をけん引している。