JDリーグのリーグ戦が終了
女子ソフトボール、世界最高峰の国内トップリーグ “JDリーグ” が10月29日にリーグ戦の全日程を終えました。
2021年、コロナ禍で沈む私たちに明るい話題を提供してくれたオリンピック・東京大会(以下、東京2020)で、2大会連続金メダルに輝いたソフトボール日本代表選手をはじめとする各国のオリンピアンたちが集うJDリーグ。レベルの高さはもちろんですが、選手たちの全力プレーやファンの応援、そして各地域で試合運営を支える地域のソフトボール愛好者の皆さんの笑顔に包まれ素敵な時間を過ごせるリーグなのです。
16チームが東西に分かれ日本各地を転戦して順位を競うリーグ戦は、創設2シーズン目となった今年も、“ビックカメラ高崎ビークイーン”(東地区)と “トヨタ レッドテリアーズ”(西地区)の連覇で幕を閉じ、日本一をかけたノックアウトラウンドにその舞台が移ります。
リーグ戦2位、3位とワイルドカードに残った5チームが、たった2つの東西女王への挑戦権をかけて対決するプレーオフ(11月11日、12日 神奈川県川崎市の等々力球場)を経て、11月18日と19日に行われるダイヤモンドシリーズで迎え撃つリーグ女王の強さは一体どこにあるのか? Journal-ONE編集部はその強さを迫るべく、リーグ戦第13節の北九州ラウンドに向かい、レッドテリアーズのゲームを取材しました。
数字で見るレッドテリアーズ -打者編
ゲームレポートを読む前に、客観的な数字として個人成績をいくつか紹介します。これによりまだJDリーグを観たことのない方でも、レッドテリアーズの強さがイメージできるのではないでしょうか?
“打率: 4割1分5厘”と、西地区の首位を独走するのは、核弾頭の石川 恭子選手です。昨シーズンは主に3番に座り、クリンアップとして走者を還すことが主な役割だった石川選手の打率は2割8分8厘。それが今シーズン、1番に打順を変えたことで卓越したバットコントロールで左右にヒットを量産するプレースタイルが見事にマッチして素晴らしい結果を残しました。
”安打数: 34本”、“出塁率: 5割2分9厘” も西地区トップであることからも、初回からレッドテリアーズ攻撃の起点として石川選手が打席に立つことで、いかに大事な先制点を取ってきたかが覗えるのではないでしょうか。
昨年の ”日米対抗ソフトボール2022” にも選出されていた石川選手ですが、今夏の “カナダカップ”、“第17回WBSC女子ソフトボールワールドカップ2023(以下、W杯)予選”、“日米対抗ソフトボール2023”、初秋の “第19回アジア競技大会(以下、アジア大会)” と度重なる国際大会でも活躍したその経験は、レッドテリアーズにとっては心強いところ。
また、石川選手の出塁をいかに得点に繋げているのかが分かる数字として、打点にも注目して見たいと思います。西地区トップの “23打点” を稼いでいるのは原田 のどか選手です。主に3番を打つ原田選手のこの数字は、石川選手の “25得点“ と2番を打つキャプテンの鎌田 優希選手の ”13犠打“ ともリンク。出塁した石川選手を鎌田選手が着実に得点圏に進めて原田選手で還すという ”定着した得点パターンを持つ“ ことが強いレッドテリアーズの特長ではないでしょうか。
原田選手は、東京2020でも日本の金メダル獲得に大きな役割を果たし、今夏も石川選手同様に過密な国際大会にも選出された選手です。今シーズン、太陽誘電ソルフィーユから移籍してきた原田選手の元気溌剌な献身的プレーに、馬場 幸子監督も優勝への大きなピースと賛辞を惜しみません。
ダイヤモンドシリーズにおいてレッドテリアーズを観る場合には、この初回の攻撃を見逃すことは絶対にできません。試合開始時間の少し前にはスタンドに陣取り、電光石火の石川選手の打席から始まる攻撃に注目することをおすすめします。
更に、打撃部門の華とも言える本塁打数も、地区トップは5番の下山 絵里選手(8本塁打、21打点)です。世界各国の主砲にも負けない飛距離を生み出すパワーと勝負強さは日本代表の次世代和製大砲として期待されている下山選手。今夏の “日米対抗ソフトボール2023” に選出されたことで、その打棒にも益々磨きがかかってきました。
4番を打つ、東京2020銀メダルのアメリカ代表・Bubba NICKLES(バッバ・ニクルス)選手(6本塁打、20打点)とのコンビを組む強力打線は、一発で塁上の走者を一掃するクリンアップの名前に恥じない結果でレッドテリアーズを牽引しています。リーグ戦で対戦する各チームのバッテリーはその攻略に頭を悩ませていましたが、負けたら終わりのポストシーズンでは更に気が抜けない打線です。
※数字は第13節まで
数字で見るレッドテリアーズ -投手編
“勝利数14、防御率0.52”。この圧倒的な数字は、日本が誇る若きエース・後藤 希友投手です。東京2020での活躍により、その名を世界中に轟かせた後藤投手はアジア大会での決勝でも素晴らしい投球を見せて日本の6大会連続金メダルに貢献! その姿はテレビでも中継されましたので、多くの方が東京2020のシーンを思い起こしたことでしょう。
後藤投手とローテーションの柱を支える三輪 さくら投手も、後藤投手とは違うタイプの右腕として今シーズンは素晴らしい成績を収めています。特筆すべきは地区最少の “9四球”。
1試合あたり1つ与えるか与えないかの与四球率は、守り勝つレッドテリアーズのプレースタイルに良いリズムを与えます。今夏は日本代表に選出され、その投球術で世界の強打者と互角に渡り合ったことでマウンドさばきもより堂々としたように感じます。
さらに後半戦からは、NCAA(National Collegiate Athlete Association・全米大学体育協会)ランキング2位を誇るUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のエースとして活躍したMegan FARAIMO(メーガン・ファライモ)投手が加入。大学通算101勝、投球回数を上回る奪三振はちょうど1,000個! その豪腕を、”日米対抗ソフトボール2022” で目の当たりにした方も多いのではないでしょうか。
昨年引退した世界屈指の大投手・Monica ABBOTT(モニカ・アボット)投手の抜けたピースにしっかりとはまったメーガン投手の豪球にも注目です。
※数字は第13節まで
試合で見るレッドテリアーズ
福岡県北九州市で開催された第13節、この節前に2年連続の優勝を決めていたレッドテリアーズは、地元・タカギ北九州 ウォーターウェーブと対戦しました。短期決戦でチームを勢い付かせるには、ラッキーガールとなる選手が登場して欲しいところ。主力選手をサポートする選手たちを色々と起用して、ラッキーガールの覚醒を促しながらも、レッドテリアーズらしい試合運びが光った試合となりました。
早速初回、先頭の石川選手、3番・原田選手の “日本代表コンビ” の安打などで2死満塁とチャンスを作ると、6番に入った山田 柚葵選手がセンター前にタイムリーヒットを放って1点を先制します。
しかしその裏1死、ウォーターウェーブの2番・佐藤 果歩選手が先発の三輪投手からライトオーバーの同点弾を放ちすかさず同点に。
すると3回、今度はレッドテリアーズのニクルス選手がレフトオーバーのソロホームラン!1球でチームに流れを引き寄せると、続く5番の下山選手もレフトへアベックホームラン‼ 一気に流れが相手に傾きかけたウォーターウェーブも、先発の今村 みなみ投手から鹿野 愛音投手にスイッチしてこの回の後続を断ち、流れを引き戻しにかかりますが、レッドテリアーズは攻撃の手を緩めません。
4回も1死から石川、舟阪 育枝選手が四球を選び4イニング連続で走者を出します。しかし、これ以上失点できないウォーターウェーブは「鹿野攻めろ!」という ベンチの檄に応え、鹿野投手が原田選手をダブルプレーに切って取り無得点に抑えます。
5回、レッドテリアーズも1失点好投の三輪投手からメーガン投手にスイッチ。ここからメーガン投手が、重い速球と浮き上がるボールで圧巻の投球を見せます。
すると6回、澤田 望愛選手の四球から、切石 結女選手のこの日2本目のヒットと石川選手の四球で2死満塁と追加点のチャンスを作ります。ここで打席に入った原田選手は、左中間を破るエンタイトルツーベースで前の打席のリベンジを果たし、レッドテリアーズに一気に試合の流れを呼び込む追加点を挙げました。
続く7回には、激しい本塁打王争いを演じる下山選手が、二打席連続となるダメ押しのソロホームランを放ち試合を決定付けるとともに、本塁打9本と初のタイトルに向け大きく前進しました。
このレッドテリアーズの波状攻撃を呼び込んだメーガン投手は、リリーフ後の3イニングスを被安打1、奪三振5と完璧な投球。悲願の日本一に期待高まるリリーフを見せてくれました。
平常心でクライマックスへ -後藤投手
試合後のインタビューに応じてくれた後藤投手は、昨シーズンにも増して “負けないチーム” になっているレッドテリアーズの強さについて、「投手陣が失点しなれば負けることはないという意気込みの中で、投手陣全員で失点しない投球術を磨いてきました。自分自身も昨年よりは負け数が少なくなってきているので、フォーカスしたことが成果として現れていると思います。」と話します。
1点にも満たない驚異の防御率については、「夏場の海外遠征の疲れも少しあって、後半戦は少し取られてしまいました。自分自身は数字に拘っているので、ダイヤモンドシリーズまでにはもう一度調整して、万全な状態でマウンドに立ちたいです。」と、強い眼差しで決意を語る後藤投手。
「(海外遠征で)得たものは有りすぎるぐらいたくさんありました。海外で蓄えてきたもの、得られるものは国内で得る経験とは全く違うものです。世界中のハイレベルな打者と対峙することも、日本代表の素晴らしい選手たちと一緒にゲームをする中で学べることも・・・ もちろん試合中以外でも1日中学ぶこともたくさんあるんです。」と、カナダカップから始まり、W杯予選、日米対抗ソフトボール2023、アジア大会と続いた海外遠征での成果も教えてくれました。
後半戦からチームに加わった同級生のメーガン投手についても、「日米対抗で投げ合ったので、素晴らしい投手であることは知っていました。メグは情熱的で気迫あふれるピッチングをする投手。タイプは違いますが、その投球やソフトボールに取り組む姿勢には刺激を受けますし、自分も負けられないという気持ちがあります。チームメイトとして一緒に戦えることは本当に心強く、守備のチームであるトヨタにおいて、三輪選手と3本柱が競い合っていけば優勝にも近づくと思います。」と、その加入を嬉しそうに話す後藤投手。
ダイヤモンドシリーズへは、「総合(全日本総合女子ソフトボール選手権)も国体(燃ゆる感動かごしま国体)も悪天候で、決勝戦を行わずに終わったのは少し残念でしたが、2冠を獲れたことは素直に嬉しいです。JDリーグではダイヤモンドシリーズをしっかり勝ち切れるよう、自分のできることをしっかりやります。昨年のダイヤモンドシリーズを経験し、あまり力を入れすぎても良くないと学びましたので、平常心で自分自身が楽しむことを忘れないように。リラックスしてマウンドに立てたらと思っています。」と、噛みしめるように決意を語ってくれました。
“らしさ” を貫き頂点へ -馬場監督
「今シーズンのリーグ戦は、やりたいことをやって勝てたことが嬉しいですね。」と、笑顔で振り返る馬場監督は、前半戦最終戦でインタビューした時と同様に、「今シーズンは選手たちの試合の入り方が良く、先制することでトヨタらしい “守り勝つ” ソフトボールができました。」と選手たちの落ち着いた試合運びを称えます。
後半戦も変わらず好調を維持し続けた要因のひとつとして、「メーガン投手の加入も大きかったですね。シーズン途中から合流なのでどんな風にチームに入ってくれるかが心配だったのですが、意識の高いメーガン投手は、早々にチームに溶け込んでくれました。トヨタのソフトボールを理解しようとする姿勢にチームメンバーも心強く感じています。後藤投手も良きライバルとして。モニカ投手とはまた違う影響を受けています。」と教えてくれた馬場監督。
「昨年のダイヤモンドシリーズでの敗戦を受け、選手たちは本当に成長してくれました、ダイヤモンドシリーズだからといって何か変わるわけではありませんが。トヨタらしい試合をすることで自ずと結果も見えてくると思います。」と、素敵な笑顔で悲願の女王の座奪取への決意を話してくれました。
JDリーグのクライマックスを見逃すな!
最後まで順位の分からない熾烈なリーグ戦を勝ち抜いた7チームによりJDリーグ女王の座を争うポストシーズン。11月11日(土)のプレーオフでは、SGホールディングス ギャラクシースターズ(西地区3位)とデンソー ブライトペガサス(東地区4位・ワイルドカード)が激突。
翌12日(日)には、日立 サンディーバ(東地区2位)とホンダ リヴェルタ(同3位)、豊田自動織機 シャイニングべガ(西地区2位)と11日の勝者が対戦し、それぞれの勝者が11月18日(土)にビックカメラ高崎ビークイーン(東地区1位)、トヨタレッドテリアーズ(西地区1位)に挑戦するダイヤモンドシリーズへと進みます。
2023シーズンのJDリーグ、クライマックスの舞台は埼玉県朝霞市にある朝霞中央公園野球場! 今年も盛り上がること間違いなしのポストシーズン。オリンピック・ロサンゼルス大会で競技復活が決まり勢い付く女子ソフトボールの国内メインイベントを観戦してはいかがでしょうか。