第96回 選抜高等学校野球大会が閉幕
32校が参加して甲子園球場で行われた”第96回選抜高等学校野球大会”。
群馬県の高崎健康福祉大学高崎高校が、2年連続で決勝にコマを進めた地元・兵庫県の報徳学園高校を3-2で下して初優勝を飾りました。高校生球児たちの熱い戦いは幕を閉じましたが、今回はいつもの大会と少し様子が異なるようです。
“低反発バット”と呼ばれる、高校野球連盟が定めた新基準のバットが今年より新たに導入され、これまでのバットよりも低反発で打球速度が抑えられ、より木製バットに近いものになりました。
これにより、甲子園での戦い方も大きく変化。その変化について1回戦を現地で観戦したスポーツライターの大島和人がレポートします。
高校野球を楽しむ視点
人生で初めて甲子園球場に足を踏み入れてから、20年以上になる。とある会社を辞めてまだ1カ月足らずだった当時の私はある日、半ば衝動的に夜行バスで関西に向かった。
調べたら2003年3月30日の3回戦だったらしい。ダルビッシュ有(東北)は高2にして注目株だったが、花咲徳栄に打ち崩されてチームも破れた。そんな試合を見たことが、今も鮮明に思い出される。
そして、あれから毎年のように春のセンバツ、夏の選手権には足を運んでいる。筆者は主にサッカー、バスケットボールを取材しているスポーツライターだが、チケットを買い、純粋な趣味として甲子園球場に足を運んでいる。
高校野球の楽しみ方は人それぞれだが、自分は可能な限り球種が判別できる「ネット裏」から試合を見ている。コロナ以後は値段が上がったとは言え4,000円弱で好位置から1日3試合、4試合をまとめて見られるのだからお得だ。
しかもプロと違って「知らない選手」「初めて見る選手」が多く、未知との遭遇を楽しめる。前年に見ていた選手でも、冬を越すと驚くほど成長していたりもする。それが高校野球ならではの楽しみだろう。
好投手が目立つ今大会
今年のセンバツは好投手が目立つ大会だった。佐藤龍月(健大高崎)、平嶋桂知(大阪桐蔭)、今朝丸裕喜(報徳学園)、吉岡暖(阿南光)、高尾響(広陵)といった投手は、特に今大会で名を挙げた人材だ。
もっとも彼らの好投が目立った背景にはちょっとした事情がある。それは新基準バット(通称「低反発バット)の導入だ。プロや社会人、大学のバットはもちろん「木製バット」だし、U18年代も国際試合は「木」なのだが、国内の高校野球は50年前から金属バットの使用が解禁されている。
金属バットは木製バットに比べて破損が少なく、費用的な負担が少ないというメリットがある。一方で飛びすぎる、打球の速度が上がり過ぎる特徴はデメリットと言えばデメリットだ。
そのために用具の基準が色々と設けられているのだが、2024年度からは新たな基準が導入された。例えば金属は薄くすると反発力が逆に上がるが、新基準バットは従来のものより「厚く」することで飛びにくい仕様となった。強い打球が及ぼす危険性を懸念したものらしい。
低反発バットが与えた大きな影響
いざ大会が始まると”低反発バット”の影響は明らかだった。特に投手が疲労していない1回戦は、外野手の頭上を超す長打をなかなか見なかった。外野手の守備位置は明らかに浅くなっていて、守備側も打球が飛ばないことを想定していた。
青森山田の對馬陸翔、吉川勇大など「木のバット」で大一番に臨む選手もいた。低反発バットよりも木製バットを用いるほうが飛距離、打球速度も上がるという判断だろう。
高校生は大人に比べて身体的に未完成で、当然ながらパワーも劣っている。過去3年間のセンバツを振り返ると、本塁打数は2021年が9本、22年が18本、23年(記念大会で試合数が例年より4つ多い)は12本となっている。つまり試合数で割ると「10試合に4本」の頻度で本塁打が出ていた。