全国大会で躍動する“ノーサイン野球”
全国26の大学野球連盟で優勝を果たした大学が集い、日本一を決める大会。第73回全日本大学野球選手権大会は、NPB(プロ野球)、MLB(アメリカ・大リーグ)へOBを輩出する青山学院大(東都大学野球連盟)が接戦を勝ちきり、二連覇を果たした。
この大学野球日本一を目指す強豪チームがひしめく大会で、唯一の国公立大学が出場。見事に初戦を逆転勝ちするなど話題をさらった和歌山大(近畿学生野球連盟)。
スポーツで秀でた能力があっても、大学の共通入学試験を突破しなければ入学できない国公立大学。特に多くのプレーヤーを必要とするチームスポーツでは、人材の確保は強豪私大と比べて大きなハンディキャップとなる。国公立大学で全国屈指のチームを作るのは至難の業だ。
国公立大学において避けられない数々の厳しい環境下にもかかわらず、全国大会に駒を進め、日本一を目指して日々活動する和歌山大硬式野球部に強く惹かれたJournal-ONE編集部は、和歌山大硬式野球部への密着取材を敢行!
緑豊かな和歌山大学栄谷キャンパスで見た、“ノーサイン野球” を実践する独特の野球観は、様々な組織でも採用したくなる組織マネジメント(以下、和大野球部マネジメント)にあることが分かった。
そして、この和大野球部マネジメントは、将来日本のリーダーとなる若い選手たち、スタッフはもちろん、大学経営や地方創生といった “地域のブランディング” にも大きな影響を与えていたのだ!
この記事では、和歌山大硬式野球部の活躍が地域に与える効能について、関係者の証言から紹介していきたい。
証言者:本山 貢(和歌山大学学長)
「国立大学法人である和歌山大学は、積極的に情報を発信し、国民の理解と信頼を得なければなりません。地方の大学の魅力をどうやってPRしていくかが重要になっていくのですが、硬式野球部はその一翼を充分に担ってくれています」と、本山 貢和歌山大学長は目を細めた。
江戸幕府第8代将軍の徳川 吉宗が紀州藩主の折に開設した、藩校「学習館」の流れを汲む和歌山大は、教育学部、経済学部、システム工学部、観光学部、社会インフォマティクス学環の4学部1学環と、大学院に4研究科を持つ近畿圏でも人気の高い総合大学。歴史と伝統ある県内唯一の総合大学でさえ、全国に向けて魅力を発信し続けることが重要だと真っ先に切り出した本山学長。
「昨年からブランド力を上げることを掲げていますが、その1つが野球だと思っています。野球だけに特化した特別入試がない中で、全国大会に出場して勝つというチームに憧れ、基礎学力を身に付けた上で野球がしたいと望んで受験してくれる学生が全国からやってきています」と、北は北海道から南は沖縄の高校まで、全国の高校から和歌山大を選び、野球に取り組んでいる部員たちがいることを教えてくれた。
「地方の大学、しかも国公立大となりますと、予算面を含めてどうしても大都市圏の私学とは差が付いてしまいます。東京ドーム(日本選手権)での試合では、応援団の太鼓もなかったので急遽、音楽教育の教員に頼んで備品の太鼓を借りて臨みました(笑)。試合には東京在勤のOBが応援に来てくれましたが、こういったOBへの案内も苦戦しています。同じ国公立大である地元の東京大学に友情応援をお願いして、野球グランドをお借りして練習するなど、私たち総出で盛り上げる知恵を出しています」と、秋の明治神宮大会に向けての期待も口にした本山学長。