朝6時半からはじまる朝練は、月曜、水曜、金曜の3日間のみ。それでも、「数年前までは朝練自体がありませんでした。大学選手権で負けて、学生たちが勝つために朝練をやりたいと言ってきたのです」と、選手自らで提案した数年前を振り返る大原監督。
「1限目の授業に間に合うよう、終わりは9時までと決めています。選手たちの練習意欲は旺盛で、冬場は日の出前から集まってくるので、『冬は日の出から始めよう』とこちらが抑えないといけないくらいです(笑)」と笑顔でグラウンドに向かいます。
16時40分から行われる通常練習も、火曜、木曜の2日間のみ。他クラブとの併用で使用日を制限されている多目的グラウンドに目を向けると、ホームベースから70m程の距離に高いネットがそびえ立つ。硬式野球に使うには少し手狭なグラウンドだ。そのため、土日は他大学に出向いてオープン戦を行うことで実戦練習を行っているという。
しかし、とても制限の多い部活動にもかかわらず大原監督は意に介さない。「時間的な制約、練習環境の制約があっても、野球にある“あるもの”を省けば、充分に全国で勝てる練習ができるのです」と和歌山大の強さを支えるひとつのヒントをくれた。
無駄を省け!の徹底でチームが変わる
個々でアップを済ませた選手たちは、早速キャッチボールに入る。和歌山大硬式野球部は、選手75人(総勢86人)と大所帯。4年生から1年生までが本塁から右翼に向かって並ぶと、70m程のネットフェンスぎりぎりまで達してしまう。
グラウンドの狭さに目が行く中、キャッチボールがはじまるとその目線はキャッチボールをする選手たちに釘付けになった。誰一人、“静止した状態からボールを投げ合う” 一般的なキャッチボールをする選手がいないのだ!
「試合中、静止して山なりのボールを投げるプレーなんて一つもありませんよね?捕球した後に一度止まって、ゆっくりと脚を上げてボールを投げることもありませんよね?」と大原監督に問われ、再度選手たちの動きを注視する。
バント処理のように、キャッチボール相手に90度横向きの体勢から地面に置いたボールを拾い、素早くステップを踏んでボールを投げる選手や、同様の体勢から鋭いバックトスを投げる選手など、それぞれが試合中のプレーシーンを想定してキャッチボールを行っている。
そうだ!和歌山大野球部は、試合や練習で必ずある「無駄」を省き続けて練習時間に充てていたのだ。と、東京ドームで教わったことを思い出した。
この日、取材のサポートをしてくれた山田 孝徳選手(4年・天理高)も、「私も初めてこのキャッチボールを見たときは驚きでした。小さな積み重ねですが、こういった日常を繰り返す中で野球に対する考え方も変わるのです」と入学当初からのことを振り返りながら話してくれた。
東京ドームで同点タイムリーを放つ活躍を見せた4番打者の山田選手だが、このときはケガで戦線を離脱していた。それでも朝練に顔を出し、我々の取材をサポートしてくれた山田選手。一日でも早い回復と最後のリーグ戦で悔いのないプレーができることを願いつつも、この貴重な機会を逃すまいと様々な解説を受けながら取材を続けさせてもらった。
高校野球日本一のチームも採用する“和大ドリル”
キャッチボールが終わると、6人が一組になり捕球と送球を組み合わせた不思議な練習が始まった。”和大ドリル” と呼ぶこの一連の練習は、チーム全体のスキルを一定のレベルに上げるに欠かせない練習とのこと。