まずは塁間距離で、先ほどのキャッチボールそのままに実戦を想定したボール回しが行われる。捕球してからすぐ投げ返すことはもちろん、ステップの数をできるだけ少なくして投げ返すことが肝心だと山田選手が教えてくれた。
キャッチボールは徐々に、ゴロ捕球、フライ捕球と捕球シーンを代えながらハイペースで進んでいく。しかもこのグループ編成は、普段から連携を取る可能性のある選手たちで構成されているため、実戦でも同様なプレーがしばしば起こるのだとか。
捕球時、送球時において徹底的に「無駄を省く」作業を重ねることにより、個々の選手のプレーはスムーズになり、選手間の連携にはスピードとリズムが生まれてくる。試合前に見せる和歌山大のノックの流麗さは、このドリルにより磨かれ、次世代に継承される伝統のプレーとなっていくのだ。
「選手個々のプレーでやってはいけないことがあるのです。捕球前にグラブをポンと叩くことです」と大原監督が各グループに目を向けながら教えてくれた。しかし、捕球前に自分のリズムを作るためにグラブを一叩きする選手はよく見かける気がするが・・・
「私たちは春先に沖縄県国頭村でキャンプを張ります。そこで、日本ハムファイターズのキャンプを見学したことがあったのです。白井コーチ(第5回WBC日本代表ヘッドコーチ)が、グラブを叩いてから捕球する癖がつくと、瞬時のイレギュラーに対応できないと指導されていました。それを聞いて、私たちもすぐに取り入れて。今では誰もグラブをポンと叩く選手はいません」と、積極的に良いものを取り入れる大原監督の指導方針が細々したところにも発揮されている。
女子高校野球の絶対王者・神戸弘陵高校女子野球部の選手たちも、この和大ドリルを愛用していると教えてくれた大原監督。「うちのチームの選手たちも、女子野球の選手たちも、フィジカルに恵まれている選手ばかりとは限りません。個人技、チームプレーの両面から無駄を丹念に削り落とすことで、恵まれたフィジカルを持つ強豪大学の選手たちが見せる正確で素早い動きと同じようなプレーができるようになるのです」と、惜しみなくタネを明かしてくれた。
この和大ドリルは、おおよそ1時間かけて様々なケースを想定して行われる。続くキャッチャーボックスからセカンドベースまでの距離をとっての送球練習では、投手役、捕手役、ランナー役を全員がローテーションでこなすドリルだ。
「面白い練習でしょ?」と、微笑みながらこちらの反応をうかがう大原監督だったが、我々の目が点になっている様子を確認すると、グラウンドの選手たちに目を向け直す。すると、和大ドリルを行っている選手全員を集め、走者役の選手たちが盗塁を狙うような集中力で取り組んでいないことに言及した。
正直、じっくりと取材をしていたが、そのような雰囲気を感じ取ることは出来なかった。しかしミーティング後、選手たちはすぐさま元の位置に戻ると、緊張感のギアが明らかに上がる。再度集中力を高めた選手たちが、あたかも次の塁を狙うかのごとく投手役の選手との真剣勝負に臨んでいた。
シートノックが “和大ドリル” の模擬試験
「和大ドリルを実戦で使えるかを試すためにシートノックがあるのです」と、ノックバットを持った大原監督が打席に向かう。
四つの塁に均等に選手たちが散らばると、まず始まったのはボール回し。このボール回しも独特だ。たった一つのボールを使い10周回し続ける。後ろにボールを逸らす場面でも、中継プレーでいち早くダイヤモンドにボールを戻してプレーを続けていた。