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取材・文:
Journal ONE(編集部)
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日本初のスポーツ会議

日本を舞台にした国際スポーツ大会、”ラグビーワールドカップ2019” “東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京2020大会)” は日本のスポーツ発展だけでなく、私たちに様々なレガシーをもたらしました。
このレガシーを活かし、スポーツによる社会の発展や課題解決に向けた議論を行うと共に、社会課題の解決やよりよい未来づくりのために、スポーツの価値を最大限に活用するスポーツ政策について協議・提言・推進しようという日本で初めての会議に参加してきました!

会場となった東京2020大会のメイン会場である国立競技場の隣にあるJAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE 岸清一メモリアルルームには、日本オリンピック委員会や日本スポーツ協会、日本パラリンピック委員会をはじめ、国・自治体・経済界などの様々な分野でスポーツに携わる人たちが参加しました。

日本スポーツ会議の目的

記念すべき第1回目の日本スポーツ会議2023。主催者したのは、一般財団法人日本スポーツ政策推進機構(以下、NSPC)です。
冒頭で挨拶に立った河村 建夫NSPC会長は、「2019年にラグビーワールドカップ日本大会が成功し、東京2020大会もコロナで無観客となったものの開催することが出来ました。多くの方から開催して良かったという声をいただいたことを踏まえながら、この機会を逃さずレガシーを発展させていこうとこの組織を創設した。」とNSPCの役割を説明します。河村

「スポーツの持つ力は、我々が想像している以上に国民に大きな力を与える影響力があります。これをどう具現化していくか。特に、地域スポーツ。部活動の問題が大きな議論になりつつあるため、今回の会議では地域スポーツの課題解決に向けてさまざまな意見を交わして、よりよい提言として発信したい。」とこの会議への意気込みが伝わる開会挨拶となりました。

スポーツの発展に向けた施策を組織横断的に検討することを目的とするNSPCですが、その活動は多岐にわたります。
そのひとつが、日本国内の政策や団体が発信するさまざまな情報と、国際的なスポーツ関連情報を一元化して紹介することで、スポーツ政策の ”今” を漏れなく共有していくスポーツ政策の情報発信事業。国・自治体・経済界などの様々な分野で連携をスムーズにするために、最新の有用な情報が得られる仕組みつくりをしているのです。
更に、スポーツ政策を推進する人材を育成するため、“スポーツ立国推進塾” を運営や、スポーツ政策研究所を組織して具体的なスポーツ政策を提言する事業も行っています。

こういった横断的な連携を促す役割を担う組織が機能し、成果となって現れてくることで、国際大会で得たレガシーが日本中のさまざまな場所で多くの笑顔を生み出すきっかけをつくってくれるのですね。

豪華な顔ぶれの登壇者

スポーツによる社会の発展や課題解決、そしてよりよい未来づくりには、多くの期待が寄せられていることが、豪華な顔ぶれの登壇者の皆さんの言葉から伝わってきます。

岸田 文雄 内閣総理大臣

「スポーツには人々、そして社会を元気にする力かあります。今年は、野球、バスケットボール、水泳など国際大会が日本で開かれます。」と、今年開催される国内開催のスポーツ大会を歓迎。
「ラグビーワールドカップや東京2020大会で生まれた多様なレガシーを着実に継続・発展させ、日本らしいスポーツホスピタリティの推進、スポーツDXの活用による成長産業化、誰もが気軽に多様なスポーツを楽しめる新たな地域スポーツの仕組みの創造などを一体的に進めることが重要です。スポーツによる健康増進、地域創生街づくり、共生社会の推進など、前向きで活力ある社会の実現に向けてスポーツの力に期待するところは大きい。スポーツを通じてよりよい未来を作っていこうではありませんか。」と、スポーツ関係者が一堂に集い、国・自治体・経済界とが連携しスポーツ政策について協議・提案・推進する “日本で初めてとなる会議” への期待を祝辞で述べられました。(VIDEOメッセージ)

永岡 桂子 文部科学大臣

「本会議のテーマである “新しい地域スポーツの創造” は、子どもからお年寄りまで障がいの有無にかかわらず誰もがスポーツに親しむ地域スポーツの体制や指導者、施設など身近な環境が整備されること。」と、ひとびとの心身の健康や交流を促進し、スポーツを核とした街づくりにも繋がる未来への可能性を話します。
一方で、「運動部活動は少子化に伴い、学校単位の運営が困難になっています。地域での子どもたちのスポーツ機会の確保が大変重要。部活動の地域連携や、地域クラブ活動移行に向けた環境の一体的な整備に加え、スポーツによる地域活性化や街づくり、町の交流拠点となるスタジアム、アリーナ整備など地域スポーツの推進に取り組んでまいります。」と課題解決へ取り組む文部科学省の決意も語っていました。(VIDEOメッセージ)

遠藤 利明 自由民主党総務会長

基調講演では、NSPC理事長でもある遠藤 利明自由民主党総務会長が、「スポーツ政策の今」と題した講演を行いました。

冒頭で遠藤理事長は、「今までのスポーツ界は組織毎に確りと仕事をし、それをスポーツ庁が取りまとめてきたと言う流れで横の連携がほとんどありませんでした。全ての組織が同じプラットフォームで議論し、政策を提言する会議がやりたかったが、ようやく経済界を合わせて政策を議論できる機会を得ることが出来ました。開催にあたりご尽力いただいた多くの関係者の皆さんに感謝しています。」と、本会議が開催された喜びを語ります。

遠藤理事長は、スポーツを支援するために活動したこれまでの経緯や、スポーツという言葉自体の概念を変えていく必要性も話します。こちらについては、Journal-ONEが遠藤利明理事長へインタビューした記事で詳しく紹介していますので、是非読んで下さいね。

「東京オリンピックで多くのメダルを獲得し、国民に多くの夢と感動を与えたスポーツではありますが、スポーツ界はまだまだ多くの課題を抱えています。所管官庁のまたがりなどの制度面はもちろんですが、組織面での横断化を進めるなどの変化を起こすことで解決していきたい。」
「中でも地域スポーツは、本当に多くの課題を抱えています。政治、経済、スポーツがバラバラで取り組んでいてはとてもでないが解決できない。多様なスポーツでの取り組みをされている人たちが一堂に会する機会を持つことで、横断的なプラットフォームとして “今年の日本のスポーツは・・・” と言う話の出来る会議を年に1回は開催していきたい。」

幅広いスポーツが持つ力を日本全体、とりわけそれぞれの地域や私たちひとりひとりの力にして、元気な日本を創っていく切っ掛けをNSPCが担うという強い決意を感じる講演となりました。

橋本 聖子参 議院議員・スポーツ議員連盟副会長

続いて講演したのは、NSPCの副理事長でもある橋本 聖子参議院議員です。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員長でもあった橋本副理事長は、その経験談も踏まえながら「スポーツを通じた社会開発」と題した講演を行いました。

「オリンピック・パラリンピック東京大会の開催にあたっては、地域の医療を逼迫させることは許されない状況でありました。そのため、選手・関係者それぞれは100回に及ぶスクリーニング検査を行いました。結果、全体で0.03%、アスリートに至っては0.01%の感染率に抑え込み、東京2020大会を安全・安心な大会にすることが出来ました。」と、スポーツの祭典・東京2020大会で、新型コロナウィルス対策を新しく開発した成果について具体的な数値を挙げて紹介しました。

「これは全ての産業、関係省庁、自治体の方々の協力があってこその成果でありました。水際から出国までバブルとバブルを作り上げ、医学的・科学的な知見で運営マニュアル化したコロナ対策。スポーツと同様にルールを作り、そのルールを守ったことが本当に上手くいった要因です。」と、さまざまな分野の横断的な協力体制とルールを遵守するアスリートたちの行動規範によるところの大きさを付け加えます。

その後、世界中でさまざまな国際大会が開催される都度、この東京2020大会モデルを活かして新型コロナウィルス感染症対策を行ってきたことを見ると、これも “目に見えるレガシー” のひとつなのですね。

また、東京2020大会の基本コンセプトのひとつ “共生社会の多様性と調和” という観点からも、「スポーツを中心に見る人、する人、支える人の三角形を中心に、医療や福祉、文化や芸術、科学技術などの様々な産業を結びつけた東京2020大会でもあった。」とその成果を紹介。
「今後の健康寿命を増進させるには、スポーツ医療が予防医療、予防医学に寄与することが出来るかが重要です。共生社会の中で “女性活躍” という視点でいえば、東京2020大会で初めて設置した女性アスリートを専門に扱う医療科が女性特有の病気を扱うことで、会期中も多くの女性アスリートの活躍をサポートしてきました。これは、スポーツに限らず社会全体でも必要なことであり、真の女性活躍をスポーツで実現させていきたい。また、障がいを持つ子ども達が教育を通じて、どうやって身体を動かす機会を作っていけるかも取り組んでいきたい。」と、東京2020大会のレガシーをさまざまな課題解決に役立てるヒントを話してくれました。

室伏 広治 スポーツ庁長官

スポーツ基本法を基に作られたスポーツ庁の講演もありました。こちらも、室伏 広治スポーツ庁長官が登壇し、「地域とスポーツ」についての取り組みを話します。

4課3参事官体制下で、障がい者スポーツ、健康スポーツは厚生労働省、地域スポーツは農林水産省、スポーツとビジネスは経済産業省、国際関係は外務省と、施策に応じてさまざまな部署との連携を必須とするスポーツ庁は、東京2020大会で得たレガシー・選手村のポリクリニック及びトレーニングセンター併設を地域にどう展開していくかを紹介しました。

「高額な医療機器の展開というよりも、医師と理学療法士、トレーニング施設との人の連携が必要だと感じています。アセスメント(フィジカル、フィットネス、メディカルのチェック)とサポート(食、メンタル、動作解析、試合分析など)まで落とし込めていくかが大事。Eラーニングなどで地域に展開することは十分可能なことです。」と、オリンピック・パラリンピックのアスリート達が好成績を収める一助となった仕組みを、各地域のひとりひとりが享受できると室伏長官は続けます。

「健康増進のために、運動・スポーツが求められています。週1回スポーツを行う人の割合を、現在の56.4%から70%まで引き上げていくことを目標にしています。特に肩こりと腰痛については運動療法によって軽減されることも分かっているのです。」と、私たちの多くが悩む肩こりや腰痛などにも、アスリートの運動療法が使えるとは驚きですね。

更に、スポーツを街づくりの主役として取り入れている地方自治体の共通する成功要因として “首長のリーダーシップ” を挙げる室伏長官。
スタジアムなどを地域のにぎわいや経済活動で活用する事例を紹介し、中学校の休日の部活動を地域に移行する取り組みでも事例集の公表やガイドラインの改訂などで受け皿の確保に向けた動きを進めていることを報告しました。

「部活動の地域移行に関する検討会議の提言を受け、スポーツ庁長官から日本スポーツ協会、日本中学校体育連盟等へ大会のあり方の見直し等を要請してきました。運動部活動及び文化部活動の地域移行等に関する実践研究事例集、総合的なガイドライン案も公表して多くの意見を伺っていき、令和5年度予算案では、地域移行を進めるための実証事業の実施や部活動指導員の配置等に係る経費が閣議決定されたことを受け、学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドラインの策定と公表を12月に行いました。」とその実施過程を説明します。

「少子化、学校数の減少は、平成元年度から10年度までの10年間で、生徒数は1,278,544名減ったものの、中学校数の減少は81校でした。しかし、次の10年(~平成22年度)では701,533名の生徒が減少し、491校の中学校が無くなりました。更に直近の10年間では(令和4年)、生徒数も355,716名減少していますが、中学校は何と751校も減っているのです。」と、生徒数の減少による部活動の存続に加え、学校単位で活動できる地域とできない地域が出てきている現状に警鐘を鳴らします。

子どもの体力低下が顕著となる一方、BMI(肥満度)は上がっており、運動することしない子の二極化も出てきています。子どもがスポーツする機会を持ち続けられるよう、地域スポーツの在り方を考えることはもちろん、それぞれの年齢や体格に合わせた適切な運動ができるような指導も大事になってくると言うことですね。

日本スポーツ会議提言2023

この後、会議で議論された ”新しい地域スポーツの創造” の内容を踏まえ、遠藤 利明NSPC理事長より日本スポーツ会議提言2023が発表されました。
“新しい地域スポーツの創造” に関する議論の内容は、こちらの記事でまとめていますので、併せて読んでみて下さいね。

提言1.新しい 地域スポーツ のしくみ づくりの推進
提言2.新しい時代にふさわしいスポーツ大会の創造
提言3.インクルーシブな社会へ、スポーツをもっとインクルーシブに
提言4.スポーツ指導者等の資質向上 および その質 の 保証に関わる体制の充実
提言5.スポーツ・インテグリティの 保護・強化
提言6.スポーツの価値の普及・推進
提言7.社会環境の多様な 変化への速やかな 対応

指導者育成の体制充実、スポーツ界の暴力・ハラスメント根絶や社会からの信頼獲得へインテグリティー(高潔性)強化なども盛り込まれた提言です。

新しい地域スポーツの創造に向けてはもちろんですが、他の項目についてもJournal-ONE独自の視点で取材を重ねて記事にしていきたいと思います。

[写真提供:日本スポーツ政策推進機構]

アクセス
JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE
  • 東京メトロ 銀座線 外苑前駅(3番出口)徒歩5分
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  • JR中央線・総武線(各停)千駄ヶ谷駅/信濃町駅 徒歩12分

 

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