2016年のパラリンピック・リオデジャネイロ大会、東京2020と2大会連続の銅メダルに輝いた “車いすラグビー”。その魅力をレポートする企画! 今回が5回目となりました。
チーム「AXE」の密着取材を通じて、競技の魅力はもちろん、選手や皆さんが楽しく取り組む姿や、車いすラグビーを応援する地域の皆さんの優しさにもふれてきたこの企画。
今回は、2022シーズンを締めくくる “第24回車いすラグビー日本選手権大会” の出場権をかけたプレーオフに出場するAXEを取材するため、日本財団パラアリーナにやって来ました!
1月20日~22日に行われる “第24回車いすラグビー日本選手権大会” の出場枠は残り2枠。AXE、SILVER BACKS、WAVESの3チームが最後の椅子をかけてプレーオフに臨みます。
3チームが総当たりで2回ずつ対戦するプレーオフは、2日間で各チーム4試合をこなす苛酷なスケジュール。どのチームも試合前から気合いの入った様子で準備をしています。
前回の密着取材④・FreedomとAXEの合同合宿(香川県高松市)では、車いすラグビーをより楽しく観戦するためのポイントをレポートしました。今回はそれを踏まえて各試合を見ていきたいと思います。高松合宿レポートをご覧になって、読み進めていただければ嬉しいです!
早速、初日の第1試合から登場したAXE。相手は北海道を活動拠点とする “SILVER BACKS” です。第1クオーター、AXEは峰島 靖選手、青木 颯志選手、乗松 隆由(たかゆき)選手、倉橋 香衣(かえ)選手のラインでスタートダッシュを狙います。
11月19日、20日に行われた「三井不動産 2022 車いすラグビー SHIBUYA CUP」で、日本代表として活躍した青木さん。その大会前のクラシフィケーションで、持ち点が2.0から3.0に変更になる事態が起こりました。それを受けて今までのラインを見直さねばならなくなったAXEが、ラインをどう調整してきたのかが注目される一戦です。
車いすラグビーでは、上肢や体幹機能の障がいの程度によって選手をクラス分けします。それぞれの選手はクラスに応じて持ち点が与えられ、障がいが重い選手ほど少ない点数がつけられます。持ち点0.5~3.5点に分かれた選手の合計が、4人で原則8点以下となるように編成しなければなりませんので、ラインと呼ばれるコートでプレーするメンバーのユニットを幾つか用意して試合に臨みます。
選手交代に制限がない車いすラグビー。試合展開や相手のライン、選手の疲労具合に応じて、さまざまなバリエーションのラインを投入して試合を展開する “頭脳ゲーム” でもあるんです。
「AXEは多くの日本代表選手や強化指定選手が所属しているため、個々がしっかりとゲームを組み立てることのできる “オトナ” のチーム。ラインの変更についても落ち着いて対応してくれました。」と、AXEの中谷 英樹ヘッドコーチが試合後に語っていたとおり、序盤から落ち着いたプレーで試合を優位に進めていきます。
SILVER BACKSのハイポインター 加藤 義隆選手をしっかりとマークして、着実に点差を広げていきます! 第1クオーター後半には、青木さんを残して、ニック選手、東京2020銅メダリストの羽賀 理之(まさゆき)選手、小川 晃生選手を投入し、更に点差を広げていきます。
続く第2クオーターは、峰島さん、青木さん、共にパラリンピック・リオデジャネイロ大会銅メダリストである、岸 光太郎選手、山口 貴久選手のラインが更に強固なディフェンスで、相手の攻撃の芽を摘みとっていきます。この大会の直前、香川県高松市で行われたFreedomとの合同合宿において山口さんが、「ディフェンスは、バンパーでぶつけるのではなくタイヤを寄せて相手の動きを止めるのがテクニックです。」と教えてくれたとおり、ハイポインターに鋭い動きをさせないよう、ラグ車(ラグビーの競技用車いす)全体でガッチリと抑え込んでいます。相手も必死で抜け出そうと試みますが、全く動かない・・・ 岸・山口の “リオ銅メダルコンビ” が見せる驚きのディフェンステクニックは、是非その目で直接見ていただきたいオススメプレーです!
ハーフタイム明けの第3クオーターでは、更にそのディフェンスの強さが発揮されます。「徐々にチームでの存在感を高めている。」と岸さんがその活躍ぶりを賞賛する橋本 惇吾選手がコート中央付近で猛烈なプレッシャーをかけていきます。これにより、相手の速攻はことごとく封じられていきました。また、スペースに素早く切り込んでパスルートを遮断したり、ハイポインターの進路を塞いでディフェンスが戻る時間を稼いだりと献身的な動きがAXEの勢いを更に加速させます。
東京2020銅メダリストの倉橋さんも負けていません! いつもベンチで試合展開を読み、岸さんと「ヒソヒソ」話している姿が印象的な倉橋さん。そのゲームの流れを読む力がコート場で発揮されます。ハイポインターが勢いよく進んでくる進路にスッと侵入して、ほんの少し触れたかと思うと・・・ ハイポインターの突進が停まってしまうんです!
これは!? まるで武士の居合を見ているようで、そのテクニックに思わず立ち上がってしまいました。
ローポインターによるコート中盤での早いディフェンスにより、速攻での得点ができないSILVER BACKSは、キーエリア付近でのセットプレーで攻撃の流れを引き戻そうとします。相手の動きを読んでの第4クオーターは、AXEの作戦が更に功を奏した展開となります。このクオーターにフル出場した羽賀さんが、得意の早い攻守の切り替えでSILVER BACKS選手たちを翻弄していきます。
キーエリア付近のディフェンスでは、フォーメーション通りのローポインターの鉄壁ガードを活かし、ニックさんや峰島さんが相手のボールを奪いに行きます。ボールを奪った!と思った瞬間、既に羽賀さんが相手陣内に独走しているではないですか!
ハイポインターからのロングパスを難なくキャッチした羽賀さんが、独走でトライラインに通過していくシーンが何度も繰り返され、更に点差を広げながら初戦を勝利で飾りました。
この日行われた3戦にいずれも勝利したAXEは、2日目を待たずしてのプレーオフ進出が確定! 日本選手権へ無事にコマを進めることができました。
「とにかく勝てて良かった。どの試合も序盤からスタートダッシュをかけて、試合の主導権を握ろうとチームで共有していたことができました。」と試合後に乗松さんが語った通り、全ての選手が得意なプレーを見せたAXEの良さが際立ったプレーオフの初日となりました。
2日目は2試合が行われ、この日唯一2試合を戦ったWAVESの健闘が光りました。
WAVESは大阪を活動拠点に今年結成された新チーム。
「何せ初心者も多くて、何が足りないのか、何が必要なのかも分からずにがむしゃらに突き進んできました。」と話してくれたのは、ハイポインターの河野 悟選手です。
河野さんは、JR西日本のラグビー部 “レイラーズ” でフッカーとして活躍していたラガーマン。Journal-ONEの運営会社も同じジェイアールグループなので、どこの職場にいたの?どんな仕事をしていたの?などと会社の話でも盛り上がってしまいました(笑)。
河野さんを始め、競技歴の浅い選手が多いWAVESですが、日本代表選手が揃うAXEにも果敢に勝負を挑んでいきます。点差が付いてもとても楽しそうにプレーする選手たち姿は、「スポーツは楽しんでするもの」という本質に改めて気付かせてくれます。
ひときわ楽しそうにプレーしていた山本 卓矢選手も、競技歴は僅か9ヶ月!「練習も試合も、車いすラグビーが楽しくて仕方ありません!ラグ車もやっと来たばかりなんです。」とあっという間の今シーズンを充実した表情で振り返る山本さん。聞けば山本さんもジェイアール、しかも私たちと同じグループのJR東海に勤務されていたとのこと。
「本格的に車いすラグビーをやりたくて、今はアスリート雇用を目指して日々トレーニングしています!絶対に、日本代表のユニフォームを着ます。」と、近い将来の夢を力強く語ってくれました。
今回初めて話を聞いたWAVESは、香川県高松市で行われたFreedomとAXEの合同合宿に参加する予定だったんです。取材を楽しみにしていたのですが、急遽合宿の参加ができなくなってしまったWAVES。こんな形で取材できて本当に良かったです!
来シーズンはAXEやFreedomのように、選手やスタッフの活躍を皆さんにレポートしたいですね。
試合後、日本代表ヘッドコーチのケビン・オアーさんがWAVESの選手たちを集めて、チーム強化のポイントを説明しています! AXE密着取材記②・千葉ロータリーカップ編で、ミニ大会にも視察に来るケビンコーチの驚きのフットワークの良さを紹介しましたが、結成1年目のチームが日本代表ヘッドコーチに直接教えを請う機会がある、車いすラグビーの “世界の近さ” も驚きですね。
さて、2日目の試合も素晴らしいプレーが連発したAXE。特にWAVES戦での第4クオーター後半に出場した、岸さん、山口さん、乗松さん、小川さんのローポインター・ラインは、攻守にわたる卓越したテクニックが光る面白い試合となりました。
「ローポインターだけの国際大会もあって、そういった試合でも磨いてきた技術を発揮できました。」と岸さんが話すとおり、ハイポインターをひとりでガッチリと抑えるラグ車のホールディング力や、攻撃のスペースを消していく判断力、キーエリア前の硬いフォーメーションなど、見応え十分の4分間。中でも、ハイポインターと遜色ないチェアワークでトライを重ねる乗松さん! トップスピードに乗る早さや、鋭い切り返しのフェイントにWAVESの選手たちも追いつけません。
残り0.4秒でタイムアウトが掛かります。AXEのスローインとなるラストプレイです。ここで投入されたのは、峰島さんと羽賀さん。峰島さんがキーエリアで待つ羽賀さんにロングスローを入れ、そのままトライするというビッグプレーにチャレンジするようです!
キーエリアでの激しいポジション取りが行われる中、ホイッスルと同時に峰島さんがコントロール抜群の高い球を投げ込みます。一瞬静まりかえる場内・・・ 甲子園の常連校・専修大学松戸高校の野球部で外野手としてプレーしていた羽賀さん。フェンス手前の大飛球を捕るかの如く両手を高く掲げてナイスキャッチ!
めったに見ることのできない、バスケットボールのブザービートのようなプレーで試合が終了しました。
試合後に中谷ヘッドコーチが、「先ずは4連勝で1位通過できて良かった。試合前に選手たちと共有した戦術のとおり、ルーズボールを最後まで諦めずに追いかけ、コート中央での早いパスカットをするなどの積極性ある試合展開ができたのが勝因です。(持ち点変更となった)青木選手や攻守の鍵となるローポインターの選手たちの戦術も上手く機能しました。」と語ったように、日本選手権に向けて手応えを掴んだAXE。
1月20日から22日にかけて行われる、国内クラブチームの日本一を決める “第24回 車いすラグビー日本選手権” は、千葉ポートアリーナでの有観客試合が予定されています!
8チームがPool AとBに分かれて総当たりで戦い、その上位2チームが決勝トーナメントに進んで2022年の日本一を決める戦いは、どの試合も激戦必至。ひとりでも多くの方に車いすラグビーの魅力を肌で感じていただける絶好の機会です!
抽選の結果、AXEが入ったPool Bは、Okinawa Hurricanes(沖縄)、BLITZ(東京)、RIZE CHIBA(千葉)の4チーム。同じくプレーオフ2位で日本選手権に進むSILVERBACKSは、Pool AでFreedom(高知)、Fukuoka DANDELION(福岡)、TOHOKU STORMERS(福島)と対戦します。
大会概要は、一般社団法人 日本車いすラグビー連盟の第24回 車いすラグビー日本選手権ページで見ることができます!皆さん千葉ポートアリーナで選手たちの素晴らしいプレーを応援して下さいね。