4月29日に日本武道館で開催された、令和5年全日本柔道選手権大会を観るためプライベートで来日したとのこと。その後、日光の東照宮や中禅寺湖を巡って、この日(5月2日)の墓前祭に参加するというハードスケジュール!
それでも、「ちょっと疲れましたね。」と笑って話すカレシさんに疲れの色は見えません。
早速、柔道歴を聞いてみますと、ノルマンディ出身のブルアンさんは「5歳から柔道を始めました。きっかけは、幼稚園で”ライバル”に殴られて泣いて帰ったことなんです。家に帰って父に殴られたことを話すと、父からも “なんでやられたんだ!” と殴られた(笑)。それで直ぐに柔道を始めました。」と笑いながら教えてくれました。
カンヌ出身のカレシさんは、「私は10歳から柔道を始めました。柔道家だった叔父さんが父に薦めたことがきっかけで道場に通い始めたんです。ここまで続けられたのは、そこで出会った素晴らしいコーチのお陰だったと思います。」と懐かしそうに当時を振り返って話します。
「当時、柔道場に行ったら学校で”ライバル”だった子が先に入門していて “えっ!?” と思ったのですが、色々と柔道の技や練習のやり方を教えてもらっているうちに仲が良くなって・・・それからは良き友人になったんです。」と柔道が育んだ友情のエピソードも教えてくれました。
「17歳の時、私たちは共にフランスのナショナルチームに入りました。それからの付き合いです。当時はベルリンの壁があった時代で、東側諸国と交流するなんて想像することも出来ませんでした。しかし、フランスが東ドイツ、オランダと交流試合をすることになり、東ドイツに入国して試合をしたことがあるんです。それが一番印象に残っていますね。」と2人の友情と当時の印象的な出来事をカレシさんが話してくれました。
国家間の対立があっても、スポーツはそれを超越して人と人との交流を実現する。嘉納師範がオリンピックを日本に誘致して、平和な世界を作ろうとしていた思いが実現していたということなんですね!
73歳の今まで続けている柔道の魅力とは?
現在73歳というカレシさんとブルアンさん。半世紀以上も柔道に携わっている魅力について聞いてみました。
「柔道からは “人を尊敬すること” を学びました。また柔道を通じて、友情にも恵まれとても偉大な方たちと会う機会もありました。競うことが中心であった柔道を終えた後、素晴らしい師匠に出会い、何回か講道館に連れてきてもらい、柔道のスピリットを学ぶことができました。それが一番大きいですね。」と、カレシさんは時を経て新たな柔道の魅力に出会った歴史を話します。
「パン屋だった父に、“将来は柔道の先生になりたい。” と話したところ、”先ずはパンづくりの資格を取得しなさい。その後は好きにすれば良い。“ と言ってくれたので、パン職人になる資格を取り、ノルマンディからパリに出てINSEP(後述)で柔道を学びました。」と、ブルアンさんも柔道に魅せられてパリに来たことを振り返ります。
「その後、私は柔道をしていた縁で警備会社に就職しました。ボルボのCEOやルイ・ヴィトンの子孫のボディガードをしていました。そして、Bernard Jean Etienne Arnault※(ベナール・アルノー)さんのボディガードをするときに自分の警備会社を作ったんです。10年ほど前に会社をリタイアし、今は柔道に関する仕事だけをしています。」とブルアンさん。
※現モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンの会長兼CEOで “フランス・ファッション界の帝王” と呼ばれる世界屈指の大富豪
柔道が想像も出来なかった素晴らしいご縁を結び、ブルアンさんをずっと柔道に携わられてきた運命を感じます。
INSEP(インセップ)で学んだ指導者の道
ブルアンさんとカレシさんが共に学んだINSEPとはどんな組織なのでしょうか?
1945年に設立されたFrench National Institute of Sport, Expertise, and Performance(フランス国立スポーツ体育研究所)、通称INSEPは学業、トレーニング、スポーツ医科学を融合したフランスを代表するエリートアスリートの強化拠点。パリのヴァンセンヌの森の中心部にある28ヘクタールの並外れたキャンパス内にある様々な施設を使い、オリンピック・パラリンピックに出場するトップアスリートたちのトレーニングセンターの拠点としては勿論、フランスのエリートスポーツ政策における大きな影響力を持つ研究所なんです。
選手個々に適したトレーニングプログラム、医療、研究、メンタルヘルスを提供すると共に、トレーニングや競技指導者の育成なども行っているこの研究所で、柔道の指導者としての道を切り拓いたのですね。
「私たちが学んだINSEPでは、柔道は常に礼儀正しくするということを教わりました。そして、友情、セルフコントロール、謙虚さを学び、相手を尊敬するということにたどり着きます。柔道はスポーツを超えたものであり、人生における教えそのものであることを、指導者として子どもたちに伝えていくことが何よりも重要だと考えています。」と、柔道の教えと目的を話すカレシさん。