NTTジャパンラグビーリーグワン2022-23プレーオフトーナメントもいよいよラストゲーム。5月20日に国立競技場で行われた決勝は、リーグワン連覇を狙う埼玉パナソニックワイルドナイツと、初優勝を狙うクボタスピアーズ船橋・東京ベイの対戦となりました。
ラグビー人気の高まりを実感
前日に秩父宮ラグビー場で行われた3位決定戦は、日中から激しく降る雨の中での試合でしたが、この日は朝から初夏の清々しい青空。試合開始の2時間も前から、競技場周辺には多くのファンが詰めかけ、決戦が始まるのを心待ちにしています。
無観客試合となったオリンピック・パラリンピック東京大会では、高いフェンス越しからでも見ることの出来なかった国立競技場のネームオブジェ。新型コロナウィルス感染症から復活を遂げた今、その横に大きなラグビーボールのオブジェも据えられ、多くのファンが記念撮影に並んでいます。
ワイルドナイツのグッズを買おうと並ぶファンや、試合前にビールを片手にキッチンカーで買ったソーセージを頬張るファンの、スポーツを心の底から楽しめる日がやってきたことを喜び、楽しんでいる姿に感動します。
この試合の観客数は、41,794人とリーグワン最多記録を更新!1部から3部までのシーズン総入場者数も745,311人と、昨年の487,047人からジャンプアップしました。
コロナ禍があったことを差し引いても、日本で開催された “ラグビーワールドカップ2019” によるラグビー人気の高まり、そして今年9月にフランスで開催される “ラグビーワールドカップ2023” での日本代表の活躍を待ち望むラグビーファンの増加が数字となって現れているのではないでしょうか。
オープニングの演出に気持ちが高まる
両チームの選手たちが入場するゲート前では、今年9月から開催される “ラグビーワールドカップ2023” に向けて日本代表の認知度向上と大会の機運醸成などを図るために新設された、ジャパンラグビーアンバサダーである櫻井翔さんの登場にスタンドから歓声が起こります。
櫻井さんが、この試合の勝者に贈られる優勝トロフィーをお披露目すると、いよいよ始まる決戦に向けてスタンド全体が高揚感に包まれていきます。
更に、両チームが整列し国歌斉唱が始まりました。歌うのはシンガーソングライターのAnlyさん。
国立競技場いっぱいに広がる、Anlyさんの透き通った声で歌う “君が代” を聞きながら、これから始まる決勝戦での健闘を誓う選手たちの顔がビジョンに映し出されると、まるで自分が “ラグビーワールドカップ2023” の試合を観戦しているかのような気分になります。
国歌斉唱が終わり、万雷の拍手を浴びてポジションに散っていく選手たち。いよいよNTTジャパンラグビーリーグワン2022-23の王者を決める戦いが始まりました。
緊張感ある試合展開-前半戦
いよいよ大一番!大歓声に包まれ、試合は開始直後から互いにキックで陣地の取り合う展開となりました。
互いに決定打なく膠着状態が続きますが、10分にワイルドナイツがノットロールアウェイの反則でボール得ると、PG(ペナルティゴール)を選択します。蹴るのはもちろんこの人!準決勝の横浜キヤノンイーグルス戦で、9本全てのキックを成功させてPOM(プレイヤー・オブ・ザ・マッチ)に輝いたSO(スタンドオフ)松田 力也選手です。
松田選手は9月からフランスで開催される “ラグビーワールドカップ2023” の日本代表としても活躍が期待される選手。蹴る位置はほぼ正面。ワイルドナイツファンはもちろん、会場にいた誰もが「先ずは、3-0でワイルドナイツが先制。」と思ったに違いありません。
いつも通りにボールをセットし、高く蹴り上げたボールは何と!ポールの間を通ることなくゴールラインを越えていきました。ゴール失敗です。
すると12分、中央付近からスピアーズのSH(スクラムハーフ)谷口 和洋選手が相手ディフェンスの裏にキックでボールを出すと、ワイルドナイツのFB(フルバック)野口 竜司選手がハンブルしたボールを谷口選手が自らキャッチするスーパープレー!
これをCTB(センター)のライアン・クロッティ(Ryan Crotty)選手が繋いで、22mラインでラストパスを大事に受けたのは、WTB(ウイング)の木田 晴斗選手です。ここから一気に加速し、左サイドライン側のゴールに向かって一直線に疾走します!
今度は、スピアーズファンはもちろん、会場にいた誰もが「5-0でスピアーズが先制!」とトライ寸前の木田選手に釘付けになっていたところ、もの凄い勢いで青い “何か” が木田選手に衝突してきました!衝突された木田選手は、サイドライン外へ吹き飛ばされながらもゴールラインに向かってボールを持った手を伸ばしますが、僅かに届かず。
タックルしたのは、ワイルドナイツのWTB マリカ・コロインベテ(Marika Koroibete)選手です!オーストラリア代表として、“ワールドカップ2023” での活躍が期待されているコロインベテ選手は、先週のプレーオフ準決勝でも、その比類なき瞬発力とスピードでイーグルスを突き放すトライを挙げた選手。オフェンスだけでなく、ディフェンスでも素早い対応でスピアーズの先制トライを防ぎ、会場から大きな拍手が沸き起こります。
膠着状態を破ったのは20分、2度もワールドカップ・オーストラリア代表として出場したSOのバーナード・フォーリー(Bernard Foley)選手です。ノットロールアウェイで得たPGのチャンスに今シーズンの得点王が挑みます。
普段はとても明るいフォーリー選手。この試合前に行われた公開練習後のインタビューでも、記者たちに向かって「皆さんは、オレンジアーミーですか?」と日本語で質問して笑いを誘うなどユーモア溢れる選手です。
何度も何度もキック練習に余念の無かったフォーリー選手は、ワールドクラスのプレッシャーにも負けず、冷静にキックを成功させました。ようやく得点が入り、スピアーズが3-0と先制です!
更に26分、ゴール正面でオフサイドから得たPGのチャンスに登場したのは、またしてもフォーリー選手。今度も確りとキックを成功させ、6-0と点差を広げました。
ラインアウトやパス、スクラムで今まで見られないミスが続くワイルドナイツ。34分にゴール正面で得たPGを松田選手が決めて6-3と反撃に移りたいところでしたが、前半終了間際の38分に、またもや立ちはだかるフォーリー選手のPGにより9-3と点差を戻されて前半を終了します。
一進一退の攻防に会場の興奮はMAXに!-後半戦
後半もキックの応酬。主導権争いの膠着状態が予想された中、口火を切ったのはリードしているスピアーズでした。6分にまたもPGのチャンスを掴むと、フォーリー選手が3連続でキックに成功。12-3と引き離したスピアーズが試合を優位に進めるかに見えました。
流れを変えたいワイルドナイツは、10分に精神的支柱であるHO(フッカー)堀江 翔太選手を投入して反撃の機会を作ります。すると、18分にラインアウトからモールで押し込んだワイルドナイツは、堀江選手が持ち込んでこの試合初めてのトライ! 代わったSOの山沢 拓也選手がPGを決めて、12-10と一気に点差を詰めてきました。
持ち前の動きを取り戻したワイルドナイツは、25分に山沢選手からのロングパスを右サイドライン付近でキャッチしたWTB長田 智希選手が鮮やかに飛び込んで逆転トライ!王者・ワイルドナイツがついに12-15と試合をひっくり返します。
リーグ戦を僅か1敗という強さでここまで勝ち進んできたワイルドナイツの本領発揮に、ワイルドナイツファンから大きな歓声が起こります。
残り時間は終盤の15分となりましたが、得点差は僅かに3点!次に得点を奪ったチームが優勝に近づくというスリリングな展開に、会場のファンたちは好守に死力を尽くす両チームの選手の一挙手一投足に悲鳴、喚起、歓声を送って後押しします。
すると19分にとてつもないプレーが飛び出しました!ハーフウェーライン付近のスクラムから、SHの藤原 忍選手が選択したのはパスではなくハイパント。落下地点に向かってワイルドナイツとスピアーズの選手が激走します。
このボールをワイルドナイツの野口選手が取ったか!?いや、こぼれ球を抑えたのはスピアーズのWTB根塚 洸雅選手!タックルを引きずって5mラインまで一気にゲインしたスピアーズは、再び藤原選手の球出し。これを受けたのはキャプテン・CTBの立川 理道選手。
「(攻撃を選択した意図は)正直、ひらめき。正面に相手ディフェンスが待ち受ける中、横で木田が『俺にくれ』ってオーラを出してくれた。最初にそのオプションなかったので、勝手に出た。」と試合後の会見で話した立川主将が選択したのは、キックパス!
誰もいないサイドライン左側、駆け抜けた木田選手が両手で丁寧にボールを受けると、そのままトライして17-15と再逆転に成功です!
このビッグプレーに、フラン・ルディケ(Frans Ludeke)HCを始めとするスタッフ、ベンチの選手たち、そしてオレンジアーミーも会心の笑顔を見せて喜びます。
しかし、まだ2点差。PGでも逆転となるワイルドナイツは、アタックの連続で攻撃を仕掛けスピアーズにプレッシャーを掛けていきます。ペナルティを犯せないスピアーズディフェンス陣も必死に食い下がりますが、徐々に敵陣に入り込むワイルドナイツにビッグチャンスが生まれます。
細かくパスを繋ぎ、スピアーズのディフェンスを混乱させたところにボールを持ったのはコロインベテ選手!
マークに付く、スピアーズのFBゲラード・ファンデンヒーファー(Gerhard van den Heever)選手を引きつけ、右サイドにノールックパスを出した先には野口選手!一気にサイドラインを突き抜けるかと思われたバスを野口選手が取れずにラインアウト。絶好の逆転のチャンスが潰れます。
残り1分、スクラムからボールを支配するスピアーズは、自慢の重量フォワードでゆっくりと時間を掛けて攻め続けます。
グラウンドで抱き合って喜びを爆発させる選手、跪いて涙を流す選手、それを見ているオレンジアーミーの皆さんも、様々な感情を爆発させて喜びを分かち合います。
ワイルドナイツの選手たちも寄ってきて、ノーサイドのハグで健闘を称え合います。
この試合のPOM(プレーヤー・オブ・ザ・マッチ)には、逆転のキックパスを放ったキャプテンの立川選手が選ばれ、ようやく笑顔を見せてくれました。その後、準優勝のワイルドナイツには準優勝賞金の2,000万円が、そして優勝のスピアーズには優勝賞金5,000万円が渡され、トロフィーと共に栄えあるウイニングセレモニーに国立競技場は大きな歓声に包まれました。
長い道のりを経て噛みしめる喜び
2016年からスピアーズの指揮を執る南アフリカ出身のフラン・ルディケHC(ヘッドコーチ)は、「7年間の会社の支援、選手たちや家族にも多くの犠牲を払い、共にやってきたことで達成できた。積み上げてきたものを、ようやく優勝につなげられた。」と、栄光への長い道のりを振り返って喜びを噛みしめながら話します。
2度の準決勝敗退を経て初めて決勝に進み、頂点に立った感想を聞かれると、「感情はスペシャル。ベーシックなところを80分間やり続けたことが結果につながった。」とやさしい表情で振り返りました。
同じく2016年から主将としてチームを引っ張ってきた立川 理道選手。静かに言葉を選びながら今の気持ちを教えてくれます。「悪い意味ではありませんが(勝った瞬間は)『あ、優勝したな。』と。感情が爆発したわけではなく… 優勝トロフィーを掲げてからは、感慨深く思いましたし、これから徐々に実感が湧いてくるのかもしれません。」
続けて立川主将は、「優勝できたのはオレンジアーミーの皆さんのおかげ。(トップリーグの前身の)トップ・イーストの苦しい時期から、会社の皆さん、OB、スタッフには根強くサポートしてもらった。少しでも、恩返しできていたらと思います。」と、周囲への感謝を話します。
「きょうの試合を作り上げたのは両チーム。ワイルドナイツに敬意を表しながら、喜びたいと思います。自分の人生でトロフィーを掲げるシーンは、横で見ていることばかりだったので、自分が掲げる立場になった(今日の)景色は想像も付かなかった。」と、今日の素晴らしい試合を振り返ってくれました。
死力を尽くして胸を張る王者
敗れたワイルドナイツのロビー・ディーンズ(Robbie Deans)監督は、「(試合を)振り返りたくない。振り返らないといけないですか?」と会見場で笑いを誘った後、「今日は冷静さを失っていた。決してチームの選手は負け犬ではない。今までいろいろ達成してきたし、ここから学んで成長していくと思う。自分たちはまたここに戻ってきます。何人かの選手はワールドカップに出場するでしょう。こういった経験も生かしていけると思う」と、揺るぎない選手たちへの信頼と更なる飛躍を話します。
「今日はミスが多かったし、勝ちに値しないプレーをしてしまった。スピアーズのプレッシャーは強かったが、焦りが焦りを生んだ自分たちに問題があった。ひとつのミスがまたミスを生んでしまう、負の連鎖の時間帯があった。」と、肩を落とし試合を振り返る坂手 淳史主将。
「うちはみんなで繋いでいくいいラグビーをする。ただ今日は負けてしまいました。しかし、自信は失っていません。何か変えなければならないようなラグビーをするチームではない。」と胸を張り、「キャプテンとして成長できたし、チームもアップデートできた良い1年でした。今年も1年、ありがとうございました!」と爽やかに会見場を後にしていきました。
戦いのその先へ
「準決勝から厳しい試合が続き、本当に死に物狂いで戦いました。」と、晴れやかに話してくれたのは準決勝のサンゴリアス戦で先制のトライを挙げたスピアーズのPR紙森 陽太選手。
「素早い攻守の切り替えと連携を練習し続けた成果が出ました。バックスの動きがとても良く、自分たちも良い展開で攻守に臨むことが出来ました。」と、素敵な笑顔でチーム一丸となって掴んだ優勝への道のりを振り返ります。
優勝セレモニー直後でリラックスしているマルコム・マークス(Malcolm Marx)選手は、来るべき “ラグビーワールドカップ2023” に向けて、「(南アフリカ代表)発表はまだされていないが、来るべき時に備えて先ずはブレイクしたい。」と話します。
プレーオフ前の公開練習後、合宿前の1週間だけのショートブレイクで南アフリカに戻り、家族にエナジーを貰ったと話していたマークス選手。特に、昨秋に誕生した愛娘・Kenna(ケナ)ちゃんとの再会について話を聞くと、「彼女は僕にとって特別な存在。早く会って、素敵な彼女からまた力を貰うよ。」と、素敵なパパの笑顔を見せてくれました。
同じ南アフリカ代表での活躍が期待される、ルード・デヤハー(Lood de Jager)選手は、「セットピースで時間を掛けてゆっくりとプレーするヨーロッパスタイルと異なり、スピード感ある日本のアタッキングラグビーはとても勉強になった。」と、今シーズン日本でプレーした成果を教えてくれます。「(南アフリカ)代表の招集を前に、先ずは今日の試合からの回復とリラックスに時間を充てたい。」と、ワールドカップへの意気込みを話してくれました。
NTTジャパンラグビーリーグワン2022-23は、クボタスピアーズ船橋・東京ベイが悲願の創部初優勝を果たして幕を下ろしました。
しかし、今年のラグビーはこれから更にヒートアップしていきます!
9月からフランスで開催される “ラグビーワールドカップ2023” には、リーグワンで活躍した選手たちが桜のジャージに身を包んで躍動します。
また、Journal-ONEで紹介してきた多くの外国選手も各国の代表として優勝を目指します。
ラグビーイヤーの2023年は、2019年の “ONE TEAM” フィーバー以上に私たちを熱狂させてくれること間違いなし。日本で身近なスポーツになって来たラグビー。その感動と興奮を体感するために、来シーズンは是非お近くで行われるラグビーの試合を観戦してみてはいかがでしょうか。