2回戦からの登場となるダニエル選手を近くで見ようと、小志田先生に促されて第4試合場に向かいます。4月のグランドスラム・パリで金メダルを獲得しているオランダのKORREL Michael(マイケル・コレル)選手との対戦を見つめる小志田先生の視線も鋭くなってきました。
序盤から効果的に攻めることのできないダニエル選手は、消極的な姿勢で指導を受けて攻めに転じます。小志田先生が、腰から入って技を掛けるジェスチャーを何度もすると、”待て” の時間に目を合わせたダニエル選手がうなずきます。その後、懸命に技を仕掛けるダニエル選手でしたが、試合時間終了寸前に、逆に技ありを取られて悔しい初戦敗退となりました。
「試合は相手が決まった時から、4分間をどのようにメリハリをつけて戦っていくのか。しっかりと戦略を練って臨みます。この一戦は、腰を入れて技を掛けていく戦略でしたが、気持ちが負けて攻め切ることができませんでした。」と悔しそうに振り返る小志田先生。「もちろん、戦略通りにいかないこともあります。その日の自分の身体のキレもあるでしょうし、相手が想定外の技を繰り出して来る場合もあります。そんな時こそ、試合中に自分を冷静に見つめる必要があるのです。”待て” の合間には、自分を見つめなおす時間が2、3秒あります。そこで、自分の置かれている状況を冷静に判断して攻め方を考えなければならないのです。」と、試合中に選手がどのようなことを考えるのかを教えてくれた小志田先生。
「今回は(初戦敗退)残念な結果となってしまいました。五輪代表選考には非常に厳しい状況になりましたが、最後のヨーロッパでの大会に賭けるか…」と、8年間本当に親子のような関係で取り組んできた絆の深さが滲んだ表情が印象的でした。
日本の柔道家が紡ぐ世界との絆 –新たな希望の光
IJF(国際柔道連盟)に加盟する205の国と地域。その中で日本を含むアジア地域には43もの加盟国があるのです! 中でも今大会でグランドスラム初のメダルを獲得したトルクメニスタンという国にコーチとして派遣された日本人が居ることを知る人は数少ないのではないでしょうか。
その柔道家は、徳野 和彦さん。元コマツ監督も務めた徳野さんは、現役時代には世界選手権(1999年のバームンガム大会)男子60㎏級で銀メダルにも輝いているのです。埋蔵量世界第4位の豊富な天然ガス資源を背景に高い経済成長率を実現してきたトルクメニスタンは、2028年のロス五輪に向けて柔道を強化しているところ。その強化を担う指導者として徳野さんを引き合わせたのが講道館だったのです。
男子66kg級で、その期待に応えたのはAGAMAMMEDOV Hekim(アガマンメドフ・ヘキム)選手でした。1回戦から3連勝して準々決勝に勝ち進んだアガマンメドフ選手は、フランスのBOUBA Daikii(ダイキー・ブバ)選手に敗れたものの、敗者復活戦で3位決定戦へと駒を進めます。
3位決定戦ではランキング5位の格上、今年のグランドスラムでは2度の銀メダルを獲得しているモンゴルのBATTOGTOKH Erkhembayar(バットグトフ・エルヘムバヤル)との熱戦を繰り広げます。両者2つの指導を受けて後のない状況でゴールデンスコアに入ると、更に2分近くの続いた攻防を経て、ついにアガマンメドフ選手が抑込技で勝利しました! 立ち上がったアガマンメドフ選手が自らの胸に記したトルクメニスタンの国旗を誇らしげに指差す姿に、会場からは大きな拍手が起こっていました。
2023年3月からコーチに就任した徳野さんと、トルクメニスタンの選手たち。その素顔を大会後に取材することもできましたので、公開をお楽しみに!
Journal-ONE編集部は、初めての柔道国際大会 “グランドスラム東京” の取材を通して、ハイレベルな国際大会には開催年、男女、それぞれの階級ごとに本当に見どころが豊富であることが分かりました。オリンピックという時間軸だけで観てしまう傾向の強い競技柔道ですが、実際に会場で観戦することで今まで気付かなかった柔道の魅力を見つけることができたのです。
日本人の私たちが想像する以上に世界中で親しまれている “柔道”。国際大会の観戦を通じ、世界の柔道熱を感じることで、オリンピックの競技観戦もさらに面白くなることは間違いありません。