柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、世界中の柔道家たちが憧れる畳で稽古をする初心者の筆者・矢澤昌之(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影
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加賀さんと組んで3~4回攻守を入れ替えます。互いに逃れたり抑え込んだりと集中して取り組んでいますと、身体全体が熱くなりじんわりと汗が出て息が上がってきます。「相手との距離、また畳との距離といった “非日常的な近さ” が自分にとってまさに異世界でした。知らない土地へ旅すること、言葉の通じない海外へ行くことも異世界ですが、日常生活の中で “いつもより一歩近づいてみる” ことで覗くことのできる異世界があることを教えてくれた今回の講道館朝稽古には感謝ですね。」と加賀さんが話していたとおり、時間を忘れて異世界を楽しみました。柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、有川勇貴先生(六段)に組手のポイントを教わる加賀さん(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影

有川先生にお願いして、私と加賀さんがそれぞれ受、取として袈裟固を体験させていただきます。先ずは加賀さんが有川先生の技から逃れる場面です。フン!フン!と加賀さんが力を入れますが、全く動きません・・・ 「ここまで決まると有段者でも逃れることは難しいのですが、身体を密着させてスペースを空けないことで、力を入れなくても相手は動けなくなるのです。」と、抑え込むポイントを教えてくれる有川先生。

今度は私が有川先生に袈裟固をかける場面です。教わった通り、有川先生に体を預けて隙間無く抑え込んでいたと思っていましたが、スッっと有川先生が動いた瞬間にあっという間に技が解け、今度は私が袈裟固をかけられた状態になってしまいました!「脇に少しスペースがあったので、そこから一気に腕を抜くことができましたよ。」と涼しい顔で抑え込む有川先生。柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、有川勇貴先生(六段)に崩袈裟固をあっさり返される筆者・矢澤昌之(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影

腕力で相手を抑えつけないと言いますが、一体有川先生はどこに力を入れるのですか?と尋ねると、「あばら骨の下辺りにある筋肉を締める位ですかね。」と答えた瞬間、一気に身体が抑えつけられて息ができません・・・ そもそも、その部位の筋肉はこんなに収縮するのか? その部位の筋肉を強めるだけで息もできなくなるのか?と苦しみながらも感心して聞き入ってしまいました。柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、有川勇貴先生(六段)に力の入れる箇所を教えていただく筆者・矢澤昌之(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影

更に、「折角なので、絞め技も体験してみましょうか?」とニッコリ微笑む有川先生。絞技とは抑込技、関節技と合わせた、固技32本に分類される技。並十字絞、逆十字絞、片十字絞、裸絞、送襟絞、片羽絞、胴絞、袖車絞、片手絞、両手絞、突込絞、三角絞の12種類があり、素人でも分かる “必殺の強力技” です!

「実際にかける寸前までやってみます。本当にかかってしまうと、とても苦しいので(笑)。」と話す有川先生の笑顔に、一同沈黙・・・ その沈黙を破り、最初に臨んだのは加賀さん。「しない後悔より、して後悔。」と前向きな加賀さんの頸動脈(けいどうみゃく)に有川先生の袖が触れた瞬間、「ウッ!」という声と共に顔が真っ赤になってしまった加賀さん。もちろん、私も次に実演していただきましたが、手を添えられただけで息苦しくなるんです!柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、有川勇貴先生(六段)に絞め技を掛けられ顔色が変わる加賀さん(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影

この体験には続きがあります。それは、落ちた後の正しい活法。絞められて落ちるのは、頚動脈洞反射によるもの。頚動脈の血流が遮断されると迷走神経が過剰な反射を起こし、心臓にその情報が伝わり徐脈(拍動が異常に遅くなる)となります。すると、血圧が低下して脳幹へ行く血液が少なくなり脳幹での酸素量減少で失神状態に陥るという仕組みです。

意識がなくなりスッと落ちた場合、頚動脈の血流が回復すれば意識は戻るため、すぐに活を入れて起こす必要があるのです。

落ちた人をうつ伏せにした状態から、両腕で背中をグッと押し込んで上半身から脳に向けて血流をうながすことで意識が戻るという訳なのです。

少ない時間でも効果的な指導で柔道技を体験することができた初心者の私ですが、それを実戦で使ったり、いつまでも記憶し続けるには継続的な修練が必要です。しかし、様々な理由で続けることができなくとも、実際に柔道家の先生たちと組ませていただいたり、試合で選手たちが見せる動きのポイントを体感することで、柔道への理解や関心が深まったことは間違いありません。柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、初心者指導をする向井幹博先生(七段)と有川勇貴先生は紅白帯を締める(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影来年に迫った、オリンピック・パリ大会やその代表選考となる国内試合など、益々目にする機会が増える柔道競技を観戦する際にも、ここで得た経験がより柔道を観る楽しさを大きくしてくれるでしょう。今から、柔道競技の観戦が楽しみになります。

礼を学び、日本人であることに誇りを持つ

海外で柔道が人気である理由のひとつに、日本人が持つ礼儀正しさが身に付くという話しを良く聞きます。先生方が醸し出す柔道家のオーラには、この礼儀がしっかりと身に付いているからこそ。そんな先生方から、柔道における礼儀を学ぶことも「あぁ、柔道の生まれた国である日本人で良かったなぁ。」と体感することができる朝稽古の魅力でした。柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、ずらと並ばれた上村春樹講道館館長(八段)を始めとする先生方の凜とした立ち姿(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影

稽古の開始時と終了時には必ず、嘉納師範のお写真に向かって坐礼(講道館では ”座礼” ではなく “坐礼” と書くのです!)をした後、先生方と対峙して坐礼をします。坐礼を基本とする講道館では、その坐礼の仕方にも実戦を想定したやり方があるんです。柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、稽古開始前後に全員でする座礼(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影

「坐礼は、片膝ずつ畳に着けて先ずは膝で立っている姿勢になります。その際、足の甲は畳に着けずに足のつま先を立てた状態にして下さい。こうすることで、座る直前に攻撃されても反応できるという訳です。」と、有川先生が正坐(講道館では ”正座” ではなく “正坐” と書くのです!)するまでの作法を実践しながら解説します。なるほど!常に気を抜かない姿勢がここにもあるのですね。

「正坐した際は、足の甲同士は重ね合わせずに親指同士のみを重ねて座ります。楽な姿勢で両手のひらを腿(もも)の付け根に置き、礼と同時に腿を滑らせるように手を畳の上に持っていきます。手で “お握りくらいのハの字” の形を作って両指は6cmほど空けると綺麗な坐礼になります。」と、凜とした坐礼を見せる有川先生の姿は本当にカッコイイ! 教わった通りにするだけで、既に一端の柔道家になった気分になります。柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、有川勇貴先生(六段)に座礼の作法を教わる筆者・矢澤昌之(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影

「立礼は、つま先を少し広げて坐礼と同じく手のひらを腿の付け根から膝上位まで滑らせることで綺麗な姿勢となります。」と教わり、こちらもその通りに試すと背筋が伸びて綺麗な立礼となりました。日本人は何かと礼をする機会が多く、海外でも私たち日本人をみると礼(実際にはお辞儀のようなもの)をしてくる外国人の方が多いですよね?

部活動や年始のお参りなど、子どもの頃から礼をする機会が多いため何気なしに頭を下げていた私。講道館で習った坐礼、立礼を身に付け、日本人であることに誇りを持って海外でもしっかりとした礼をしたい!と決意を新たにしました。

坐礼、立礼を正しくすると、全体的に姿勢も良くなります。ため息が出るほど凜とした立ち姿、座り姿が特に印象的だったのは、三浦 照幸(八段)先生。三浦先生は、オリンピックで2度、世界選手権で7度金メダルを獲得した女子柔道界で最も有名な柔道家のひとりである『YAWARAちゃん』こと谷(旧姓 田村)亮子さんの全盛期を支えた、有名な柔道家です。柔道の総本山・講道館が初めて企画した朝稽古、三浦 照幸先生(八段)の凜とした立ち姿(講道館大道場にて)-Journal-ONE撮影

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