和歌山県にある高野山は、毎年世界中の旅行者や参拝者を受け入れてきました。その自然の美しさと重厚な歴史が人々を惹きつける、人気の旅先です。また、ここは高野山真言宗(密教)の中心地であり、日本の有名な巡礼地でもあります。そんな高野山で、1200年の歴史を持つ仏寺である恵光院に滞在した私は、究極の体験をすることができました。
高野山とは
117もの寺が立ち並ぶ聖なる場所、高野山は、真言密教の日本の祖・弘法大師がひらいた高野山真言宗の聖地です。
総本山金剛峯寺の僧侶、中村さんの説明によると、弘法大師は中国で密教を学んだ後、寺院を建立する場所を見つけるために唐の港から三鈷杵(仏具の一つ)を投げ、三鈷杵の流れ行く先を探す旅に出たのだといいます。日本に戻り、弘法大師は神のお使いとされる2匹の犬に出会い、静寂に包まれ、山に囲まれた平らな土地へと導かれました。なんとその場所に、唐から投げた三鈷杵があったのです。そして、この地に真言密教の根本道場を建立することとし、高野山となりました。この歴史は、金剛峯寺の美しい襖絵で再現されています。
高野山の中心地であり日本で最も大きい墓地として知られる奥之院の御廟では、弘法大師は今もなお瞑想していると信じられています。寺院の元執事長で高野山在住ガイドの田村暢啓さんの案内でめぐる奥之院ナイトツアーでは、今も1日に2回、僧侶が御廟に食事を運んでいるのだと説明がありました。
奥之院は総長2キロで、20万基以上のお墓があります。その多くが下から「地、水、火、風、空」を表す5つの大きな石を積み上げたもので、その石の上に第六感を表す形がないものがあります。多くの参拝者が、弘法大師のそばに葬られたいと願いました。だから、ここには武将や著名な人、皇室のお墓もあるのです。静かな墓地の間を歩くことは、それ自体が精神的な修行であり、心を静めるものでもあります。
恵光院に泊まる
高野山で仏教文化を体験する一番の方法は、お寺(宿坊)に泊まることです。英語が通じるということで、私は奥之院にほど近い恵光院への宿泊をすすめられました。恵光院の宿泊者は、阿字観、朝の勤行、護摩祈祷、写経といった体験ができます。護摩祈祷は毎日行われており、写真も撮影していいことになっています。
宿坊はホテルではありません。そこに住まうこと自体が、僧侶が行う修行のひとつなのです。客室は清潔で居心地がよく、共同浴場があります(専用浴室付きの特別室もあります)。朝食と夕食は精進料理。季節の野菜と高野山名物の胡麻豆腐を使った仏教式のおいしいベジタリアン料理でした。
阿字観
恵光院で最初に体験したのが、午後4時半から始まる阿字観と呼ばれる瞑想でした。美しい装飾の施された静かな道場で、僧侶の深山法宏さんが英語で行ってくれました。これは私がこれまでに体験したことのない瞑想でした。目をわずかに開き(仏像のように)、両手を合わせ、親指をかすかに触れ合わせる。阿字観の瞑想の目的は、宇宙と一体になることだそうです。いろいろな考えが頭をよぎってしまうのは普通のことで、そうした考えは庭の小石であるかのように捉えるのです。注目すればとても重要であるように思える小石でも、庭全体で考えればそれほどではない。頭に浮かぶ考えも、これと同じこと。深山さんが世界中で経験されたという精神修行(インドでのヴィパッサナー瞑想の体験など)が、幅広い知識となって表れています。この啓発的な瞑想は、家でもぜひ続けていきたいと思いました。
朝の勤行
宿泊者は、朝6時半から行われる朝の勤行に参加します。これは先祖に供物をし、礼拝をすることで自分自身を浄化する儀式です。額にお香をかかげてから焼香台に置くことで、自分自身の心と身体を清めることができるといいます。朝のこの神聖な空間は、私を別の領域へと連れていってくれました。僧侶が唱えるマントラとシンバルが私の体中に響き渡り、体験を終えた後は元気になり、新しくなった自分というものが感じられました。
護摩祈祷
朝7時からは、密教独特の護摩祈祷が行われます。住職である近藤説秀さんが、薬草や油、木を火にくべ、太鼓の音に合わせた詠唱が部屋を満たします。火は仏の知恵を表しており、木札(願いごとを書くために宿泊者の部屋に備え付けてある)は人間の欲望、つまり苦しみの根源を象徴しています。この木札を燃やし、願いごとの成就を祈るのです。一定のリズムで刻まれる太鼓の音と、踊る炎が魅惑的で、恍惚とした気分に包まれました。本当に刺激的な体験でした。
高野山の仏教文化
高野山は、仏教や精神世界に興味のある人には絶対に訪れていただきたい場所です。高野山で目覚めが変わったという人が多いと聞きますがが、その理由がわかった気がしました。