ですから、色々な国内・地域オリンピック委員会(NOC)の役員やIOCの方々に会う度に「本当に行動が制限された中での大会となり、アスリート達の調整に負担を強いてしまい本当に申し訳なく思っている。」と申し上げるのですが、ほぼ全員から、「山下、どうして詫びるんだ。こうして日本で開催出来た。これだけで我々は感謝しているんだ。」「世界中のアスリートは、日本で開催してくれた。そのことに対して感謝の気持ちを持っている。」と温かい言葉を返してくれます。
大会が終わって2ヶ月後、ギリシャのクレタ島で国内オリンピック委員会連合(ANOC)の総会がありました。
ここでも、登壇して発表する各国代表の方々が必ず「まずは東京2020を開催してくれた日本に対して心から感謝申し上げたい。」とご挨拶され、様々なNOC会長と話しをする度に、「コロナ禍の中でも日本だから開催出来た。日本でなければ開催出来なかったよ。」と言ってくださいました。
アスリート達にはコロナ禍で不安な思いをさせた大会でしたが、開催出来て良かったと思います。
そして、終わった後で多くの国民の方から開催して良かったとポジティブに捉えて貰ったことは本当に良かったと感じています。
また、今年の2月には北京で冬季オリンピックがありました。中国は国の威信を賭けてしっかり準備されていました。
中国の組織委委員会の関係者の方々に「良い環境下で調整できて感謝する。」と申し上げると、中国の方々は一様に「今回は、東京2020の成功を受け、日本の関係者から色々なことを学ばせてらった。」と言ってくれたことも、(東京2020を)開催して良かったと思う理由の一つです。
現役時代、日本代表選手として様々な大会に参加しましたし、引退後は柔道全日本のコーチ、監督として携わってきました。全日本柔道連盟でもJOCでも選手強化に関わって来ました。
そういう意味では、常に心はアスリート、或いは現場の指導者と一緒にありたいと思っています。
その目線から振り返っても、開催出来て良かったことは間違いありません。日本だけで無く世界中のアスリートも同じだと思います。
コロナ禍の中、結果として無観客での開催という選択肢しか無かったと思います。
しかし、観客がいる中で世界中のアスリート達に開会式の入場行進をさせたかった。また、様々な競技会場でも観客の応援を受けて競技させてあげたかったと感じました。
私は、JOCの仕事で色々と世界に行く機会がありますが、世界の情報を正確に把握することで見える世界が異なります。
東京2020で世界中から多くのアスリートや関係者が来て、事前キャンプを始めとする様々な交流を行うことで、我々国民が世界へ目を向けていくまたとない機会だと思っていました。
先ずは、我々が国内外の情報を把握し、自分たちの立ち位置に気づくこと。
そして、もっと我々日本に関わる大事な海外のニュースや、世界がどう動いているのかを他国の目線から知る必要性に気付くこと。
その上で、世界の人たちに日本人、日本の文化、食などを含めて紹介する。
こう言ったチャンスを失ってしまいました。
でもコロナ禍で開催出来たことだけでも素晴らしいのに、少し欲張りすぎかもしれません。
東京2020の大会ビジョンの一つに「多様性と調和」があります。
東京2020を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とするというものです。
開催前、日本社会が他の先進国と比べて、パラアスリート、パラリンピックに対する興味や関心について温度差があることを危惧していました。
この部分においては、バリアフリー、ユニバーサルデザインの整備が今回の東京2020で大きく前進したと思います。これが更に進展していくことを期待しています。
加えて、人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩するというコンセプトもあります。
将来、もっともっと多くの人たちが日本にやってくる。日本で生活する。そうした人たちとの違いを認め合いながら生きていくという意味での調和を実現する。
これを実践するに絶好の交流機会でありましたが、コロナ禍により実現することが出来なかったことは残念です。
東京2020レガシーを引き継いで
東京2020に向けては、自国開催のオリンピックを成功させるという事で、国の方からも様々な形で手厚く支援がありました。